蠱毒な話
これは私がまだ小学校低学年の時の話。
その当時、今とは真逆で友達だとさえ思うくらいに毎日毎日虫と遊んでいた。
その日も人間の友達と一緒に、近くの公園に虫の友達を探しに行ったんだ。
今考えるととてつもなく恐ろしいことなのですが、その公園の植木の葉っぱを引っ張ると文字に書くことも恐怖に感じる小さい青虫が沢山糸を垂らしながら落ちてきていた。
その日の私はいつもにもまして頭が冴えていました。人間の友達に私はこう言った。
「このお菓子の缶に沢山沢山青虫集めよう。そんで遊ぼう!!」と。
葉っぱを引っ張る、糸を垂らして小さな青虫が現れる。それが楽しくて楽しくて、やめられなくて。一緒にいた人間の友達も、とても楽しそうに無心に集めた。
お菓子の缶のサイズは直径30cmくらいの丸いクッキーの缶。それに沢山沢山青虫のお友達を集めたんだ。
……書いてて気持ち悪くなってきましたが頑張るぞ、自分。
さて、集まった沢山の青虫のお友達をどうしたかというと……
「もう夕方になったから、明日遊ぼう。この子達はおやすみなさいしよう。また明日ね。」
と言って……缶の蓋を完全に閉めた。
よく考えよう、自分。
もし自分が「明日遊ぼう、またね」と激狭な部屋に乗車率200%みたいな人数で突然閉じ込められたら?どうなるのかを。
お友達が沢山詰まった缶は、親に見つかったら怒られるとの観点から公園に置きっぱなしだ。
少し、いやかなり心配だ。夜中に大人が開けて、せっかく集めた友達を逃したり、勝手に遊んだりしないだろうか……。そんな不安を胸にいだきながら爆睡した。
翌日、学業という仕事を終え、人間の友達とまた公園に行った。待ち遠しかった。会いたかった。
ワクワクしながら「おまたせー、何して遊ぼうかー」と蓋を開けた瞬間、絶句した。
お友達たちの大半は口?ケツ?どっちかわからないが赤い液体を出しながらほぼ動かなくなっていた。
これ、鮮明に覚えている光景なのだが、よくよく考えると青虫に血液なんてないから記憶の改ざんがされてそうだけど、とにかく覚えてる光景は赤い液体を出した大量の青虫の姿。
「え?なんで?昨日は元気だったじゃん?」
本当に子供は残酷だ。いや、子供じゃない、私は残酷だ。
結局、青虫のお友達で元気なものなど1匹もいなかった。弱々しく動くもの、動いていたがじきに動かなくなるもの。
人間の友達も私も泣きそうになった。せっかく集めて遊べると思ったのにと。また集めなきゃ遊べないと……そこに青虫のお友達に対する「ごめんなさい」の感情はなかった。
それが……いけなかったのか。
公園の植木がある場所、土の部分を掘り、缶の中のお友達をすべて入れ土をかけ……一応お墓みたいなものを作ったが、それは「お墓」を作ってみた、みたいなノリなだけでなんの意味も感情もなかった。
その日は流石に青虫のお友達を再度集める気力がなく、大きい青虫のお友達を数匹集めて車に轢かせて遊んでいた。
まじでサイコパスな子供だと思う。だから、今があるんだろう。
夕方になり、人間のお友達とバイバイした後当時住んでいた社宅の階段を上がり……ふと足、膝の裏あたりの違和感を覚えた。
濡れた感触、ベタついた何かが付着している感じ。
恐る恐る、自分の膝の裏(後十字靭帯側)を見た。
ここまで書けば、おわかりだろう。何がそこについていたか。
私は、膝の後ろ側に缶の中の最後の一匹をつけていたのだ。それを、何かの拍子に、自分で潰してしまっていたのだった。
気持ち悪かったのではない、汚いと思ったわけでもない。
なぜか、その時だけは……さっきまで大量のあれを(もう文字にできない)なんの感情もなく埋めたのに。さっきまで車であれしてたのに……。
急激に、後悔と悲しさと恐怖が一気に押し寄せてきた。いきなり泣いた。涙が止まらなかった。その時それ以外、何を自分が思ったか……今では思い出せない。
それ以来、あれが大の苦手になった。
あんなにお友達だと思っていたのに。手にのせてかわいいーなんていってたのに。
もう画像だろうがデフォルメされたイラストだろうが何だろうが見れなくなってしまった。
そしてもう一つ。
私のやった「缶に大量のお友達を入れて蓋をする」という行為。
とある霊感がある修行までしたエセ霊媒師の知人に話したところ
「馬鹿なの?」と1言。
「最後の一匹をやったとき、何を思ったか知らないけどそれは願い事としてカウントされてたらとてつもなく厄介だからね。まぁちゃんとしてないから完成されてはいないけど、未完成が一番厄介なんだよ、お大事に。」と……。
つまり、私のやったことは『蠱毒』そのものだと。
そして、ほんとに思い出せない。
私がその時、何を思ったかなんて。
悲しくて、泣きまくって。
それしか思い出せない。
ごめんなさいが願い事?
潰してごめんなさい?これ、どういう意味になるんだろうね、願い事だとしたら。
知人は教えてくれない。
「お大事に」の意味も、その先に何が見えているのかも。