
【読書感想文】 芸術系の学校に進学したい人必読のノンフィクション 『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』
昔、某大学の学園祭に当時すでに『水曜どうでしょう』で全国的な人気を博していた大泉洋氏がいらっしゃると小耳に挟み、同番組の大ファンである私は、ぜひとも実像を拝見したく友人たちと勇んで出かけて行きました。
中庭みたいな広い場所にステージが拵えてあって、私たちが到着した時にはすでに地べたに直座りのステージ前席は観客でいっぱいでしたが、どうにか後ろから数えて3〜4列目に潜入。
"ステージから遠いな"と思ったものの、ふと気がつくと、さらに後方で立ち見をしている方もいっぱいで、さらにステージを見下ろせる校舎の2階、3階から観ようとしている学生さんたちもいたことを考えると、その場所に入れたのはまだ運が良かったのかもしれません。
そうこうしているうちに、ステージ上に大泉氏が登場すると、大歓声で迎えられ、たくさんの観客を前にしてご満悦のご様子です。
そして、次から次へと爆笑を巻き起こしながらステージは進行していき、観客から大泉氏への質問コーナーになりました。
すると、隣りに居る友人たちが低い声で何度も私に囁いてきます。
「ねぇ、手挙げて、土井善晴のモノマネしてって言って」
「なんでよ! それ質問じゃないでしょ!! それにこんな後ろじゃ当てられないよ!!」と、私は拒否しました。
実際、挙手をして当てられているのはすべてステージに近い前方に居る方ばかり。
質問者に渡されるマイクは前方にしかなく有線であることから、間違いなくそのマイクが手元に届く範囲内に限定されていることは明らかなのです。
もし仮に私が挙手をして当てられたとしたら、きっと大声で叫ぶことになるのは必至。
しかし、それまでの人生で小学校の卒業式の時の呼びかけでしか叫んだことがない私の声が遠くのステージまで届く可能性は限りなく低い。
さすれば、軽く一千人は居るだろう人たちの前で的外れなことを何度も叫ばなければならない羽目になるかもしれません。
なんという辱め。
それだけは避けたい。
そんなわけで質問コーナーが続く中、断固拒否の私と友人たちが醜い小競り合いを続けていると、前方で手を挙げていた8歳の少年が当てられ、こう言いました。
「田中眞紀子のモノマネしてください」
すると大泉氏は、
「それ質問じゃなくて要望だろ?」
と冷静で的確な返答をし、それを聴いた私が勝ち誇った様にぐいっと隣りを見やると、友人たちは
「うちら、8歳とレベルが一緒だ…」
と口々に呟き、愕然としていました。
ちなみに、大泉氏はそうは言いながらも田中眞紀子さんの至極のモノマネを惜しげもなく披露してくださいました。
お優しい方です。
"芸術大学の東大"
本日は、『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(二宮敦人 著)をご紹介します。
子供の頃のほんの一時、絵描きに憧れた私としましては実に興味をそそられるタイトル。
この本が目に止まった瞬間、"読まなければ!"と思ったことを覚えています。
そんな東京藝大こと東京藝術大学は、東京都台東区上野公園にメインキャンパスを置き、芸術学部と音楽学部を要する国立大学です。
そして、"芸術大学の東大"と呼ばれるほどの難関校でもあります。
芸術系の学校に進学したい人たち必読の書
この作品は、謎と秘密に満ちた東京藝大のぶっ飛んだ日常を、藝大生へのインタビューで解き明かすノンフィクション。
芸術を志す人たちの異次元な大学生活と頭の中を覗けたようで面白かったです。
特に芸術学部のカオスっぷりと学生たちの銀河の果てにでも行ってしまいそうな感性には、まだまだ日本も大丈夫だな、という妙な安心感を覚えました。
そして、美術も音楽も才能だけではなく、何かを引き換えにした計り知れない努力と試行錯誤を重ね続けた上で存在することを改めて思い知った次第です。
そのようなわけで、未知の世界を垣間見れるこの作品は、将来、芸術分野を生業にしたい人や東京藝大のみならず芸術系の学校に進学を希望する人たちの必読の書なのではないかと感じます。
それにしても、私も「お前ら、最高じゃあああああああァ!」と絶叫する学長のいる大学で学びたかったと、羨ましくなりました。
P.S.
音楽学部声楽科の学生だったKing Gnuの井口理さんが普通にインタビューを受けていて、ナチュラルにびっくりしました。
あえて読み返すことはありますが、まさか読書で二度見するとは思わなかったです。
それにしても、嘘かホントか上野動物園の動物たちもびっくりな藝祭に通常の日常に戻れたならばぜひ伺いたい。