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コの字型授業「短編小説」

私:
(やばぃ、出そうだ、、)

先生:
「今日は11月6日だから、出席番号6番の内田、54ページの最初から読んでみろ。」

私はお尻を締めることに一点集中したいが、ぶっきらぼうな声が耳に入ってきて集中力がお尻と耳に分裂される。ディテール重視でいくと耳は2つあるので一気に3分列するのは痛手だ。

私:
(えっと、あぶなっ、足し算だったら私だったじゃん)

この場面での足し算は通常時の√の計算くらいレベルが上がった気がする。
日付を絡めて指名してくるこの先生を私は裏でカレンダーチョイス「カレッチョ」と呼んでいる。

内田:
「また俺〜?まぁ別に良いっすよ!」

このクラスの中心でいわゆる一軍と言われるところに所属し鼻に触るやつが「内田」である。

今年から生徒が発言する機会を増やすという目的でクラスを少人数に分け、机を「コの字型」に整列させてみんなが向き合いながら授業をするスタイルが始まった。

彼は「コの字」じゃなくて「Uの字」だろと自分のイニシャルに置き換え、授業スタイルの名前ですら主人公になろうとする。

内田:
「やべっ!後ろにあるんだけど!」

カレッチョ:
「何回目だお前、早くとってこい」

内田:
「すいやせん、マッハで取ってきます!」

彼はいつも授業前に教科書等を準備せず、友達を引き連れてトイレでワーワーするのがルーティンとして身についている。そして、授業中に教室の後ろのロッカーへ取りに行くのがかっこいいと思っているタイプの人間だ。

乱雑に敷き詰められたロッカーから「国語1」と書かれた冊子を抜きとる。急いで席へ戻ったせいかページとページの隙間からクシャクシャの紙切れが一枚落ちていくのが見えた。

この瞬間、私はお尻の集中を蔑ろにしてルービックキューブを6面揃える勢いで脳を回した。

私:
(あの紙は、三者懇談の紙かなんかで、提出が迫ってくるタイミングで先生に促され、失くしたことを告げ、怒られているこの俺どう?みたいな顔して、議題の中心になるだろうな)

6面揃え終えるのに全集中した私のお尻は使い古したDSのタッチペンくらい緩々になっていた。

席についた内田は
「俺、立って読みます!」

カレッチョ:
「おぅ、勝手にしろ」
私:
(カレッチョ、流石に勝手にしろは可哀想すぎ)

内田:
「はい!〜〜、〜〜、〜〜。」

内田はバカっぽく振る舞っているが意外と勉強はできるタイプなので難読漢字もスラスラ読む。

先程の6面完成が命取りとなり、破裂音が私の体内から出ることで「プリっ子」みたいなあだ名でも付けられるんだろうなと思っていた。
その時、一軍軍団員の男が何かを発見した。

軍団員:
「えっ、内田お前ちんチャック開いてない?」

内田:
「えっ、えっ、えっ、」

クラスのみんな:
「ハハハハハ!!!」

みんなが爆笑している隙に私もお尻のチャック(おしチャック)を開けてワリオの如く「プッブップッー」っと、誰にもバレずに体内から「ガス1」を抜き取ることに成功した。

瞬きをすると
「コの字」が「ほの字」になっていた。
ありがとう。内田君。「プリっ子」回避。

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