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虎の子日記   粋なオトコの借り模様

実は私はバーテンダーのはしくれである。
BARには酒の数だけ恋物語があり、人間模様がある。

常連のお客様がご機嫌な様子で入ってきた。
「いやあ、ママんとこ(彼が御贔屓にしているスナック)に接待でお客さん連れてきたんやけど、あーくたびれた。オレだけちょっと抜け出してきたよ。」
いつもはそのママさんとアフターで来られるのだが、今日は接待。カラオケどんちゃん騒ぎに乗じて抜け出してきたらしい。
「すぐ戻るけどね。一杯だけ、ゆっくり飲みたい。あ、いつものね。」

このお客様はいつもアーリータイムスというバーボンをロックで飲む。
どっかり座ってネクタイをゆるめる。
ポケットを探って・・・
「あれ、タバコ置いてきちゃった。なんかある?一本でいいや。」

普通、愛煙家は自分の好みの銘柄があり、そのタバコを名刺のように胸ポケットなんかに入れているが、ここまで酔っ払いだともはや煙が出ればいいようである。店にはお客様が忘れていったままのタバコが何箱か置いてある。もう持ち主にどこに置いてきたかも忘れられた寂しいタバコたちは、こんな時のためにある。
またゴソゴソとポケットを探って
「あ、ライターもねえや」
もちろん、店で用意しているライターをお貸しした。そしてやっと煙にありつけた彼は、初めから彼の物だったかのように店のライターをそのまま胸ポケットにしまったのである。

満足げにウイスキーロックと煙を口にした彼は「おう、チビも飲むか?マスターも飲みなよ」と勧めてくれた。

彼は私のことをチビと呼ぶ。おそらく身長が低いのと童顔で若く見えることからそう呼ぶのであろうが、私のほうが絶対年上。ま、いいけど。

そしてひとしきりおしゃべりをして
「お、そろそろ戻らんとやばいな。マスターお勘定。」
ご機嫌な一杯を満喫していただいたようである。

「あ、そうだ、この氷持っていくからなんか袋に入れてくれ。」

BARでウイスキーのロックをサーブする時は、ほとんどの場合”丸氷”を使う。初めから丸く精製された氷も売っていたりするが、当店は手削り。暇に任せて、いや、丹精込めてスタッフが削るのである。彼はどうせまた戻って飲むからこの丸い氷で飲みたい、というので袋にいれて差し上げた。

お会計は2100円。アーリータイムス800円。スタッフがいただいたビールが2杯で1400円。彼は立ち上がり、氷の入った袋を持って、ポケットにはライターを忍ばせ、またゴソゴソとポケットを探る。そして極み。

「やべ。2000円しかねえわ。マスター100円まけてくれ ♪」

ボーイズよ、これがオトコの堂々たる借り模様だ。
バチェラー改造計画はまだまだ続く。



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