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褒められると伸びすぎるタイプ。
ドレス屋さんは体力勝負の仕事である。
生地やデザインによっては驚くほど重たいドレスを3着4着と運んだり、積みあがった靴を一足ずつ磨いてはもとに戻したり、例を挙げればきりがないほど肉体労働だ。
(わたしは重たいドレスが運べなくなったら困ると思って、毎朝家で壁腕立て伏せをしてから出勤していた。)
平日も激務だが土日はもう戦場で、穏やかな笑顔で接客しつつ、裏ではものすごい形相で走り回っている。そんなわけで、いつも店内をバタバタと走り回って(実際に走るのは禁止されていたけれど)いたわたしたちが、一度だけ、じっくりと考えて書いたものを提出する機会があった。
内容は秘密だけれど、自分が感じたこと、気付いたこと、それを踏まえての改善点などをレポート形式にまとめる。(形式自由。)
全員がミッションを終え、書き終えた後日、衣裳部メンバーでミーティングをした。
狭いバックヤードでたくさんの衣裳に埋もれながら円になったわたしたち。
レポートをもとにして順に発表していく。
社歴関係なく意見を交わし、良い提案は早速取り入れることに決定。
ミッション中の写真を見せ合ったり、それに突っ込みを入れたりと、和気あいあいとしたミーティングだった。
ミーティングが終わった後、一人の先輩が
「mocoちゃんのレポート、面白かったわぁ」
と声をかけてくれた。
それを聞いた後輩たちも他の先輩も
「ほんま、面白かったよなぁ」「もっと読みたかったです!」
と続けてくれた。
なんてことないレポートである。
大学で小論文の書き方や添削の仕方を学んではいたが、あまり真面目な大学時代を過ごしていないし、書くことは好きだったから得意だとは思っていたけれど、特別才能があるわけではない。
けれども褒められてうれしくないわけがない。
いやいやそんな、と謙遜しつつ、にやけ顔は隠せない。
「そうか、わたしが書いたものを面白いと思ってくれる人がいるんだ」。
身内にちょっと褒められただけでまったくおめでたい話なのだが、わたしは純粋にそう思った。
そして、「書くことを仕事にするっていうのも面白いかもしれないな」とまで考えが及んだのだから、スーパー自分に甘い。
あれから何年経っただろうか。
わたしは今、正真正銘、書く仕事をしている。
ドレス屋さんのあと、情報誌を作り、旅館で企画広報をして、広告屋さんでコピーライターという肩書をもらった。
これが天職なのかは正直疑問だし、圧倒的にドレスコーディネーターの方が楽しかった。
コピーライターに向いているのか自信がないし、良いコピーは全然書けないけれど、あの時のミーティングを思い出すたびに、もうちょっとだけ頑張ろうかなという気持ちが湧いてくる。
せっかく褒めてもらったから、鼻だけでなく実力も伸ばしたいところである。