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ギターを弾いてみよう

なんだか新しいことを始めてみたくなった。そうだ、ギターやってみよう。そう思ったらなんだかワクワクしてきた。子供のときにピアノはほんの少し習ったけど、自分がギターやってみるなんて考えたこともなかった。そう考えるとワクワクする。きっかけは私にマウンテンバイクの乗り方を教えてくれた友人Rがこの本は面白そうだといってSNSに写真を載せたのを見たこと。

このSNSの投稿を見るまでヴァンヘイレンというロックバンドなど全く知らなかった。80年代にアメリカで一世を風靡したロックバンドらしい。友人のRは子供の頃からBMXバイクに乗っていて現在は自転車屋さんの店員さんだ。そんな彼のSNSは様々な種類の自転車(マウンテンバイク、シクロクロスバイク、BMXバイク)やオフロードバイクのことが中心だけどたまにギターの写真が投稿されたりしてたっけ。Rは私よりも少し上の50代後半くらいの世代だからこのバンドがど真ん中の世代なのだろう。私にとってRはマウンテンバイクを通して私の人生を変えてくれた特別な存在で、自転車に乗る姿はめちゃカッコよく憧れの友人だ。だからそんな友人の世界観をのぞき見してみたくて、この本を読むことにした。

一時代を築いたロックバンドのドラマーが俺様面でロックな人生観でも語っていたらすぐに嫌気がさして興味がなくなると思っていたが、この本はそんな先入観をすぐに消し去ってくれた。この本はタイトル「Brothers」のとおり、ドラマーの兄(Alex)が天才ギターリストと言われた弟(Ed)との生涯通しての兄弟愛、バンド人生、絆について書いたものだ。オランダ植民地時代のインドネシアでオランダ人の父とインドネシア人の母の間に生まれ、オランダで幼少期を過ごした兄弟。クラリネットとサックス奏者でピアニストでもある父と、教育熱心な母の意向でピアノによるクラシック音楽の教育を受ける。アジア人であるがゆえに当時のオランダで人種差別を受ける母の苦境を逃れるため、一家で母の姉妹の暮らすアメリカカリフォルニア州に移住する。英語を片言も話せない中、アメリカの学校へ転入したときから言葉によるハンデやいじめから身を守り生き延びるために兄と弟が助け合う絆は一層固くなった。成長するとともにクラシック音楽からロックンロールへと兄弟の興味が移り兄はギターを、弟はドラムセットを手に入れる。が、弟がドラムセット代を稼ぐべく新聞配達の仕事をしている隙に兄がドラムセットを乗っ取るという兄弟あるあるのシチュエーションに。兄がドラムの腕をどんどん上げていくので弟は仕方なくほったらかしの兄のギターを手に取る。すると弟はギターにのめり込み、兄はギターの腕をみるみるあげる弟がギターの天才であることを確信する。そしてその才能がバンドや家族、周りの人すべての財産になることも。

紆余曲折を経てバンドがレコードデビューを果たすと当時ディスコミュージックが主流でロックは流行らないとされていた時代に瞬く間に売り上げを伸ばしあっという間にスターダムをのし上がる。アメリカの音楽シーンの一時代を築き上げその体験をバンドの立ち上げから各アルバム、ツアーなどの話を織り交ぜて語っているのは興味をそそる。でも何よりもこの本のストーリーに惹きつけられるのはロックなライフスタイルではなく、著者が音楽や兄弟愛について語るとき、その思想が心に響くからだ。例えば、ライブで観客の心に残るのは歌の歌詞ではなくて、その音楽によってどんな気持ちになったかだと著者は言う。確かに、歌の詩の言葉は記憶の中でいつまでも残るということはないかもしれないけど、記憶にいつまでも残るのはあの時のライブでこんな気持ちになったなという感情や言葉にならないような感覚的なものだと思う。また、彼らのバンドはフロントマンとしてのボーカリストが中心でその引き立て役・伴奏をするのがバンドというのではなく、バンドの演奏する音楽が先にあり、ボーカリストはその音楽の一部にすぎない。自分たちはミュージシャンであり、ライブ演奏では観客と音楽というエネルギーを共有し、共鳴させるのだといった描写は自分にとってロックバンドというものの見方が変わる新しい発見であると同時に深く納得した。いつも仲良しというわけではなく、音楽のことからそうでないことまで衝突も多く、取っ組み合いのケンカも頻繁にあったそうだが、兄弟二人だけでドラムとギターのジャムをしているときが一番音楽的に生産性のある時間だというようなことを語っているところは兄弟の絆の深さを物語る。

著者の音楽や兄弟愛などの思想にふれ、自然とヴァンヘイレンの音楽が聴きたくなった。聞いてみると代表曲である「ジャンプ」は聞き覚えのあるキーボードのラインが印象的で、ああこれヴァンヘイレンだったのかとわかった。もうひとつ、これはカバー曲だそうだが「プリティーウーマン」の主題歌もおお!これそうだったのと思った。そのほか聞いたことのない楽曲も聞きやすくなかなか良い。何日かいろいろなアルバムを聴いていると頭の中にふと蘇ってあのかっこいいメロディーをもう一度聞きたいなあと思うのがやはり弟エディーのギターの音だから不思議だ。聞くだけでは物足りず、YouTubeの動画でもEd Van Halenを検索してみると伝説的な彼のギターソロの動画がたくさん出てくる。2015年にはEdの息子をベースに迎えてバンド再結成でツアーで東京ドームで演奏している様子もたくさん動画が出てくる。ロックもエレキギターも何も知らない私だが、多くの動画でエディが演奏中に満面の笑みを浮かべているのがとても印象的だ。多くの人がエディの笑顔がどんなに素敵かコメントしているとおり、演奏中にこんなに楽しそうな人は見たことがないと私も思った。満面の笑みもそうだが、目を閉じて口をあんぐりと開けて陶酔しているかのような表情で演奏している姿も印象的だ。自分の奏でるギターの音に陶酔するような表情で演奏する姿や喜びがあふれんばかりの笑顔を見ていたら自分もなんだかギターに触れてみたくなった。

ちょうど何かしらの形で音楽に触れたいとしばらく思っていたところだった。私の趣味は体を動かすことで、5年ほど前から少しずつ運動を始めて今ではマウンテンバイク、ジョギング、水泳、ハイキング、ヨガ、バックパッキングなどとにかく体を動かすことを楽しみに生活している。今はそれでいいが、年齢とともに体力が衰えてきたときに運動ではなく違う形で楽しめる趣味を見つけたいと思っていたのだ。夫はこの1、2年ベースギターをやりたいとレッスンを受けていて、中学生の娘はドラムをやりたいとレッスンに通っている。小学生の息子は学校で希望者だけ弦楽器を教えてくれるクラスがあり、ビオラをやってみたいとクラスに出始めたところだ。私は20代の頃からカラオケが大好きだけど大きな声や高い声が全く出ず、願いが叶うならいつかボイストレーニングでもやってみたいと思ってみたり、子供の頃に習っていてほんの少し弾けるピアノをもっと練習してみたら楽しいだろうかと考えてみたりしていた。娘のドラムレッスンについていって見ていると両手両足を使ったゲームみたいでこれも楽しそう。なんでもやってみるだけやってみたい気持ちがあり、なかなか興味が定まらない(笑)。でもエディーの演奏を聴いたり見たりしていたら48歳で新しい楽器に挑戦ってのも楽しそうだと思った。まさか自分がギター弾くなんてねっていう意外性がまた面白い。それでギターをやってみたくなった。

さて、ギターをやると決めたもののエディーのような超高速スピードのロックを奏でたいとも思わないし、どんな音楽を弾いてみたいかも決まっていない。とりあえず夫と娘の通うミュージックスクールで30分の無料体験レッスンを受けに行くことにした。無料体験では私がヴァンヘイレンの音楽を聴いていると言ったのでエレキギターを持たせてくれた。コードとよばれる指のポジションを1つ、2つ見せてくれて右手のピックで弦を上から下まで滑らせてジャラーンと音を出すということをして遊んでいたら30分あっという間に終わってしまった。無料体験をしてみて、今の私のレベル(=知識・スキルゼロ)でレッスンを受けてもお金の無駄になってしまう気がしたが、ギターはとにかくやってみたい。まずはYouTubeなどで自分にできそうなことからやってみて、そのうち独学では上達できない壁にぶつかったらレッスンを受けることを考えればいいと思った。それを夫に相談したら次の週末にギター屋さんへ行ってビギナー用の手頃なギターを見てみようと言ってくれた。

エレキギターかアコースティックギターのどちらを弾きたいのかもわからない状態だったがミュージックスクールではとりあえず初めてのギターならアコースティックで始めたらと薦められた。理由はよくわからない。それでしばらくアコースティックギターをオンラインで探していた。ところがギター屋さんへ行くつもりの前日になって気になったことがある。いざ家で練習することになったときに、家族や近所の迷惑にならないで時間帯など心配せずに好きな時に練習したいと考えてみると、ヘッドフォンで自分だけに聞こえる状態に設定できなければ困るということに気が付いた。そうなるとアコースティックギターでは無音にすることは無理なので選択肢はエレキギターということになる。それでエレキギターを探すことにした。いくつかYouTubeで初心者向けで予算200ドル前後のエレキギターおすすめ動画をみて2つほど興味のあるギターをピックアップしておいた。

当日お店で店員さんにビギナー向けのエレキギターを見に来たことを伝えると、その価格帯ならこれかなと言ってスクワイアというブランドのギターを勧められた。お値段199ドルだから予算内だし、私の予算ではそれ以外ほどんど選択肢はなさそうだ。私にはそれが良いか悪いかの判断基準すらほとんどないが、敢えて言うならパステルカラーの淡い水色と白が基調のボディーにどうも興味がそそられない。それでピックアップしてあったYAMAHAのビギナー向けのギターはあるか聞いてみた。すると中古品のセクションへ導かれ店員さんがこれと言って見せてくれたのはYAMAHA Pacificaというちょうど私がピックアップしていたモデルだった。色はグリーンでイメージしていなかったけど濃いめの深いグリーンでこれなら馴染めそう。お値段も160ドルと予算内でぴったりだ。このYAMAHAのPacificaというモデルは店頭に置いてると思っていなかったからこの1台(?)との出会いは縁だなと思った。店員さんが音を出してみるといい感じだと言い、一緒に来てくれた夫もいい音だねと言ってくれたこともあり他のギターも試さず即決。中古なのでお店で弦を新しいものに取り換えてもらい、ミニアンプも購入。前のオーナーさんが電源につなぐコードとギターバックはつけてくれていた。

早速家に帰って夫に手伝ってもらいチューニングしたあとに遊んでみる。YouTubeを見ながらまずはドレミファソラシドを弾いてみる。ドレミが鍵盤に規則正しく並んでいるピアノと違ってドレミの位置が一か所ではなくいろいろな場所に散らばっているらしい。なんとか動画で教えてくれたドレミファソラシドの位置を覚えて繰り返し弾いてみる。それだけで楽しい。そしてその動画でギター1日目のハイライトである「きらきら星」の演奏に挑戦。ゆっくりだけどなんとか演奏できた。ギター弾けてる。楽しい。弦を抑える指が慣れなくて痛いけど、指がなれるまではそういうものらしい。いくつかの動画でギターは初めて1か月で9割の人が挫折してしまう難しい楽器と言っているのを聞いたけど、小さなステップができるようになるまで根気強く繰り返し練習するつもりでいればちょっとずつうまくなれるような気がする。毎日仕事から帰って来てから夕飯の支度をするまでにホッと一息ついて気分転換したいと思っているけど、そういうときにギターの練習に夢中になれる時間を1日5分でも10分でも持てるのが楽しそう。今まではそこでお腹が空いていなくてもおやつを食べるのが一番の気晴らしだったのだが、それをギターに置き換えられるなら一石二鳥だ。それに運動することが趣味だと外へ出かけないとできなかったけど、ギターだったら雨の日も外へ出なくても部屋の中でできる。1時間でもいいし、5分でもいい。手軽に手を伸ばしたらちょっと触れられる趣味っていうのが良い。

これからどんな風に上達していけるか楽しみだし、どんな曲が弾けるようになるか考えるとワクワクする。もしも楽しく続けられたら、もしかしていつの日かその時の気分に合った音やメロディーをランダムに奏でて表現してみたり、心の中にある言葉にならない気持ちみたいなものを音にして表現してみたりできるようになっているかもしれない。そんな可能性を想像するとウキウキする。自分らしい音みたいなものが出せたり音楽で表現できたり、自分という人間を言葉ではないもので表現できるのも素敵だな。そういうレベルに達することができるかどうかは別として、ギターを鳴らす時間を、そしてギターから出る音を味わい音楽を楽しんでいきたい。



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