自閉症(発達障害)の理解②

前回もお話ししましたが、自閉症は単なる社会面の障害ではなく、脳機能の障害です。
脳機能の障害により、障害のない子どもと同じ環境にいても情報の受け止め方が異なります。

たとえば、指し示す動作をしたとき、定型発達の子どもは指の先の対象物を注視しますが、自閉症の子どもの中には、指の先端そのものをじっと見つめる子どもがいます。
このため、同じ場での保育や教育でも、見ているポイントが異なると、教師の話の受け止め方が変わり、意味が理解しにくくなる場合があります。このように自閉症と非自閉症の子どもでは、物事の見方、捉え方、学び方が異なります。
このことを理解し、子どもたちとのコミュニケーションに工夫を凝らすことが大切です。

自閉症スペクトラムの人たちには、視覚的な方法を用いるなど、彼らの脳機能に合わせた教え方や関わり方が効果的です。
暗黙的な学習が苦手なため、言葉だけでなく、絵や写真など視覚的なツールを用いて、明示的にルールを教えることが有効です。
自閉症の人たちはルールが学べないわけではなく、学び方が異なるのです。

教育や療育においては、「みんなのためのルールブック」のような、具体的な行動を示すツールが役立ちます。このようなツールは、日々の生活で子どもたちがルールを理解しやすくするためのものです。重要なのは、ルールを単に叱って教えるのではなく、一つずつ丁寧に教えることです。

また、次に示す例も考慮に入れる価値があります。たとえば、私がしばしば紹介するのは、人との適切な距離感に関する例です。自閉症の人の中には、友達との適切な距離感を保つのが難しく、近すぎると注意されることがあります。
しかし、学校の先生がこの問題に対応するのは一般的に難しいです。その理由は、人との距離感を教えることが、通常、自然と学ばれるものだからです。
その結果、先生方は、それができない子どもにどう対応すれば良いかわからなくなります。実は、これも暗黙的な学びの一例です。

自閉症でない人は、特に家庭外で、自然と社会的距離感を学びます。
例えば、先生が子どもと話すときは通常、適切な距離を保ちます。同じように、友達同士も、年齢が上がるにつれて適切な距離を保つようになります。子どもたちは、これらの様子を見ながら、人と話す際の適切な距離感を自然と学びます。
しかし、自閉症の人は、このような暗黙的な学びを自然と行うことが難しいです。そのため、具体的に「手を伸ばしても触れない距離で話しましょう」と教えるような指導が必要になります。

さらに、自閉症の人の場合、初めに覚えた行動が、別の環境や人の前では上手く発揮されないことがあります。
これは「コンテキスト・ブラインドネス」と呼ばれ、特定の環境や人と結びつけて学んだことを他の環境や人に適用するのが苦手であることを意味します。
たとえば、家で親とできたことが、学校ではできなくなることがあります。このため、家庭での練習を学校で活かせるように、視覚的な支援ツール(絵カードなど)を用いることが大切です。

視覚的な手がかりは、自閉症の子どもたちにとって特に有効です。
例えば、絵カードを使って手洗いのステップを示すことで、家でも学校でも同じ手順で活動できるようになります。
また、活動の始まりと終わりを明示することで、彼らが次の活動に移りやすくなります。視覚的なサポート、具体的で直接的な指示、そして環境や人が変わっても一貫した教え方をすることで、自閉症の子どもたちの学習と適応を助けることができます。

また、左側の棚に教材を置き、真ん中の机で勉強し、右側の「おしまい箱」に片付けるという流れで子供たちが勉強することがあります。
これは非常に重要なポイントであり、物事を左から右へ、上から下へと順番に並べながら進めることで、子供たちにプロセスを示していくのです。
この方法で教えることにより、次に何をすべきかが、家庭での活動にも応用されます。
例えば、左から右に物を並べると、子供は左側から手を伸ばし、その順番に進めるべきことが理解しやすくなります。
また、上から順番に重ねることで、上から取るべきだということが理解しやすくなるのです。
療育で採用されたやり方を日常生活に取り入れることで、左から右、上から下といった共通のやり方を採用することで、子供たちが求められていることを理解しやすくなります。

サンドイッチを作る際も、具材を左から右に並べていきます。
そして、パンを一枚取り、次にマヨネーズを塗り、ハム、チーズ、レタスを重ね、またパンを重ねます。
これも実際には左から右への流れで、やるべきことを示しています。このように、日常生活で左から右に物事を整理して進めることができると、さまざまな場面で混乱なく活動を進めることができます。
左から右への流れは、療育で学んだことを家庭でも活かすことができ、これが日常生活での活動にも活用されています。

これは歯科医院で実践されたことですが、通常、子供たちは歯科衛生士と一緒に歯磨きの練習をします。
例えば、「じゃあ前歯から磨きましょう。1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9」と数えながら丁寧に磨いていき、「おしまい」と言われた瞬間に、子供が椅子から立ち上がって帰ろうとします。
その後、別の箇所を磨くように指示されると、「1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9」と磨いてまた「おしまい」と言われると、子供が再び帰ろうとします。この行動を繰り返していました。

しかし、その子供がある工夫をしてからは、立ち上がらなくなりました。
それは、9本の歯ブラシを用意してもらい、毎回「おしまい」と言うたびにその歯ブラシを「フィニッシュボックス」に入れるようにしたのです。これにより、子供は9セット磨くことが分かり、現在はそのセットと歯科医院で使用する手順書を使って、自宅でも自分で歯磨きをしています。
このようなアイデアは療育と同じですね。
このような方法が生活の場面でも役立ちます。

子供たちは自閉症であるためにいろいろな混乱をするかもしれませんが、適切に方法を変えることで、子供たちに合ったやり方で取り組めるきっかけがあります。家族が悩んだときに、周囲にいる先生やその他のサポートをしてくれる方々と一緒に、子供たちに合った工夫を考えていけたらと思います。

以前、世界中の自閉症の専門家たちが、コロナ禍の中でゲームをしたりする時間の重要性について発信していました。
これは、コロナ禍において不安感から逃れることができなくなってしまう人がいるためです。
例えば、「空気感染するかもしれない」「新たな変異株が流行っているかもしれない」といった不安から、気持ちが逃れられなくなってしまう子供たちがいます。
そうした子供たちに対して、世界中の自閉症の専門家は、家族で一緒にゲームをしたりする時間を大切にしましょうと呼びかけています。なぜなら、ゲームのように好きなことに没頭する瞬間は、コロナのことから気持ちが外れる時間となり、子供たちにとって非常に重要だからです。

このアプローチは、コロナ禍だけではなく、一般的にも適用されます。
例えば、ある子供が、母親に注意されたことによって、友達を失わないかという不安から抜け出せなくなるケースがあります。
そうした不安から気持ちを逸らすために、好きなことに没頭する時間を持つことは大切です。もちろん、不安が強い子供に対しては、一つ一つ丁寧に説明することも重要です。
しかし、クラスで安心を与えるためには、適切な行動をとることも大切です。
そして、そうした不安から逃れるために、好きなことに没頭する時間も大切にする必要があります。

子供に不安を感じさせ、行動を改めさせる方法は、自閉症の子供たちにとって特に負担になることがあります。
例えば、子供を少し怖がらせるような言い方をすると、その恐怖が増幅され、子供が抱える不安が大きくなることがあります。
そうした負担を軽減するためには、子供にしてほしい行動だけを伝えることが重要です。

また、子供に話をするときには、必要な情報だけを提供することが大事です。
たとえば、「弟を叩いたり揉め事を起こしたりしないで、ママのところに来なさい」と伝える際に、弟との争いに焦点を当てると、子供の注意がその方向に引き寄せられ、本来伝えたい「ママのところに来る」という行動に注意が向かなくなることがあります。
そのため、子供に伝える情報は簡潔で、目的に直結するものにすることが効果的です。

これらの点は、自閉症の子供たちにとって特に重要です。
彼らは、注意が細部に集中しやすく、全体像を見ることが難しいため、与えられた情報に対して適切に反応することが難しいことがあります。
そのため、彼らの特性に配慮し、必要な情報を適切に提供することが、彼らの成長と発達をサポートする上で重要になります。

余談ですが、「後でできるよ」と言われても、子供たちには「後」という時間がいつなのかわからないため、具体的に何を終えた後にそれができるのかを知ることが大切です。
具体的に示された時、子供たちがそのやりとりを理解し、対応できるようになります。

自閉症の子供たちには、細部に集中しやすく、全体像ではなく部分を見る特徴があります。 
これは、複数の活動を順序立てて行うことが苦手であることと関連しています。
具体的な活動の工程が曖昧になると、動けなくなるか、途中でやりきれずに終えてしまう子供もいます。
たとえば、学校では、多くの指示を口頭で一度に受けると、何からどの順番で行えばいいか混乱しやすいです。
そうした混乱を抱えやすい子供たちには、やるべきことのリストや手順を明確にすることで、楽になります。

子供たちにとって安心できるのは、「いつも通りのやり方」です。
しかし、それが固執しているように見えることもあります。
実は、子供たちはそれ以外のやり方をどう進めればいいかわからず、唯一の流れが「いつも通りの流れ」であるためです。
このように、活動を整理し、順序立てて進められるようにすることが、自閉症の子供たちにとって非常に大切です。

お片付けや掃除など、身の回りの活動は、多くの子供たちにとって難しいものです。
しかし、これは「自閉症の子供たちができない」のではなく、「できるようにするための方法が異なる」ということを意識することが大事です。
例えば、お家の片付けや掃除をする際、何をどの順番にするかを明確にすることで、子供たちが取り組みやすくなります。

最後に、自閉症の子供たちは、聞いた内容を具体的な画像や映像に置き換えるのが得意ですが、言葉を抽象的なイメージに置き換えるのは苦手です。
そのため、具体的な指示や手順が明確に示されることが、彼らにとって理解しやすい方法となります。
次回のテーマでは、子供たちへの具体的な伝え方や教え方に焦点を当ててお話を進めていきます。


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