ヘンリー・エイキンスのインタビューが目当てで『ゴング格闘技』2024年7月号(No.322)を買った
タイトル通り、『ゴング格闘技』を読んだ。ヘンリーのインタビュー以外の部分も一部読んでいて、気になったところも以下でわずかに触れている。
内容をそのまま書くのは問題だと思うので、あいまいに書いている部分があるが、気になる人は直接買ってほしい。
JTTレスリングコーチ ビリー・ビゲロウが明かす「アレックス・ペレスの秘密」
去年、朝倉兄弟らによる Japan Top Team という格闘技ジムが設立され、そこに外国人コーチも呼ばれていることは知っていたが、その中の一人であるビリー・カゲロウがカレッジレスリング出身であるとは初めて知った。
カレッジレスリングとはアメリカでのみ行われているレスリングであり、少しルールがオリンピックで見られるレスリングとは異なる。
具体的には、オリンピックスタイルのレスリングでは背中をつけさせられそうになったら腹ばいになり、その状況をキープすることでレフェリーが止め、立った状態に強制的に戻される。対してカレッジレスリングでは、自分が倒されたところから立ちあがり、スタンドの状態に戻すことでポイントが入る。例えば、次の映像にあるような相手が自分の後ろについた状態からそこから離れて立つ練習はオリンピックスタイルでは重要とされていない(はず)。
そしてこういった技術がMMAでもそのまま使えるらしい。
当然、逆に抑える技術もある
実際の試合の例。技術を極めた結果か1試合の間中ずっと抑え込むという恐ろしいことをしている。
他にも違いはあるが、詳しく知りたい人は以下を参照。
話を戻すと、ビリーはカレッジレスリング出身なので、その技術を日本で直接教わることができるかもしれないということが個人的に興味を持った。 とはいえ、ビリーが教えるのはプロのMMAファイター限定かもしれないので、一般向けの、それもピュアなカレッジレスリングを教わることは難しいかもしれない。
ただ、ビリーは日本に長く居たいようなので、もしかするとという希望を抱いている。
他に興味を持った話としては、MMAの打撃はボクシング・キックボクシングと違って少し汚く見えること。もしかしたら今後GONGでビリーのMMAテクニックを紹介するかもしれないこと。
クレベル・コイケ「道はただ一つ」
6月9日に行われる RIZIN.47 でアーチュレッタとの対戦が決まっているクレベルは現在、American Top Team で出稽古を行っている。以前はタイに行っていたが、今回初めて?ATT に行っている。場所を変えた理由はATT の方が人材が上回っているからとのことだが、挙げられるメンバーはそれも納得する錚々たる名前が出てくる。
マテウス・ガムロット、ペドロ・ムニョス、スティーブ・モッコなど。
クレベルの対戦相手であるアーチュレッタに関して個人的に印象的なことがある。それは次の映像を見た時のこと。
これは元UFCバンタム級チャンピオンのTJ・ディラショーとアーチュレッタが Darryl Christian の下、打ち込みを行っている映像だが、これを初めて見た時、私はあまりのレベルの高さに驚いた。レスリングもMMAもやっていない自分が見てもわかるレベルの高さ。単純な組みの技術もさることながら、それを打撃と高いレベルで混ぜている。
TJ・ディラショーとアーチュレッタはともにカレッジレスリングの Division 1 (1部リーグ)出身で、アーチュレッタに至っては元オールアメリカンだ。
Darryl Christian は 恐らくカレッジレスリング出身(調べても経歴が詳細に出てこなかった)のレスリングコーチだ。
彼が関わった経験のある人物は Dominick Cruz, BJ Penn, Chael Sonnen とこれまたとんでもない。柔術家も彼に教わった人もいるようで、Keenan Cornelius, Lucas Leite, Rafa Mendes の名前があった。
bjjfanaticsで教則も3本出している。
しかし、そのアーチュレッタに勝ったのが朝倉海なのだ。様々な条件があったとはいえ、それを考慮しても偉業というほかない。日本と世界の差は少しでも縮まっているのではないかと、この結果を見て思った。
先ほど紹介したビリーもカレッジレスリング出身なので、私からすれば昔のグレイシーと同じく謎の技術であるカレッジレスリングがもっと日目を見るようになってほしいと思う。
篠塚辰樹 父とベアナックル
4月29日に行われた RIZIN.46 で日本初?のベアナックルファイトが行われた。そこに出場し、勝利した日本人選手である篠塚辰樹。
彼がインタビューでベアナックル専用の技術と空手の技術を語っていたのが興味を惹かれた。元々ベアナックルボクシングはイギリスで18,19世紀に盛んにおこなわれていたらしく、当時もベアナックルボクシング専用の技術は存在したようだ。それがなんだかおもしろい。
空手のMMAにおける応用というとリョート・マチダ、GSP、堀口恭二、Stephen Thompson、セフードあたりが思い出されるが、空手が実践的であるかどうかは個人的には長いこと(今でも)懐疑的だった。そもそも昔の空手と今の空手は全く違うとも聞く。
ただ、Stephen Thompson の Dynamic Striking(BJJ Fanatics の打撃版) の教則はやたらと評価が高いので、もしかしたら空手も使えるのではないかと少し考えを見直している。
個人的にはベアナックルボクシングは好きだ。何が好きかと言われると答えづらいが、格闘技における古い・より原始的な部分が見えるというところだろうか。
ヒクソン・グレイシー道場元師範代、
ヘンリー・エイキンスが説く「ヒクソン本人ですら言葉にできない柔術の極意」
個人的に気になった部分が多いのでまず触れられていた話題を先にまとめる。
ヘンリーの経歴(出生から学生時代の話)
なぜヒクソンのところへ入門したか
当時のヒクソン道場の練習
ヒクソン道場と他の道場の違い
ヒクソンの「Invisivle(見えない)」柔術と ヘンリーの 「hidden(隠された)」柔術の違い
クロン・グレイシー(とホクソン・グレイシー)について
Weight distribution と Connection
ジョン・ダナハーとゴードン・ライアンについて
実演
横四方と袈裟固め
ハーフに対する腰切りパスと Relax
スタンドにおけるコネクション
より大きな筋肉を使う(スタンドと送り襟締め)
下(ガード)からの Weight distribution
江良(石井)拓とヘンリー・エイキンスの紹介
今回のインタビューでの技の受けは江良拓、記者は堀内勇。
まずは江良拓とヘンリー・エイキンスの紹介をする。
江良拓は元AOJの茶帯であり、紫帯時代にはパンアメリカのルースターで優勝。2015年、Jiu jitsu NERD の企画でヘンリー・エイキンスの下へ行き、スパー。AOJとは全く違うヘンリーの柔術に何もできず、AOJからヘンリーの下へ移籍。今年の4月にヘンリー・エイキンスから黒帯を授与された。ヘンリーの黒帯としては5人目。
ヘンリー・エイキンスはヒクソン・グレイシーから黒帯を授与され、ヒクソンの柔術に最も近い人物だと言われている。
次に、インタビューで気になった部分に触れいてく。最初に書いたように、そのまま書くのは問題だと思うので、記事の内容をそのままは書いていない。
ヘンリー・エイキンスの高校時代
このあたりはすでに以下で知っていた。オクラホマ州にはオクラホマ州立大学というカレッジレスリングで最強の大学がある。ヘンリーも(カレッジ)レスリングの影響を少なからず受けているのだ。技術的にはどうかわからないが。
漫画家・坂本眞一の息子である坂本倫はオクラホマ州立大学に行っているようだ。
クロン・グレイシーの話
クロンの師匠はヘンリーだと言われたり違うとも言われたり、どちらなのかわからなかったが、今回のインタビューで明確にヘンリー自身はクロンがオレンジ帯から茶帯まで教えていたと明確に語っている。
クロンの柔術というと以下の動画にあるように独特なものらしく、それがいったいどこから来たのか気になっていた。
それが今回、少なくともヘンリー自身は自分が教えていたことがあると言ったのは個人的には重要だと思った。もっともヘンリー自身はクロンに関して自分の功績だと主張したくないとのことだったが。
また、クロン自身がジョー・ローガンのポッドキャストで話していたらしいが、ADCC2011の時点でヒクソン相手に2,3分に1回タップさせられたとのこと。
ジョン・ダナハー
ダナハーとヘンリーに関しては個人的に気になっていることがあった。
それはダナハーがヘンリーに関してどう思っているかということだ。ダナハーであればヘンリーを知らないということはないと思うし、であればヘンリーの技術をどう考えているのか気になった。
それに関して reddit で次の発言を見た。
これを書いた人はどちらかというとヘンリー寄りだったので話半分にとどめておいたが、ヘンリー曰くダナハーがここ1年程 Weight distribution と Connection について語っているそうだ。ただヘンリーが言うにはダナハーは自分の技術のパクリだということではなく、ゴードン・ライアンやホジャー等の世界最高レベルまで達した人間は同じ結論にたどり着く、ということらしいが。
希望的観測をすればダナハーとヘンリーは、(不正確なたとえを承知で言うと)アインシュタインとヒルベルトが同じ結論に同時に達したように歴史上の発見は同時期に起こるたぐいの話か、収斂進化によるものかもしれない。
いずれにせよ私は、競技柔術の最高峰であるダナハーたちの技術が、これから先どのように進化するのか楽しみに見ている。
(ダナハーとゴードンライアンは人格上問題があり、BjjFanaticsの存続が危ぶまれる可能性があるようなことをしていると噂で聞くが、もしそれで逮捕でもされればそれはそれで構わないと思う。)
最後に、ヘンリーの読者へのメッセージをそのまま引用して終わる。
夢枕獏×碇谷敦×ホベルト・サトシ・ソウザ 「竹宮流」というファンタジーに息を吹き込むボンサイ柔術のリアル
UFC1を開催する際、夢枕獏はホリオン・グレイシーから「今度こういう大会がある」と聞いていたそうだが、なぜ知り合いだったのか気になった。
終わりに(個人的な話)
以下は GONG とは関係ない、個人的な話なので興味がない人は読み飛ばしてもらって構わない。
最近、競技(スポーツ)柔術に疲れていた。
私はもともと試合に出て勝ちたいという考えではなかったので、元から単に競技で活躍している人の教則を見て、それを実践するといことがほとんどだった。しかし、これを続けていくうちに疑問がわいてきた。覚えることが多すぎる。
一流選手の教則であれば内容は整理されている。コンセプトが語られ、細かいポジションごとに分けられ、話される内容は体系的にまとめられ、技術にもディティールはある。しかしそれでもなんだか柔術というものの浅いところにいる気がしてならない。体系的であるはずながら、雑学という域を抜けないように感じるのだ。
一流選手の教則であれば、内容に嘘が含まれているようには思わない。それを使えば確かに目的通りの結果にはなる。しかしそれでも別のポジション間において共通する技術が少なすぎると思う。競技柔術においてバックエスケープの技術とパスガードの技術、あるいは極めの技術等何でもいいが、別のポジションで共通するコアとなる技術があるように感じられないのだ。結果として、ポジションごとに異なる膨大な技術を覚えなければ使えないものとなっている。
昔、数学者の岡潔と小林秀雄の対談で岡潔が次のような発言をした。長くなるが引用する。
これを読んだ時、私は「じゃあ積木じゃない文化って何だよ」と思ったが、とにかく柔術もこの状況に近いと思う。概念の上に概念を積み重ね、膨大な量となっている。そしてそれらの概念間の繋がりは個人的には薄い。
対してヘンリーの技術はシンプルだ。Weight distribution, Connection, Relax, Angle. まるで天才学者、例えばニュートンが、それまで蓄積されて停滞している問題を、天才的な直観により鮮やかに解決するようだ。
私はまだ直接ヘンリーや江良さんの技術を体験したことはないが、私の抱える問題を彼らの技術であれば解決するかもしれないという淡い期待がある。
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