神田川の秘密 やればできる人と川の融合 済美公園の巻(1)
二十一の2 やればできる川と人との融合(斉美公園)・・(1)
大宮橋の工事はまだ終わっていなかった。左岸の遊歩道は閉鎖されている。
次の宮木橋下流も工事中で、左岸の遊歩道は閉鎖、「調節池及び大松橋の下部工をつくっています」ー令和3年2月26日までーの看板が遊歩道を塞いでいた。
宮木橋の次が大松橋なのだが、ここは大規模な工事の真っ最中で、大松橋そのものが取り外されて存在しなかった。仮橋を渡って右岸を歩き、二枚橋まで来ると遊歩道は左右の両岸とも通行止め。
迂回して一般道に出た。鬱蒼とした大木の茂みに隠れるように建てられている豪邸が一区画を占拠していた。平家造なのか、植え込みの樹々で屋根さえ見えない。屋敷を外界から遮断している高いセメント塀を回り込んで、荒玉水道道路に架かる斉美橋(セイビハシ)で善福寺川に戻った。
鴨が川面に群れていた。
遊歩道のフェンスに肘をついてしばらく鴨の泳ぐ姿を眺めた。実に姿勢が良い。首をピンと伸ばし、顔はまっすぐ正面に向けている。上流へ、下流へと動き回っているが、体は少しも揺れていない。が、水面の下に見え隠れす水掻きは休むことなく忙しげに動いていた。意外に見栄っ張りな性格なんだと得心した。どれもこれも二羽一対の組み合わせで、群れから少し離れたところに一羽だけでいる鴨は焼けクソなのか、イラついているのか、その辺りをぐるぐる回りして、やたらと動きまくっていた。止まったと思ったら、何度も首を流れに差し込み、持ち上げては左右に振っていた。
「まあ、落ち着けよ。情けないやつだ。相手が見つからないんだな」とその鴨を軽蔑気味に眺めた。胴体に少しだけ白く横縞が見えるくらいで何の変哲もない茶色をしている。哀れな鴨野郎、と思った刹那、鴨が翼を大きく広げた。広げた翼の下に鮮やかな紺碧色をした半楕円形の模様が見えた。翼の下に見せた胴体はやや紫がかった紺碧色で、羽毛独特の艶が見てとれた。一瞬のことだったが、パソコンの画面などでは再現できない色、自然界にしか存在しないであろう色合いだった。決して哀れな鴨ではない。こいつも誇り高く生きているんだ。
よく見ると目の下を濃いグリーンに彩っている鴨もいる。このグリーンは光を持っている。鴨には鴨の自己主張があるし、プライドがある。自然界では美しい色合いを持つのは総じてオスだと言われているから、紺碧の胴体を一瞬に見せた鴨はオスだったのだろうか。パートナーを得られず、不貞腐れていたと見えたのは間違いで、彼の勝負はまだまだこれからなのだ。遠くシベリアの地からやってきて2カ月、日々を孤独に過ごす気はないだろう。