共通装軌のあれこれ[月末雑語り]
2023年11月22日、三菱から突然公開された共通装軌の写真。
この車両の存在はある程度知られていましたが、初めて防衛省・三菱等の公式から画像が公表されました。この共通装軌について備忘録的にまとめておこうと思います。
このnoteでは岩本三太郎氏が公開している軍事情報アーカイブ(通称大火力リークス)に掲載されている内容を多く利用しています。
共通車両の換装技術の研究
前提として、この車両は「共通車両の換装技術用共通車体」になります。ネット上では「共通車両」「共通車体」「共通装甲車」「共通戦術装甲車」など様々な呼び方がされていますが、今回は「共通装軌」で統一させていただきます。
「共通車体の換装技術の研究」は2013年頃から開始されていた事業になります。まずシステム設計(その1)では73式装甲車、89式装甲戦闘車、99式自走りゅう弾砲について。(その2)ではこれらに加えて87式自走高射機関砲と96式自走迫撃砲を加えてシステム設計が実施されました。
この研究は現有の装軌装甲車両について共通車体で更新が可能か?という視点で実施された物です。また、砲塔を有する装備(87式、89式、99式)については砲塔を流用することを前提としており、あくまでも車体側の研究になります。
その後「共通車両の換装技術用共通車体」として調達されたのが試験用車体(装甲車型)と試験用車体(装甲戦闘車型)です。仕様書は(その1)と(その2)があるので装甲車型と装甲戦闘車型がそれぞれ2両ずつ存在している可能性があります。また砲塔についても(その1)、(その2)の2つの仕様書が掲載されています。砲塔については完全新規の砲塔ではなく、89式装甲戦闘車の砲塔をそのまま利用しているようです。ただし、ただ載せ替えているのではなく製造中止された部品代替措置の検討が行われたようです。
クスロウさんがSNS上で写真を投稿していますが、少なくとも2019年には目撃されていたようです。
それぞれの詳しい仕様は軍事情報アーカイブに仕様書が掲載されているため、そちらから確認することが出来ます。
共通装軌の現在
三菱の事業説明資料に登場した共通装軌(装甲車型)ですが、事業そのものは現在どういう状況なのか、或いはどのような結果が得られたのか全く不明です。しかし、共通装軌あるいは装軌装甲車の更新に関わっていそうな事業もあるのでまとめておこうと思います。
諸外国の装軌式装甲車に係る調査
これは2020年に実施された調査役務になります。納期は同年12月末となっており、調査結果は既に提出されたものと思われます。
付属書Bに前提条件が示されていますが、ここに導入時期の条件も書かれています。これはあくまでも前提条件であり、実際に参考品を購入するという話ではないと思われます。
つまり、数ある外国製装甲車の中から「令和4年に参考品の購入、令和7年に調達」が可能な物を選んで調査を行うということだと思います。
この点について、筆者は従来「令和4年に参考品を調達する予定だったが中止されたのではないか」と考えていましたが、それは間違った解釈であったと思います。ここで訂正させていただきます。
この調査では「諸外国の装甲車」を調査したうえで
・ファミリー化しない人員輸送型/装甲戦闘車型を調達するパターン
・ファミリー化して人員輸送型/装甲戦闘車型を調達するパターン
・89式装甲戦闘車の砲塔を搭載できる既存の装軌式装甲車(人員輸送型/装甲戦闘車型)を調達するパターン
を比較検討するものになっています。この「89式装甲戦闘車の砲塔を搭載できる既存の装軌式装甲車」がまさに共通装軌なのではないかと思われます。
装甲車(改善型)
軍事情報アーカイブに公開されている令和3年度装備開発(改善)要求書で内容を確認できるのが装甲車(改善型)になります。これは人員輸送型と戦闘型の装軌式装甲車について参考品を取得・試験する事業となっています。
この文書の中には「『共通車両の換装技術に関する研究』による車体部の共通化に係る技術を応用することにより、他装軌式装甲車の効率的な研究開発に寄与できる」との記述があります。つまり、この事業は「『共通車両の換装技術に関する研究』を応用している」とわかります。
また、「期待する量産単価の根拠」の欄では「共通車両の換装技術の研究成果及び企業見積もりから算出」との記載もあります。
つまり、装甲車(改善型)は共通装軌の非常に近しい事業であり、後継事業的な立ち位置にあると考えられます。
また、「代替手段との比較」では諸外国にも性能を満たす装甲車が存在するがコスト面(特にライフサイクルコスト)から国産が有利との記載があります。続いて黒塗りではありますが内外類似装備品との比較表が記載されています。
ここで振り返ってみると、諸外国の装軌式装甲車に係る調査は令和2年12月に調査結果が提出されていると考えられます。紹介している文書は令和3年度の物ですが事業整理番号から令和2年度に開始したことが分かります(02装開-2B)。また、装備開発(改善)要求書は例年年度末の3月に作成されています。
つまり、2020年12月に提出された調査結果を基にして装甲車(改善型)の装備開発(改善)要求書が2021年3月に出されたのではないでしょうか。
遊弋型UAV対処機材
2023年11月2日に公開された「令和5年度装備品等(火器車両関連)に係る各種契約希望募集要項」に「試験用車体(その2)装甲戦闘車型 試験用車体(その2)装甲車型」という記載がありました。この2つの試験用車体はまさに共通装軌そのものです。
内容は遊弋型UAV対処機材(その3)なので、遊弋型UAV対処機材をその試験用車体に搭載して試験をするものと考えられます。
先ほど紹介した装甲車(改善型)の文書の中で、装甲車(改善型)はUAV対処が可能な拡張性を持つことが要求されていました。
ここからは完全な推測ですが、装甲車(改善型)は基本的に共通装軌と同じ車両を想定しているのではないでしょうか。走行性能等基本的な事柄は確認済みであり、装備化に向けてUAV対処という「共通車両の換装技術の研究」では注目されなかった要素について現在試験を実施している物と考えらえるような気がしています。
今後の展開大予想
ここまでの情報を整理すると
2013年~2019?年:「共通車両の換装技術の研究」を実施(共通装軌調達&試験)
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2020年:「諸外国の装軌式装甲車に係る調査」で共通装軌と海外製既製品を比較
↓
共通装軌のほうがライフサイクルコストに優れると結論
↓
2021年:装甲車(改善型)の事業スタート
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現在試験用車体を用いてUAV対処装置等を試験中
という時系列が成立するように思えます。そうなると、来年や再来年の概算要求に装甲車(改善型)が共通装軌のイメージ写真と共に掲載される可能性も十分あるような気がしてきますね。
最後に
色々書いてきましたが、現在入手できる断片的な情報をつなぎ合わせただけであり、過去の流れや将来の予想など全く的外れなことを書いている可能性もあります。その上で、現在何かしらの動きがあるのも事実です。
共通装軌や今後の陸自装軌装甲車の導入事業について、これからも皆さんと一緒に追いかけてきたいところです。