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神田川の秘密25 中野長者橋界隈の異変 (2)奇しの神社と成願寺
二十五 中野・長者橋近辺の異変(2)奇しの神社と成願寺
お社のサイズが小さいというだけで驚くほどウブではない。
むしろ度肝を抜かれたのはそれに隣接する建物で、正面出入り口前にセメントの鳥居がある4階建てのビルだった。屋上には薄紫色の紋章が大きく輝いている。ビルの右手側面は神田川を横切る皐月橋の通りに面していて、そこに、もう一つセメントの鳥居が配置され、出入り口があった。つまり、ビルディング全体が神社なのだ。一瞬息をのんだ。
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鎮守の森があって、鳥居を潜ると本殿へと続く参道。本殿の前には賽銭箱が置いてある。そこには大きな鈴と太い綱がぶら下がっていることもある。それが川旅老人の頭の中にある神社の姿だ。久我山神社も大宮神社もまさにそれだった。鎮守の森がない場合でも、鬱蒼とした木立や背の低い植え込みくらいはあるのが普通だ。老人の潜在観念にある神社の姿はそんなイメージなのだが、ここの神社はコンクリートで固められた箱型の物体に進化を遂げていた。既成の概念を見事に打ち破っている。
「そこまで来たか!」
『スターウオーズ・日本大戦』が撮影されたなら、神社はこういう形になるだろう。驚きといささかの感動があった。
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赤煉瓦を敷きつめた遊歩道を桔梗橋、東郷橋と歩いて行くと、里程標の石柱が埋め込まれていて、
「みなもと12、1キロ、すみだがわ12、5キロ」と表示されていた。色々あったが、ともかく神田川を半分は下って来たことになる。中野新橋から長者橋の間、数えたら7本の橋を越えていた。長者橋の直ぐたもとのコンビニでお茶を買い、成願寺に向かった。
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神田川を背にして、山手通りの緩やかな坂の途中、左側に成願寺はあった。
山門からして特徴がある。一見、形は鐘楼なのだが、見上げた範囲に釣鐘は見えなかった。鐘楼の下の部分はアーチ型をした唐風の門になっていて白い漆喰が塗りこめられている。アーチ型門の上には朱色の高欄を持った建物が紅白の対象をなしての乗ったいた。後で寺の案内図を見たら、ここは紛れもない鐘楼だと分かった。釣鐘は2階の建物の中にあって、毎年12月31日の23時から明けた0時15分までの間、参拝者に除夜の鐘を撞かせるそうだ。事前予約制で、1打1000円。
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寺院の建物工作を手がける建設会社、カナメ(本社 宇都宮市)がネットに提供しているホームページを繰ってみると、「寺の門には四脚門、八脚門、唐門などがあるが、今ではさまざまに融合した門が作られている」と出ていた。成願寺の門はまさにそれで、何と何とが融合しているのかは見当もつかない。
門を潜ると直ぐに「敷石供養塔」という石碑が目についた。毎日多くの人に踏まれ、車も踏みつける敷石は苦行も甚だしい。苦しくてなかなか成仏できないのだろうか?世の中に供養塔は数々あれど、敷石を供養する塔は珍しい。
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それとは反対に、お百度踏石を置いている寺院もあるから、石も大変だ。供養塔の後ろには長者閣と命名された建物が続く。方形ホウギョウ屋根にモスグリーンの落ち着いた色合いの瓦が乗っている。日本武道館のてっぺんに乗っている「玉ねぎ」を小さくした形と思えばイメージが重なる。色は金色。一瞬、尾崎 豊の歌が頭を掠める。
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