COVID-19発症に必要な新型コロナウイルス量
イギリスで実施された、ヒトに新型コロナウイルスを故意に感染させる研究の第1弾の結果が公表された。
" Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults "
実験のデザインは、今後のワクチンの効果試験や治療薬の効果試験などで感染者を用意する際などで、「重傷を引き起こさずに参加者の50%以上が感染するために必要なウイルス曝露量を調べる」ことが主な目的である。
・今回の参加者は、18~29歳の重症化リスクを持っていない健康な成人(ワクチン未接種、未感染)の男女34人。
・曝露した株は、アルファ株より少し前にイギリスで流行した株(D614G変異を持つ。日本では従来株やヨーロッパ株と言われ、2020年のゴールデンウイークごろ第1波に流行した株に近い。)
結果は、
・曝露量は、研究者曰く「感染性がピークの感染者の鼻水1滴に含まれるウイルス量」に近い量を鼻腔内に曝露。
これは、想定していた量よりかなり少なく(1/10くらい)、インフルエンザやRSウイルスの感染試験と比べて10000–1000000倍少ない。
・34人中、18人が感染。18人中16人が発症、2人が無症状。
症状は、鼻づまりや鼻水、くしゃみ、喉の痛みなど、軽度から中等度の風邪のような症状で、一部の人は、頭痛、筋肉/関節の痛み、倦怠感、発熱(発症者の39%は37.8℃以上)を示した。胸部CTスキャンで異常が認められるような重症者はいなかった。
嗅覚異常は、18人中15人で現れて9人が完全に無嗅覚だった。28日以内に多くが改善したが、一部は完全に回復するまで時間を要した。
・ウイルス曝露から平均2日未満の潜伏期間の後に発症。ウイルスは喉で40時間後からに検出(ピークは4.7日後)されて、遅れて鼻で58時間後から検出(ピークは6.2日後)された。
感染性のウイルスは、平均で曝露後9日まで検出され、一部の人は曝露後12日まで検出された。
ウイルス量がピークの時は、喉よりも鼻でのウイルス量が多いため、口よりも鼻からウイルスが放出されるリスクが高い。
オミクロン株以外の変異株(デルタ株など)では潜伏期間が5~6日と推定されていたが今回の研究では2日と短く、オミクロン株より感染性が弱い可能性が高い昔の株でも実際は短期間のうちに感染拡大していたかもしれない。
・無症状感染者のウイルス量は、有症状感染者と同程度であり、ウイルスが検出される期間も同程度であった。
・検査方法は、イムノクロマト法(簡易抗原検査でよく用いられる方法)では、平均して曝露後4日目から陽性判定になったので、偽陰性の期間がリアルタイムPCR法よりも長い。一方、感染性ウイルスが排出される期間とイムノクロマト法で陽性になる期間は相関がみられたので、正しい方法で繰り返し検査(週に2回)をすることで有効な手段となる。
今後は、ウイルスに曝露したが発症しなかった人の調査や、ワクチン接種した人に対してデルタ株を曝露してブレイクスルー感染を調査することなどが計画されているそう。