神田川の秘密 スチュワーデス殺人事件(7) 女の執念は止まらない
十九の2 スチュワーデス殺人事件(7) 女の怨念は止まない
事件の始まりを最初に説明する。
「被害者はTさんといって、当時27才のきれいな娘さんだよ。オヤジさんは東大を出て、たしか神戸あたりの図書館長だったよ。一課に来て77件目のヤマだった。善福寺川は深さ2、30cmだ、水死するような場所じゃねえよ。それを高井戸の署員が検死して引き揚げたんだが、はっきりした外傷はなかった。オレの経験では・・・少しでも不審な点があったら現場を動かしちゃダメだ。殺しの現場ってのは、とにかくホシと直結させるネタの宝庫だよ」
と高井戸署の初動操作の不手際に触れている。
殺されたTさんの経歴を紹介したあと、
「Tさんは男に好かれるタイプだった。家柄がよかったからだろう」といい、
神戸での病院勤務中の出来事や結婚話があったことなどを語る。その後上京して乳児院に勤務したこと、1月4日に乳児院を退職して5日からは採用されたBOACの本社に通い、1月12日から2月27日までロンドンで研修を受け、帰国している話へと続く。
「S教会の近くに神父が出入りする女性の家があるんだ。S教会はDV社からじきのそばにあった。この女性は奈良女子大を終えて、翻訳業やってた太ったひとで、あまり美人じゃねえけど、でかいセパードを飼って一軒家に住んでいた。ここを神父たちは外出する時の着替え場所にしていたんだ。俺は三日三晩、ぶっ続けで張り込みをしたよ。ここからもいい材料は出なかったが」
と話したあと、目黒に住むTさんのおばさんから出た話に移る。
「50歳くらいの英語の先生で、教養のある人だ。隠し立てなく話してくれたよ。Tは原宿のそばで友達に会うって言ってたんだ。それで原宿一帯を聞き込み、KホテルにTさんと外人が入ったのを突き止めた。写真を見せて確認したけど、V神父と判明したんだ」
「V神父に聞くと、外は寒いので暖房のある部屋で話をしたいと思って、という」旅館の仲居にベッドを用意させたというから、V神父の話は少々疑わしい。
「(Tさんの遺体を解剖したら)精液が2種類検出された。1種類は『O型または非分泌型』と判定されたんだが、V神父もやっぱり同じだったよ」
「そうだ、事件の後の3月25日~28日、V神父はてめえのルノーのタイヤを全部取り替えたよ。普通なら十分使えるタイヤだったが、5本だったか、手持ちのタイヤを新品と替えたんだ。そんなわけであらゆく角度からV神父のほかにTさんと結びつく人間はいねえと結論が出た」
「神父は日本語は百も承知で、ベラベラだよ。それが(事情聴取になると)いっさい日本語使わねえんだよ。5月11、12、13日の3日と20、21の2日事情聴取した。ところが6月11日に帰国しちまった」
この本が出版されると、忘れ去られようとしていたスチュワーデス殺しの話題が再燃した。本の売れ行きも良く、2004年12月、新潮社は文庫本を出した。これもかなりの評判になって2009年でに6刷となった。書評もいくつか出されたが、一般には読まれる機会の少ない「捜査研究 No 796」という警察関係の雑誌に吉野まほろ氏が書評を書いている。
事件はいつまでも終わらないのだ。