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『うどん陣営の受難』を読んだ

津村記久子『うどん陣営の受難』を読んだ。

U-NEXTの出版部門がマンガだけでなく書籍も発行しているということを初めて知った。津村さんのこの作品は「100 min. NOVELLA」と言うレーベルで出ていて、「約100分夢中で読める中編小説」というコンセプトらしい。確かに薄くて手に取りやすく、軽いのとカバーがないのとで取り回しが良いというか、雑にカバンに入れて気軽に読める感じが良かった。
本を1冊読み切る気力や体力がない時にも、あまり読書に慣れていない人にとっても手に取りやすいサイズとデザインになってる。

この春から始まった企画らしく、津村さんのこれは第2弾(高山羽根子さんの作品と同時刊行)。第1弾は芥川賞作家の李琴峰さん、第4弾は吉川トリコさん。新進気鋭の女性作家たちの作品に触れる機会を読書好きだけのものにしない、良い企画だと思った。

この『うどん陣営の受難』、とても良かった。
とある会社の代表選挙をめぐるお話で、社員である主人公が所属するのはうどん好きが集まる緩い陣営。他陣営は代表選に勝つためにスパイ活動をしたり、敵側に不利になる情報を流したり、隠密裏に他陣営のメンバーを囲い込んだりしている。そんな不穏な動きを感じながら、主人公やその仲間の社員達が、選挙を、日々の会社員生活を、いかに自分自身の選択として選び取って行くかが軽妙に描かれていた。

現代に生きるということは否応なく何かに所属するということだけれど、何かに所属することはとてもストレスが溜まることだ。日々の生活の風向きは選挙で変わるはずだけど、選挙は往々にして虚しさが伴う。

うどん陣営の彼らは、受難に無理に立ち向かうでもなく安易に流されるでもない。仲間に悲しいことがあれば寄って話を聞き、うどんを食べ、相槌を打つ。どこに投票してもより良い社内環境は望めなさそう。それでも、どこに投票するか、はたまた棄権するかを決めるのは自分自身ひとりひとりであろうとする。

「これは悪くない」「これは嫌いではない」と思えることを甲斐にして日々を過ごし、己に関わる選択権を手放さず、他人の選択権を奪わない。
彼らを見ていると、これ以上に大切なことはないような気がした。

色んな事に疲れてどうでもよくなって、全部誰かが決めてくれ〜!って思うこともあるけど、そんな時でも、「まあうどんは好きだし」くらいのゆるさでも良いから、やっぱり自分で選んでいく人生でありたいよなと思った。

津村作品でよく描かれる名もない組織の名もない人々は、傷つきながらも自分のささやかな人生を自分で選んで歩いていて、すぐに人生に不安になる私をいつも照らして励ましてくれる。

そう言えば、これを読み始めた日にちょうど津村さんが谷崎潤一郎賞を受賞されたという発表があって嬉しかった。おめでとうございます。

受賞にあたってのエッセイ(上記リンク2ページ目)もすごく良かった。次は『水車小屋のネネ』読もうかな。

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