初動の火花散る、爆発する事情と可燃性の埖
「名前を隠した焚き火だった。」と燎原の火に鳴りつつある。私は何をした、滑稽さに息を飲んだ。「たかが“火“」を二回連呼した。
たかが、火くらいで、騒いでいる。
計算された「火」くらいで、紙の埖に、発火した。これは「現実」だった。
空想は「火」になって、騒ぎ出すと、
一日の一人は「火」になってゆくもの。
「御前が好む擦れてない眼や、薄白い肌も含めて。」擦れて行くのは、お手のものだろう?
絶え間ない「御前」の演技力を、同一人物だと、捕まえる初動性の事情を掴み取って。
埖だ、ごみ、埖だ。
私の目を鏡越しに観た。あっけらかんとした乾いた目だった。行先には餌食だけで。
「御前の理由を教えて。」と聴かれた。
殆ど、アドリブだ。
「理由なんてないよ。」と否定をした。
「火の伝播や制御も含めて。火線は何処にある。」と、
「燃え尽きたけど、橋渡ならば、同一人のアドレスに埋めた。」
「埖は、紙に引火した火の行方は」
「それなら、ネット上を観て」
「誰かが拡散するとでも」
「計算しているのは、私じゃない……」
“アドレス“だ。
「それは現実か、空想か。」
「あなたはどちらだと?」(笑)
「匿名性は火だ。」
そう呟いてみたところで、誰もそれを耳にしない。だから火だ。見えないままに燃え広がり、触れたもの全てを炭に変える。
「現実は埖だ。」
誰が言い出したかも知らないけれど、私はその言葉を借りた。現実に埋もれた埖たちは、匿名の火に触れた瞬間、形を変えて伝播していく。熱を帯び、溶けるように意味を増殖させながら。
「御前はどう思う?」
鏡越しの乾いた目に問いかける。反応はない。それも当然だろう。御前は火のようで、埖のようだ。
無名でありながら、何かを確実に壊していく。真っ白な炎のように。
ネット上の火線は何処にあるのか。
思考はそこへ繋がっていく。画面の向こう側には無数の「火」が灯っている。それは誰かの悪意かもしれないし、単なる好奇心かもしれない。あるいは、何かを正そうとする正義感かもしれない。だが、どれも名前を持たない。
それでいて、現実に足跡を残していく。埖を燃やし、灰を撒き散らしながら。
「誰かが見ている。」
この言葉は安い呪いのように浮かび上がった。見ているのは私かもしれないし、誰か他の誰かかもしれない。ネットに放たれた「火」は、放たれた瞬間に私の手を離れる。
それを止める術はない。いや、止めようとしたことすらない。
現実と埖の境界が消えていく。
目の前の鏡が揺らぎ始めた。鏡の向こう側には私がいるが、そこに映るのは埖そのものだった。
「理由なんてないよ。」
再び呟くと、鏡の中の私は微笑んだように見えた。その笑顔はひどく冷たいものだった。
「御前、聞いているのか?」
沈黙が答えだった。だが、私には分かっていた。御前は名前を隠した火だ。誰かを燃やすために存在している火だ。
火の明滅を眺めながら、私はスマートフォンを操作する。送信したメッセージはどこかの火線に沿って伝わるだろう。誰かの現実を揺るがし、誰かの埖を炭に変えていく。
それを見届ける術もなく、私はただ次の火を灯すだけだ。
現実に漂う埖の中で燃え広がる火線が、どこで途切れるのか、あるいは途切れないのか、もう気にすることもなかった。
「この火は、私のものじゃない。」
再び呟く。呟いた言葉は空気に吸い込まれ、どこにも届かないまま消えていった。
匿名性の火は、現実の埖に火を放ち続ける。名前を持たない限り、それは止まることはない。
そして私はその輪の中で、ただまた別の埖を燃やす準備をしていた。