不織布マスクの再使用

不織布マスクを洗濯しての再使用も大丈夫なんでしょ、と言われて絶句したのでもうそんなことをしている人は少数派だとは思いながらも書いてみる。聞けば、マスク騒動の折に不織布マスクの再使用方法を紹介していた、と。あれは、あくまで緊急手段であり、マスクしないよりかはマシ程度のものを情報更新もせずにリテラシーの低いことと言ったら。

①不織布マスクのメカニズム                     不織布マスクは細かな網目で異物の通過を阻止していると思っている人向けに基礎情報を。市販されている多くの不織布マスクは網目での物理的な捕集を狙っているわけではない(一部の例外は後述)。一般的に不織布マスクの網目はウイルスよりも大きい(個人的には感染症対策には最低限BFE・VFE試験済み、できればPFE試験済みのものだと思う。粉塵用や花粉用ではあまり期待できない)。では、なぜ網目より小さな粒子の通過が抑えられる(捕集できる)かと言えば、多くの不織布マスクでは、3層フィルターなら真ん中に帯電層のフィルターがあり、静電気で小さな粒子をマスク繊維に吸着するからである。ということは、この帯電(静電気)を失わせる行為は捕集効率を低減させることになる。

②帯電層に影響するもの                       端的に言えば、水とアルコールである。なので、煮沸消毒やアルコール噴霧、除菌消臭スプレー噴霧などは論外である。自分の吐く息に含まれる水蒸気だけでも静電気が散逸して捕集効果が低下するほどである(なので、一般的な不織布マスクは使い捨てとなる)。                  アルコール手指消毒で手をこする行為を胸の位置(マスクの直下)で行うだけでも、揮発したアルコール成分でマスク帯電層の静電気が散逸して捕集効率が低下するので、アルコール手指消毒は顔をそらして(マスクとの距離をとって)行った方が良いとの報告(下図出典)まである。

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煮沸消毒で散逸した静電気をフィルターに再度帯電させることは、ヴァンデグラフ起電機(静電気発生装置)に3分間近づけるだけで簡単にできると東大の先生が報告しているが、家庭では難しいだろう。

③再使用できる不織布マスク                     洗濯再使用が可能な不織布マスクも一部にはある。それは、フィルターの捕集原理に静電気を利用していないものである。フィルターを何重にも重ねたり製造技術によって物理的に網目を細かくしたものや、ファンデルワールス力やブラウン運動によっての捕集を狙ったものである。パッケージに繰り返し利用可能や洗濯可能と表記されているものが該当する。

③性能を低下させない消毒方法                   N95マスクや医療用マスクの再使用のために性能が低下しない消毒方法の検討が世界的にも行われている。121℃15分高温蒸気、水プラズマ、紫外線、過酸化水素ガス、オゾンなどで数回の消毒では性能が低下しないという報告がいくつかあるが、家庭では難しい。                 家庭で出来そうなものでは、ヘアドライヤーで70℃30分処理することで1回はマスク性能が低下せずにSARS-CoV-2を不活化できた(2回目以降はだんだんと性能は低下)という報告がある。もっと簡単に高温を維持するために炊飯器でも不活化できたという報告も見かけたが、どの論文か忘れたので細かな条件は分からない(気分的にその炊飯器で米を炊きたくないのでスルーしてしまった)。

④私が実施している方法(マスクメーカー確認をしていない自己流)    単純に、放置である。プラスチック表面(不織布マスク素材)でも4日以上経過すると感染性が減少するという報告や、不織布マスクの外側に付着した感染性ウイルスが7日経過すると0.1%まで減少するという報告があるので、買い物などで短時間(1時間程度)使用したものは玄関先に放置して、1週間後に使用している。これを複数回繰り返した後に廃棄して新品と入れ替えている。

コスト削減のために繰り返し利用したい人への解決策は、よく見かける不織布マスクではなく、某ファストファッションの布マスクのように、布マスクでありながら不織布なみの捕集効率があって洗濯可能なものを購入してください(不織布と同程度の機能を求めるならどの布マスクでも良いわけではない)、の一言に尽きる。                        私は、鼻上部の隙間から漏れる息で眼鏡が曇るのであまり使いたくないが。

私は不織布マスクを再利用したい時は上記のように放置しているが、不織布マスクに関して基本的には、                     ①洗濯可能な不織布マスクまたは不織布フィルター(布マスクに装着用)を購入している。                            ②使い捨て不織布マスク使用時は、1日使用すれば静電気による捕集効果はなくなっている(花粉よりも大きなものしか捕集できない)と思って行動する。つまり、騒いでいる人とはマスクをしていても距離をとる、会話する時は自分のエアロゾルは通過すると思って距離をとる、最大限配慮が必要な場面では新品と交換する。

マウスカバーでも布マスクでも不織布マスクでも、TPOに合わせてどのマスクが何のためにするのかを考えた行動が感染拡大抑止に重要だと感じるこの頃である。

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