効率の良いダメージの与え方とリード率

拙著『モンスターファーム2裏バトルマニア』においては、「リード率」と呼ばれる独自の数値で戦術を組み立てることを推奨しています。リード率とは、いわば「あるひとつの技を主力技と定め、その技のみで戦ったと仮定した場合に、残り15秒の時点でリードしている確率を数値化したもの」です。これにより、今まで漠然と「相性が良い/悪い」「この種族は強い/弱い」と、プレイヤーの主観で判断していたものを、かなり具体的に可視化することに成功しました。

今より20年ほど前、PS版MF2のマニュアル対戦が大きな盛り上がりを見せていました。その頃主流だった戦術は「小技至上主義」もしくは「命中率至上主義」でした。要するに、試合が始まったらまずはガッツを溜め、ガッツが溜まり次第できるだけ低コストで、できるだけ命中率の高い小技でちくちくとダメージを蓄積させていく戦い方で、これが最も無難で堅実、どの技を主力にするか迷ったら、とりあえず低コストで命中率の高い技を主力に据えておけ、という感じでした。
しかしそうは言っても、小技あるいは命中重視技の使い勝手は種族によって異なっているわけで、そうした技の使い勝手が良い種族は強い、そうでない種族は弱いということに「なってしまっていた」のです。「弱い」種族は「強い」種族に対して相性が悪いと決まってしまい、他の技を主力にしてみたらどうだろうか、という研究がろくに進むこともありませんでした。かと言って命中率よりも火力を重視し、それでたまたま大ダメージ技が複数回ヒットして勝ったりした日には「不安定な戦術」「大技戦術」「運ゲー」「確率崩壊ゲー」等と揶揄され忌み嫌われていた風潮、これでは戦術の発展が止まってしまっても仕方ありません。確かに「小技至上主義」「命中率至上主義」の戦術は、ひとつの面では筋は通っています。低コストの技を主力にしておけば、相手とのガッツ差が小さくなるわけですから、相手の技を受けた時のダメージを小さく抑えることができますし、命中率の高い技を主に使っていけば、相手に高い確率で技を当てることができますから、着実にダメージを蓄積させることができます。非常にリスクが低い戦術と言えます。しかしMF2の対戦は、当たり前ですが、リスクが低ければ勝てるものではありません。60秒間経過した時点で残ライフ率の高い側、あるいは相手をK.O.した側が勝つルールです。いかにリスクが低かろうとも、相手より与えるダメージが少なければ、勝つことはできないのです。ゆえに勝率を上げるためには、リスクが低い戦術ではなく、相手に最も大ダメージを与えられる可能性が高い戦術を模索すべきです。求めるべきは高い勝率であって、安定などではありません。低リスクで勝つことができるのが理想なのは間違いありませんが、低リスクであることが目的であってはいけないのです。旧版で慣らしたプレイヤーには、この視点が抜けていました。恥ずかしながら、私自身もそのひとりでした。そこにメスを入れ、「なんとなく」「気がする」「イメージ」「印象」といった主観的な、数値的な根拠の薄い理論を徹底的に否定したのが「モンスターファーム2バトルマニア」でした。その理論をさらに推し進め、より理論的に研究・分析を深めたのが、「裏バトルマニア」ということになります。

と言っても、特別難しいことは言っていません。要するに「どの技を主力にするのが相手に最も大ダメージを与えられる可能性が高いか」を、計算で導き出しているというだけです。
ゆえに「リード率重視の戦術」とは、命中率重視でも、火力重視でもありません。その中間、いわば「相手に与えるダメージ平均」が最も高くなり、「相手から受けるダメージ平均」を最も抑えられる戦術、ということになります。そんな夢のようないいとこどりの戦術が、本当に成立するのでしょうか? ここではできるだけ難しい用語や計算を使わずに解説しますから、安心して読み進めて下さい。

解説をできるだけ簡略化するために、前提を設けさせていただきます。
①技はこちらのガッツ98で出し、相手はガッツ85の状態で受けているものとする
②ひとまずクリティカルは考慮しない

自分の使用モンスターがシリウス(ケンタウロス/G11)、相手の使用モンスターがギドラス(ドラゴン/G14)として、どのような試合展開になるかを予想してみます。
旧来の戦い方であれば、シリウスの主力技はおそらくハイパー突き(火力指数16)で、ギドラスのそれはしっぽ(火力指数17)、しっぽアタック(火力指数23)あたりでしょうか。そのあたりの技が比較的低コストで命中率も高く、最低限の火力も出るからです。では、ハイパー突きとしっぽを撃ち合ったとしたら、残り15秒の時点で戦況はどうなっているでしょうか。
ハイパー突きの基礎使用可能回数(試合開始~残り15秒までの45秒間で、ガッツを98まで溜めて撃てる最高回数)は3回、しっぽも同じく3回です。次に命中率とダメージ。補正を考慮に入れた場合、ハイパー突きの命中率はおよそ64%、命中時のダメージはおよそ117。対してしっぽの命中率はおよそ60%、命中時のダメージはおよそ124です。
そして残ライフの組み合わせです。どちらも撃てる回数は3回ずつ、これに対して命中回数はそれぞれ0~3回の4通り、掛け合わせると16通りとなります。そうすると、単純計算で、以下のように分けることができます。

表の黄色は1P側(シリウス)がリード、黄緑色は2P側(ギドラス)がリードしていることを示します。

これだけを見ると、2P側が有利では?と思われるかもしれませんが、その判断はまだ早いです。これは単にダメージ量と命中回数の相関を表しているに過ぎず、命中率が考慮されていません。命中率を考慮に入れるためには、「期待値」を用います。
「期待値」とは、1回の試行に対して、平均してどの程度のリターンが期待できるかを示す指針です。このゲームの仕様として、命中すればダメージが通りますが、命中しなかった場合のダメージは0。よって、この仕様における期待値は((補正込みの)ダメージ×命中率)/100 で求めることができます。これをそれぞれの技に当てはめると

ハイパー突き:117×64/100=74.88
しっぽ:124×60/100=74.40

これに基礎使用可能回数を掛け合わせたものが、それぞれのダメージ平均です。

ハイパー突き:74.88×3=224.64
しっぽ: 74.40×3=223.20

この2つを比べてみれば、およそのリード率が算出できます(クリティカルが考慮されていないため、正確とは言えませんが)。

224.64:223.2=50.2%:49.8%

つまり、ほんのわずかですが、(残り15秒の時点で)シリウス側がリードしている確率が高いことになります。とはいえ、その差はわずかであり、ダメージ平均の実数値にして1~2程度しか差がありません。ここまで差がないと、ほぼ五分と言ってしまって良いでしょう。これを考慮すると、命中率の高い技がレンジ1~2に固まっているシリウスに対して、補正で上回っているうえに、火力でも命中率でも上回る技をレンジ2~4の広範囲に持っているギドラスの方が、総合的には有利であると言えるでしょう。

では、主力技のハイパー突きをさらし投げ(火力指数49)にしてみた場合はどうでしょうか。ハイパー突きと比べるとかなり命中率が低く、旧来の戦術を好むプレイヤーからは忌避されがちな大ダメージ技です。
上記の場合と同じように、命中回数とライフ残を表にしてみましょう。さらし投げも、基礎使用可能回数は3回です。そして補正を考慮したダメージはおよそ359、命中率はおよそ33%です。

注目すべきなのは、さらし投げが1回でも命中した場合、高確率でリードした状態で終盤戦を迎えることができるという点です。さらし投げが1回命中してもしっぽを3連続で当てられてしまうとさすがに逆転されてしまいますが、命中率60%のしっぽが3連続で当たる確率は21.6%とかなり低いです。それに対して命中率33%の技を3回撃って、1回でも当たる確率は71.25%です。逆に言えば、3回とも外す確率は28.75%。そしてハイパー突きの火力指数16に対し、さらし投げの火力指数は49と、ハイパー突きの3倍以上。つまりハイパー突きを3回当てても、さらし投げ1回のダメージに届かないのです。参考までに、ハイパー突きが3連続で当たる確率は約26.2%。どちらに賭けた方が可能性が高いかは、この時点でも想像がつき始めたことでしょう。
しかし、まだ計算の途中です。期待値を算出し、およそのリード率まで算出してみます。

さらし投げの期待値:359×33/100=118.47
しっぽの期待値:124×60/100=74.40

これに基礎使用可能回数を掛け合わせ、ダメージ平均を出します。

さらし投げ:118.47×3=355.41
しっぽ: 74.40×3=223.20

355.41:223.20=61.4%:38.6%

このように、ハイパー突きを主力にするよりも、かなりリード率が高くなったことが分かります。ダメージ平均の差は約132。つまり、互いに平均どおりにダメージを与えれば、あと1回余分にしっぽを当てられても逆転されることはありません。しかも、早い段階でさらし投げが命中すれば、確率は低いながらも2回以上命中する可能性があり、その場合はさらに大差がつきます。逆に3回連続で外してしまっても、さらし投げ1回で逆転できないライフ差になるのはしっぽを3連続で当てられたケースのみ(今回の計算ではクリティカルを考慮していません)。それ以外のケースであればさらし投げが1回でも当たれば逆転することができますし、さらし投げ1回での逆転が無理そうなら死神のヤリやメテオドライブに切り替えれば良い話。以上の根拠より、ハイパー突きよりもさらし投げを主力技に据え、初手からでも強気に撃っていったほうが、相手に与えるダメージが大きくなりやすいと言えます。
リード率の算出方法を見れば分かるとおり、互いのダメージ平均から算出しているため、リード率とは単にリードできる確率だけを表しているのではなく、原則的にはリード率が高い=平均的に大ダメージを与えやすい=大差をつけやすいことになります。よってリード率が高い技を主力に据えることは、それだけで勝率の向上につながってくることになります。もちろん、戦況に応じてどちらも技を切り替えるため、計算のように単純にはいきませんが、火力の高い技は基本的に命中率が低かったり、コストが高かったりするため、それだけリスクも高くなりやすいです。つまり、リード率の高い技を主力にすることは、それだけ相手にリスクの高い行動を強いる展開に追い込みやすい、と言い換えることもできます。

まとめると、リード率の算出に最低限必要な要素は、技の火力・技の命中率・補正・期待値・技の使用可能回数・ダメージ平均の6つ。より詳細に算出しようと思ったらこれにさらにクリティカル率やガッツダメージ等も計算に入ってきますが、少なくとも上記の最低限の要素だけでも、火力・命中率に加え、補正には互いのガッツ回復とガッツ量、使用可能回数にはコストとモーション時間、そして自分のガッツ回復を計算に含めているため、およそバトルに関連するほとんどの数値を多角的・総合的に分析した数値であり、「なんとなく強い」や「強いイメージ」「印象」といった主観的な要素を完全に排除して考察できる、画期的な理論と言っても過言ではないでしょう。

繰り返しますが、上記の計算は話を単純化するために、クリティカルや相手の技を受けたことによるガッツダメージ、それに伴う技の使用可能回数の減少等は計算に含まれておりません。「裏バトルマニア」の付録として同梱されている「バトルシミュレータ―」はもちろんこれらの要素も計算に含まれており、しかも互いのガッツ回復、主力技を選択するだけで瞬時にリード率を算出することができますから、主力技の決定に非常に役立つことは間違いありません、便利でしょ? 笑
上記のシリウスとギドラスの考察は一例にすぎませんが、例えば相手がギドラスではなくマグマハートだったらどうか、相手の主力技がしっぽではなくしっぽアタックやウィングコンボ、超ウィングブレスだった場合はリード率がどう変わるか、その際にベストな選択は……と、対戦相手や相手の選んだ技によってもベストな選択は変わりますし、相手によってベストな戦術を模索していくのが、戦術のさらなる発展につながります。どの技を主力にすべきか迷っている、あるいは現在主力にしている技が本当にベストなのか迷っている、そういう時にはぜひリード率を計算してみて下さい。「なんとなく」や「イメージ」ではない、本当の意味で「強い」戦術に、必ずつながります。

【目次】モンスターファーム2バトルマニア
【目次】モンスターファーム2裏バトルマニア
モンスターファーム2裏バトルマニア概略
モンスターファーム2裏バトルマニアサンプル


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