虎の子日記 上司と酒
私はバーテンダーのはしくれである。
コロナ恐怖が沈静化してきたこの年末、飲み会の機会も増えてきた。
初めてご来店のお客様が増えるのも、この時期の通説だ。
その日は男性のグループが多い日だった。
一組目は同窓会?っぽい高齢の男性グループ。
楽しそうに昔話と自分の最近のマイブームの会話。
「俺はさあ、最近アレにハマってんだよ、えっと・・・どうした家康!」
どうした??え?家康、なんか大丈夫?
「吉高由里子はいい女だねえ」
え?吉高さん、家康に出てた?
いろんな記憶が混在されているようである。まあ楽しく飲まれているのでお店としては嬉しい光景である。
テーブル席には上司と若手部下。
上司はご機嫌で「女ってのはな、守ってやらなきゃいかんのだよ。ひっぱってくれる男に惹かれるわけなんだよ。だからお前ももっとグイグイいけよ。オレは若い頃に・・・」
え?そうでもないけど?
なかには素朴な人が好きな人もいるし、グイグイ来るの苦手な人もいるし。
同じ話を何回も3時間近く聞かされ、一人はトイレに吐きに行くし、一人は必死に耐えているのか、白目をむいて寝ている。ここに来るまでにも散々飲まされてきたのだろう。上機嫌の上司は部下のそんな辛さに気づいていない。お酒が入ると過去の武勇伝や男談義に拍車がかかるのは仕方ないが・・しかも割り勘。こんな調子だからアルハラとか言われ、上司と飲みに行くのを嫌がる若手が増える。
昔見たあるドラマで柴田恭平さんが言ったセリフ。
「酒を飲む時は過去を振り返ったらダメなんだ。未来の話をしなきゃ」
おっしゃる通りである。
3組目は中年の男性二人。会社の飲み会帰りといったところだろうか。
カウンターに座るなり「姉ちゃんのオススメをちょうだい」と言われた。
「さっぱりめがよろしいですか?炭酸は入っても大丈夫ですか?」
「いいからいいから。なんでもオススメでいいから」
かなり酔っている様子だったので、グレープフルーツを使ったカクテルをお出しした。二杯目はトマトジュースを使ったもの。
アルコールの分解には柑橘系の果物やビタミンCを摂取すると良いので、こちらのチョイスにさせていただいた。
なぜこれを選んだか、と聞かれたので失礼のないようにやんわり説明した。すると隣の男性が「こういう時は今日は何を食べてきたのか、焼き鳥屋でヤキトリ食べてきたのか、とか、居酒屋でヤキトリ食べてきたとかさ。こってりしたの食べて来たとか、聞くんじゃないの?」
こってりのヤキトリ食べたんですよね。はい。
「さっぱりがいいかとかスッキリがいいとか、ビールが好きか、日本酒が好きかとか、聞くのがバーテンじゃないの?」
スッキリ、さっぱりですよね。はい。あいにく日本酒はございません。
BARに来るのは大抵2件目、3件目で、美味しい物をたらふく食べてきた方が多い。そしてビールや日本酒、レモンサワーもたくさん飲んでいる。
「中華料理食べてきたけど食べたりないからこってりしたカクテルお願い」というオーダーは受けたことがない。
オススメと言われたのでグレープフルーツとトマトにしたんですが・・・
会議などでよく「なんでもいいから自由に意見を言ってみてよ。遠慮しないで。」といいながら何か言うと「会社の方針がわかってない」とか「そんなアイデアは無謀だ」とか言われ、それが嫌で黙っていると「主体性がない、やる気がない」などと言われる。
いやーな事を思い出した。
「ところでさ、話しにくい上司ってどんな人?ねーちゃんの考えでいいからさ。」
・・・・・・・・・・。(←こころの声でお読みください?)
ボーイズよ、酒は飲めども飲まれるな。である。
一緒に飲みたい上司になろうね。