コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種の影響
インフルエンザワクチン接種の季節が近づいてきたので、新型コロナウイルスワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種した場合の影響を考える材料となる研究を紹介。
(厚生労働省の審議会では同時接種による影響は無いと判断していますが、これは最後に記載します。)
(査読前論文)Immunogenicity and safety of coadministration of COVID-19 and influenza vaccination among healthcare workers
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.06.09.22276030v1
ドイツの医療従事者を対象に、新型コロナウイルスワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種した場合に、新型コロナウイルスに対するIgG抗体レベルや副反応がどうなるかを調査したものになります。年齢は30~50代の成人です。
使用されたインフルエンザワクチンはAbbott Biologicals社のInfluvac Tetra vaccineであり、鶏卵を使用して作製したアジュバント無しの四価不活化ワクチンなので、日本のインフルエンザワクチンと近いと思われます。有効成分のタンパク質量も日本のものと同量。接種方法が筋肉注射という点が日本のものと異なります。
新型コロナウイルスワクチンの1回目&2回目接種がファイザー社のmRNAワクチン。3回目接種がファイザー社またはモデル社で、この3回目接種時にインフルエンザワクチンを同時接種し、2週間後に抗体量を測定しています。
結論は、新型コロナウイルスワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種すると、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対するIgG抗体量は、同時接種しない場合と比べて低いレベルとなりました。
もう少し詳しく述べると、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対するIgG抗体量は中央値で比較すると、
① ファイザー社mRNA+インフルエンザ不活化:1560.7 BAU/mL
② ファイザー社mRNAのみ :1955.1 BAU/mL
③ モデルナ社mRNA+インフルエンザ不活化 :1891.1 BAU/mL
④ モデルナ社mRNAのみ :2709.8 BAU/mL
となり、抗体量が多い順は、④>②>③>① となりました。
筆者たちは同時接種しなかった場合と比べてIgG抗体量は25.4%低くなったと言っています。
今回の研究では新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する影響は調べられていますが、インフルエンザワクチンの効果に対する影響は調べられていません。
(ノババックス社の組み換えタンパク質ワクチンの研究では、インフルエンザワクチンに対する影響は無かったと言っています。また、後述する厚労省審議会の資料でもインフルエンザワクチンに対する影響は無かったとあります。)
ちなみに、副反応に関しては、同時接種の方が副反応の出現頻度が低いので、同時接種によって副反応の頻度が増加することは無さそうです。
さて、同時接種で新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対するIgG抗体量が低下することは分かりましたが、これがワクチンの効果が低下する程度の差なのかは不明なため、同時接種が悪いかどうかの断定はできません。
統計学的には差がでましたが、データを見ても同時接種で必ず抗体量が低下するということではなく、抗体量が多い個人もいます。抗体量が低下する人の頻度が少し多くなるという話なので、自分がどうなるかは打ってみないと分かりません。
同時接種の影響は実際に流行してからでないと分からないので、
私の個人的な結論は、
① 30~50代はmRNAワクチンとの同時接種は影響がある可能性。
② 抗体量の数値が気になる人は同時接種を避ける。mRNAワクチンは他タイプのワクチンより抗体量は多いので、別日に接種するのが面倒な人は同時接種する。
P.S.
厚生労働省の審議会の資料を載せます。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/uploads/6_18.pdf
同時接種の影響があるという研究を紹介しましたが、「厚生労働省の審議会の判断は間違っている」とは私は思いません。
資料で引用されている研究はどれもきちんとしたものです(むしろ今回紹介した論文は査読前です)。それらの研究から導かれる結論は、同時接種をしても新型コロナウイルスに対する抗体量も、インフルエンザウイルスに対する抗体量も有意の差はなく、また、副反応に関しても有意の差は無いという内容です。したがって、同時接種による影響は無いという判断になろうかと思います。
しかし、これらの研究は、mRNAワクチン2回目と同時接種であったり(ブースター接種ではない)、mRNAワクチンのブースター接種であっても65歳以上だったり(高齢だとmRNAワクチンでも抗体価は若者ほど高くない)インフルエンザワクチンが高抗原量(4倍多い)だったり、などが今回紹介した研究との相違点です。
なので、今回紹介した研究の ① 高齢ではなくmRNAワクチンのブースター接種となる点 ② インフルエンザワクチンも日本のものと近いものを使用している点、が私の条件と似ていると考えて紹介しました。