水泳と出合えてよかった
2019年の夏に泳ぎ始めてもうすぐ4年になる。
幼稚園年長さんから小学校3年までスイミング教室に週1で通っていたから、なんとかクロール、平泳ぎ、背泳ぎで50メートル、ギリギリ泳ぎ切れるくらいまで習得したけど、スイミングを辞めてから30年ほど、泳ぐことはほとんどなかった。
子供の時のレッスンでは、よくわからないまま適当に泳がされるだけで、説明を受けた記憶がまったくない。もちろん、当時の先生は足の動かし方をアシストしてくれたり、肘を上げてなどと簡単なアドバイスはくれていた。それに、競泳チームでもなんでもない子供のグループレッスンで、小学校低学年の子供に丁寧に理論を説明したところで、当時の私には理解できなかったとは思う。ただ、せっかく数年習っていたのに、なんとなく「私、泳げます」と言える自信もない状態で終わってしまっていた、小さな後悔みたいなものがずっとあった。それから、ゆっくりのんびりと長い時間泳ぎ続けられる人になってみたい、という憧れも、心のどこかにいつもひっそりとあった。
あるとき「ゆっくり長く泳ぎたい」というようなタイトルの本を買って読んでみたものの、プールに行って実際なにをどうやって練習していけばいいのか、それだけを頼りにプールへ行こうという自信、勇気、やる気は湧いてこなかった。
2019年の夏、家族で小旅行へ出かけた時に、子供たちとホテルの小さなプールで遊んで、プールで泳いだ後特有の、体がフワフワッと緩んで気持ちのいい疲労感に包まれた。ああ、この感覚、懐かしい。水中でやんわりと水圧に包まれていた時間から、陸へあがって体全身が解放される感覚なのだろうか。本当に独特の、体全身が緩むと同時に、心も緩んで解放されたような、とてもほわほわした良い気持ちの疲労感に包まれる。それがなんとも心地よい。小学生のころ、夏休みでプール遊びに行ったときにも、帰り道はいつもこの感覚を味わってたなあ。
まだ子供たちも小さく、自分の時間が取れず、自分の体や心のケアが常に後回しになっていたところに、心地よい疲労感で、小学生の夏休みの記憶が蘇った気がした。このときの旅行で感じた心地よい疲労感が、やっぱり水泳をもう一度やってみよう、という気持ちを確信に変えた。
時代は変わって、知りたいことは本やビデオテープなど購入しなくても、YouTubeを検索すれば、どんなことでも無料で映像で学べる時代になった。
いくつか水泳の基本、泳げない人が泳げるようになるためのドリルなどを、わかりやすく説明してくれている動画を見つけて、いろいろ視聴してみた。子供のころには見よう見まねでしか、習ってなかったけど、頭でいろいろ理解しながら取り組めるのは、とても楽しそうだった。何週間かは、動画をあれこれ見てみるだけだったけど、ある程度、どういう風に練習しようか、具体的なドリルのアイディアが頭の中に蓄積されてきたとき、「よし!プールへ行ってやってみよう!」という決心がついた。
そこで、プール施設があるジムを2つ見学に行って、会員手続きをしてきた。今考えるとおかしいけど、最初は、絶対に誰一人もプールにいない時間を狙って行きたい!と強く思っていた。誰か一人でもプールに人がいようものなら、その日は泳ぐのを諦めてしまいそうなくらいだった。それぐらい自信がなく、泳げない自分がプールにいるのが場違いな感じがしていたのかも知れない。
今考えると本当におかしいんだけど、当時の私は、プールで泳ぐということは、プールの壁から壁までの間は絶対に泳ぎ切らなければならない!でないと泳げないみたいで恥ずかしい!という呪縛にかかっていた。だからものすごいプレッシャー(笑)。
それを変えてくれたのも、動画で練習ドリルなど勉強するうちに、一つの動作をやるたびに立って、仕切り直してまた繰り返す、というような練習方法が紹介されていたおかげだ。本当にありがたい。
そのおかげで、1回1回立ちながら動作の練習をすればいいんだ、と気持ちが随分と楽になった。
毎回やってみたいドリルを2,3個覚えて、プールで実践するのは楽しかった。一人だけど。子供のころにできなかったこと、頭で理解しながら泳ぐ練習。何もわからずやらされているのではなくて、自分でやることを理解して、目的意識をもって練習するのは楽しい。
仕事の帰り道にジムで30分、水泳の練習をして帰るのは、とっても新鮮だった。仕事からまっすぐ子供を迎えに行って、帰宅、夕飯の支度をした方が時間に余裕があるはずなのに、ジムへ寄り道して帰った日の方が、気分がとても晴れやか。1日をやらなければならないことだけで過ごすのと違って、仕事の後に、自分の意志でやりたいと思ったことをやる時間を挟むことで、なんだか心が希望で満たされるような。
たとえ30分でも、自分のために過ごす時間がある、というのも子育てと仕事と家庭のこととで息をつく間もないような生活に、大きな大きな希望の光を与えてくれた。それで、週に3回でも4回でも、1回の時間は短くとも、泳げそうな日にはプールへ行くようになった。
少しずつ泳ぎ慣れてきて、50メートルの壁を越えられず、長い間停滞していた時期もあったけれど、「息が上がり過ぎない程度のゆっくりのスピードで泳ぐ」ということを教えてもらい、パニックになりそうな気持を必死に抑えて、慌てずにゆっくりゆっくりのペースで、「体に力を入れ過ぎずにやさしくやさしく手と足を動かし続ける」ということを理解し、できるようになったとき、100メートル達成、200メートル、それから1000メートルと一気に距離を伸ばすことができた。
最近は、マウンテンバイクが楽しくて、泳ぐ頻度は週1くらいに減っているけど、私にとって、水泳の時間は無くてはならないものになっている。
他のスポーツでは得られない、精神面でも安らぎを与えてくれるとても大切な時間だ。
水の中で、手のひらや体全身で水の感触を感じながら、丁寧に水を運ぶ(かく)動作を繰り返す。腕や手のひらの角度なんかの細部にまで注意を払いながら、バシャバシャとしぶきを立てないで丁寧に手を水の中へ滑り込ませる。体のローリングと腕の回すタイミングや、キックのタイミング、ボディーポジションを意識しながらすべてのタイミングをスムーズに連動させるように。水中だと、当然ながら呼吸もコントロールし、吸うときも吐くときもタイミングをぴったりと合わせなければならない。
そんな風にゆっくり泳ぎながら、呼吸とともに一つ一つの動きに集中し繰り返していると、その時間全部が、まるごとマインドフルネスの時間になっていることに、昨日気が付いた。だから、波だった気持ちが落ち着いたり、イライラ、ざわざわしていても、泳いだ後は気持ちが落ち着くんだな。余計なことを考えないで、泳ぎだけに集中して水中で過ごすと、頭の中も心の中もフラットな状態に戻してくれる。体のエクササイズとともに、心もクリアにしてくれるなんて、本当に水泳に出会えて良かった。
何か気持ちが落ち着かない時、大事な考え事で答えがでないとき、迷いが出たとき、悲しいとき、少し心が疲れたときも、水泳がきっと私の助けになってくれる。
上手くはなりたいけれど、競泳にはまったく興味がない。もっと上手に泳げるようになりたいけれど、もっと上手にというのは、もっと速くなることなのだろうけど、どのくらい速く?と聞かれても、どのくらいがいいのか正直わからない(笑)。別に速くなくてもいいか、とも思ってしまう。けれど、1つ興味があるのは、「海で泳いでみたい」だ。いつか泳いでいる魚が見えるようなきれいな海で、オープンウォーターのイベントなどに参加してみたい。
そんなぼんやりとした希望をもって、いつかその夢がかなう時を楽しみに、
これからも楽しくのんびりと泳いでいこう。