神田川の秘密 下高井戸調整池の謎
十五の(2) 神田川調整池・つづき
これは大工事だな、いつから始まっていつ終わる予定なのか。
総工費はいくらかかるのか。財源は何なのか。老人の悲しい性か。世俗的な疑問がすぐに湧く。大成は大成建設のことで言わずと知れたゼネコンだが、徳倉建設は初めて聞く名前だと思い、ネットを繰って見ると本社は名古屋。名古屋証券取引所第二部上場の会社となっていた。資本金23億円、従業員316名。三菱UFJ、日本生命などが主要株主として名を連ねている。大成建設は資本金1227億円の大企業だから、共同企業体と言っても「共同」の意味合いが微妙だろう。
発注者の第三建設事務所に電話してみた。
「担当者が出かけているので、後ほど折り返しお電話します。5時過ぎに戻りますからその後の時間になりますが、それで良いですか?」
電話に出た人の受け答えで、あまり期待はできないように思えたが、具体的な時間を言っているというのはちょっぴり期待を抱かせる。
5時半。携帯に電話がかかって来た。
「お電話をいただいたようですが?」
やや訝しい電話の声を無視して、要件を切り出した。
「下高井戸2丁目の神田川調節池のことで2、3教えていただきたいことがあります。電話で失礼ですが宜しいでしょうか?」
「どんなことでしょう?」
自分は神田川の今と昔を知りたいと思い、源流から歩いている。今日は下高井戸の調節池の工事現場を通りかかったので工事の内容を知りたくてお電話した、と趣旨を説明した。
「先ず、工事の始まりがいつで、終わるのはいつを予定しているのでしょうか?」「始まりは平成31年です。調整池の工事が終わってからいくつか付帯工事があるので全部が終わるのは令和7年3月末を予定しています」
「そう言えば、現地の看板には2024年9月に調節池の工事が終了すると書いてありました」
「そうですね。そのあと管理棟の施工があります」
調節池に付随する越流堤(神田川が警戒水域に達すると流れ込む方式の堤)、導水路(流れ込んだ水を調節池に流し込む施設)、ポンプ槽(ポンプアップして水を戻す)は調節池と同時進行の工事のようだ。管理棟は調節池から少し離れたところに建てられる予定になっている。それらの一切の工事を2025年3月末までに終わりたいという意味だった。
「工事が全部終わると地上部分は緑地公園になるのでしょうか?」
「そこは元々杉並区が公園用地に取得した土地なので、そうなります」
「以前は東電の所有地だった・・・ですか?」
「そうですね。東電から杉並区が買収した土地ですね」
「いつ頃でしょう?」
「う~ん。正確には分かりませんが、平成30年だと思いますね」
3月11日の東北大震災による福島原子力発電所の事故があったからだろうか?「かなり規模の大きい工事ですが、総事業費はいくらくらいかかるのでしょう?」「直ぐには分からないので、後ほど調べて連絡します。少し時間がかかりますが良いですか?」
「調べて教えていただければありがたいです」
「では、調べまして連絡差し上げます」
電話口の「担当者」の人はトツトツと喋る。いかにも技術系の職員の印象だ。
「神田川の護岸工事も有るのでしょうか?」
「搬入路の仮桟橋をつけた時に一部の護岸壁を崩していますから、その補修はありますが、護岸工事は基本的に終わっているので、今回はありません」
電話での問い合わせにもかかわらず、丁寧に応答してくれた。
最後に「失礼ですがお名前を」と言うと「Kと言います」と答えてくれた。
総事業費の連絡も貰えそうな気がする。
「いつ頃の時間帯に連絡すれば都合が良いですか?」と聞いてくれたからね。
それに、Kさんは「同じくらいの規模の調節池をもう少し上流に計画しているところです」と教えてくれた。
「久我山とかその近辺ですか?」
「場所はまだ決まっていません。調査中です」とのこと。
どうやら見当はつけている感じがした。
「新しい調節池はやはり公園用地の地下を利用するのですか?」と聞いてみた。「そうとは限りませんね」
やっぱり見当がついているようだ。
下高井戸調節池は大雑把に言うと川に沿って横の長さが100m、奥へ50m、深さが6mの大きな四角い穴だが、それでも神田川上流部の洪水対策としては足りていないのだろうか?地下に打ち込まれる鉄筋コンクリートの柱は横に15本、奥へ向かって7本、全部で105本が立つ。その上に人工地盤と緑地公園が乗る。後世の人々はこれを何の穴と見るだろうか、1000年後の未来社会へ行って、人々に聞いてみたい。
この工事が終われば、神田川はまた一つ違った顔を見せることになるだろうし、さらに新しい調整池が近くに計画されているなら、洪水対策の意味合いだけでなく、川と調節池との連携で新しい型の給排水を担う川になっていくのだろう。そうなると、川も単なるハードではなくソフト化していくことになる。川の持つ機能が全く違って