見出し画像

【毎週ショートショートnote】半笑いのポッキーゲームは居酒屋で

今年最初の公演は大成功だった。
打ち上げは、初舞台に興奮気味の1年や嫌がる後輩に演劇論を打つ3年と、大盛り上がりだ。

私の隣、サークルきっての花形は紫煙の向こうで今日もイケてる。
が、いつもと雰囲気が違う。
「あのさ」
「何?」
「やっぱいいわ」
灰皿にタバコを押しつけ、沈黙の後、
「ポッキーゲームやんね?」
手つかずのアイスからポッキーを抜いて彼は言った。
「ポッキーくわえた相手笑わして、落とさせたら勝ちな。」
「私が知ってるのと違うんだけど。」
いいからとポッキーをくわえて私を見る。
私から?じゃ。
「去年、小道具の付け髭のままデート行ってフラれた。『髭の彼女は嫌だ』って」
ヒッと声がした。笑ったでしょ?バカ、半笑いだよ、落としてねーし。
次、あんたの番よ。
「俺。大学辞めて上京しようと思う。」
私の口からポッキーが落ちた。
奴は笑ってビールを飲んでいる。
「俳優、なれるよ。応援する。」
ありがと、でも罰ゲームはオマケしないぜ。
私はポッキーで彼を叩き、その勢いのままかじる。
何か、何だか苦かった。
(435字)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?