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なんだか大変そうな人@通勤

朝の1分というのはその日のうちで最も尊い60秒である。

家を出るまでにあと1分あればハンカチを忘れなかったのに。香水をふれたのに。ピアスを選べたのに。プロテインを飲めたのに。電車通勤になって1年超。そんな思いで毎朝家を出る。

夏の朝は大変だ。太陽がまぶしく、紫外線が強く、何より、汗をかく。いかにまぶしい思いをせず、日にやけず、汗をかかないか、は私の夏の通勤におけるテーマである。

大人や学生がこぞって早歩きで駅に向かう。中には走る人もいる(わたしもよくやる)。

ようやっと電車に乗り込むと、思い出したかのようにわーっと汗が出てくる。朝浴びたシャワーの温度が熱かったからだろうか、いつもより早歩きしたからだろうか、日傘の持ち方が悪く筋肉を使いすぎたかもしれない、横断歩道を少し駆け足したからだろうか、最後の登り階段を最後の10段だけ駆け上がったからだろうか。「明日の朝は汗をかかないためにどうするか」の反省会を、汗が引くまでする。やはりあと1分早く家を出るべきだ。

5駅も揺られていると反省会が終わる。人が多く立っているしかないので、窓の外を見たり、目の前に座っている人のあほ毛を数えたりしている。あと1分あればこの人もケープをしっかり吹きかけられただろうに、と人の反省会までする。

電車を乗り換えると乗客が少なくなり、席に座ることができる。向かいに座っている人とその奥の景色を眺める。

ふと車内で化粧をしている人を発見した。他人の目など気にせず、必要十分な化粧を施す様子をその人に見つからないようにじっとみつめる。理由は特にない。あるとすれば、電車通勤を始めてすぐのころは私もなぜか化粧だけが間に合わず、よく職場の最寄り駅のトイレで化粧をしていたので、「頑張ろう、ともに」という仲間意識からかもしれない。

とはいえ、車内で化粧をする人はその時間帯ではかなりめずらしかったので、朝から大変だったんだろうな、といろいろと想像を巡らせた。

その方とは同じ駅で降りた。見ると、そこそこ重そうなトートバックを両肩に掛けていた。なんとも大変そうである。私は私で自分の紫外線対策に夢中になってしばらく歩いていたが、再びその方の方を見てみると、さっきまではなかった、ストローを指したエナジードリンクを片手に持って颯爽と歩いていた。やっぱり大変なのかもしれない。

その方はその日1日どんな日を過ごしたのだろうか。その次の日の通勤はどうだったのだろう。なんだか大変そうな人だった。朝の1分を取り戻していたのだろうか、1分どころではなかったのだろうか。

何にせよこの社会で、頑張ろう、ともに。

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