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2.2 4月1日(その3) いきなり!自己紹介〜「ステーキ」だったら嬉しいのに〜
(これまでのあらすじ)
小学校事務室に初出勤。学校に辿り着けず、ようやく着いたら即どっかへ移動。
摩耶の到着で、応接室の総勢6名は「ダークスーツご一行」として移動開始だ。
先頭のシャキシャキしたショートカット女性が、この学校の教頭のようだ。
胸を張って、のしのし歩いていく。
その後ろについて、摩耶も入れて一列で、男女5名が廊下を歩いていく。
「校長室」のプレートが下がった部屋のドアから、めちゃくちゃナイスタイミングで、男性が出てきた。
先頭の教頭が
「皆さんお揃いになりました!」
と報告。校長らしき男性がうなづき、そこから先頭に立つ。
あーごめんなさーいと摩耶は思う。
一応時間ギリギリの8時14分で着けてはいたのでそこまで良心は痛まないのだけれど、
「教頭先生的には、きっとアレだと遅刻認定だったんだろうな」
と、摩耶はさすが学校勤務経験者だけに、
場にルールを制定できる立場の人が下す、その都度の独自ジャッジ
というものについて、存在を意識している。
校長、教頭に続いて、職員室の前方に入っていく。
職員室は、人の密度がとんでもないことになっている。
コロナ禍真っただ中だってのに、ディスタンスもへったくれもありゃーしない距離感で、教職員が座っている。
(ええええなんじゃこりゃ〜!激狭じゃないここ!!)
後方に荷物を置いてからパイプ椅子に座ると、摩耶は思う。
キツキツのムンムンだ。
彼女のいた高校の職員室は、もっと、机の間隔もゆったりしていた。
全員で押し黙って、大勢の人に見られているのは快適な状況じゃない。
校長と副校長が小声でやりとりをしている中、摩耶は
(早いとこ状況が動かないかな……)
と、落ち着かない。
「えーと」、ようやく校長がしゃべり始める。
「みなさん、おはようございまーす」
「おはようございます」、皆が返す。
「また4月1日が始まりました。
この後の予定も詰まっていますので、サクサクと参りましょう。
まず最初に、新しく本校に着任された皆様から、ごあいさついただきましょうか。
前任校、お名前、簡単に自己紹介ということで、あーコロナ禍ですので恒例の
『お迎えの会』はありませんから、この場でそれなりに、長め……長すぎてもアレですが(ここで一部から笑いが起きる)、短くない程度で、自己紹介をくださいますようお願いいたします。
そんな私は、校長しております、小比類 牧男です。
えーではですね、まず最初に、河合先生からお願いします……」
いきなり自分が指名されるという地獄は回避できたが、それでも摩耶は憂鬱だ。
自己紹介が、摩耶はとても苦手だからだ。
(うわー……いきなり、自己紹介かぁ……
「ステーキ」だったら良かったのに……
【摩耶は、胃腸の強い女。午前8時台からのステーキウェルカムな人なのだ!】
教員から始まった感じだが、ここに並んで座る何人が教員なのか、つまり私の前に何人いるのかはは、わからない。
すぐ順番が来たらどうしよう……。
他人が喋っている内容とか、長さだとか思いっきり参考にするべきだけど、緊張で耳がイマイチ働かない。
順番が、次の教員(荻野先生と言ってた)に回っても、こんな感じで摩耶は考えがうまくまとめられない。
「……という感じなのですが、ゆっくり、そしてもちろん必要なスピード感もうまくミックスして、一日でも早く馴染んでいけたら、と思っております。
どうか皆様、よろしくお願いいたします!」
新規採用の、屋久島先生という方も話し終わってしまった。
自己紹介スピーチをうまいことまとめ終えた感じに対して、場のメンバーが評価を与えるかのような拍手が鳴り響く。
「はい、ありがとうございました」と校長が言う。「では、事務の、邪馬さんから、ごあいさついただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。」
来た。
だめだ、何も考えられなかった……。
「邪馬摩耶といいます。事務です。……
……
あ、よろしくお願いします」
まばらな拍手。え、終わり?的な当惑。おいおい大丈夫か、的なものも感じつつ。
「あ、邪馬さん、以前のご所属どちらですっけ」、校長が補足する。
「東博多高校事務室です」
「はい、ありがとうございました。事務室も学校の大事なポジションですので、頑張って務めてくださればと思います。では次の方で……」
ああ、もう、全然ダメだったなぁ……
そして……
まだ朝始まったばかりなのに、もう疲れ切ったよわたしゃ……
摩耶は内心でため息をつく。
【摩耶、お疲れ。でもほんと、ここでくじけてる場合じゃないぞ。
普通の一日と、長さも密度も違う。それが小学校の4月1日。
まだまだ、ぜーんぜん、解放してあげられないんだわ……】
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