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再生の光 "The Light of Renewal"
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机に肘をついて、私はそっとため息をついた。
天井のライトがぼんやりと部屋を照らし、デスクの上には積み上がった資料とスマホが置かれている。資料は未読の原稿、編集ノート、進行中のプロジェクト案。全てが私に「仕事しろ」と無言の圧力をかけてくる。
「もう無理……」
私は口の中で呟き、スマホを手に取った。タイムラインをぼんやりとスクロールし、どれも心が動かない投稿に目を滑らせる。退屈、倦怠、無気力。最近、この3つが私の感情を支配している。
けれどそのとき、スマホの画面に突然現れた見慣れないアイコンに、目が釘付けになった。
白地に金色で描かれた曲線的なロゴ。アイコンの下には「LUMINA」という名前が表示されている。いつインストールした? いや、そもそもこれ何?
直感は危険信号を送ってきた。知らないアプリは大抵、詐欺やウイルスの温床だ。だけど、スマホを置こうとする私の指が、なぜか止まる。光るロゴのデザインが奇妙に美しく、目を離せない。
「……まぁ、暇つぶしにはなるか」
自分を納得させるように呟きながら、私はアイコンをタップした。
画面が一瞬真っ暗になり、次の瞬間、眩しい金色の光が溢れ出した。
私は思わず身を引く。スマホがまるで光の源そのものになったかのように輝いている。部屋の暗さが際立ち、光は私の顔を柔らかく包み込むようだ。
「え……何これ?」
画面には一言、「あなたに伝えたいことがあります」というメッセージが浮かんでいた。
言葉を失った私は、しばらくその言葉をじっと見つめていた。心のどこかで、これが詐欺でもウイルスでも構わないという気持ちが湧き上がってくる。どうせ、何も変わらない毎日だ。何か新しい刺激があるなら、それに賭けてみたい。
指を画面に伸ばし、メッセージをタップする。
すると光がさらに強まり、私の部屋全体を金色に染め上げた。そして、画面に映し出されたのは……見たこともない風景だった。
緑と青の入り混じった大地、紫の空、無数の光の玉が漂う謎の世界。現実の風景とは思えない。それどころか、これが何かのCGだとしても、その精密さと美しさに息を飲むほどだった。
「これ……何なの?」
画面の奥から、微かに誰かの声が聞こえる気がする。それは風のように柔らかく、しかしはっきりと耳に届く。
「あなたに贈る光です。」
私の心臓が、ドクン、と跳ねた。誰が話している? そして、この光の世界は何?
再び画面を見つめると、そこに現れたのは小さな生き物。光そのものの体を持ち、柔らかな輝きを放つその存在は、まるで絵本の中から飛び出してきた妖精のようだ。
「はじめまして、水城理香さん。」
名前を呼ばれた瞬間、体中の毛が逆立った。私の名前を知っている? でもどうして?
「……あなた、誰なの?」
問いかけると、光の生き物はふわりと笑ったように見えた。そして次の瞬間、スマホが振動し、新たなメッセージが画面に浮かび上がる。
「ここから始まる物語のために、あなたを選びました。」
選ばれる? 私が? そんな大それた話、現実にあるわけがない。それでも、胸の奥に眠っていた感覚が少しずつ蘇る――好奇心。
私はもう一度画面を見つめ、心の中で問いかけた。
「この光の向こうには、一体何があるの?」
光が私を包み込むように、さらに強く輝きを増す。その温かさが、私の疲れた心を少しだけ癒してくれるのを感じた。
気づけば私は、夢中でその光に手を伸ばしていた。
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スマホの画面に広がる風景は、ただただ圧倒的だった。
「光の国」――そう呼ばれるその場所は、名前の通り全てが光で満ちている。建物は柔らかなオレンジ色に発光し、道は輝く白銀のラインで引かれている。空には七色の光の帯が流れ、星々のような小さな光の粒が浮遊していた。地面は透明で、足元からも光が淡く湧き出ている。
スマホの画面を覗き込むたびに、体の中が温かくなるような気がした。この光が、ただの映像ではないことを本能的に感じた。
画面の中で再びあの光の生き物が現れた。先ほど出会った小さな妖精のような存在――彼らは「リュミエット」と名乗った。
「理香さん、ようこそ光の国へ!」
リュミエットは光る手(?)を振りながら、くるくると宙を舞う。小さな体からは、まるで太陽のような温もりが溢れていた。
「ここは私たちが住む場所。光そのものが言葉や思いを運んでくれる世界です。」
「言葉を運ぶ光?」
私は眉をひそめた。確かに美しいけれど、そんなファンタジックな設定を真に受けるほど純粋ではない。
「信じられないのも無理はないわ。でも、きっとすぐ分かる。」
リュミエットがにっこり微笑むと、周囲にいた他の住民たちが次々と現れた。彼らもまた光の体を持ち、それぞれ微妙に異なる色合いを放っている。黄色、青、ピンク、緑――その色彩は不思議と心を落ち着かせる。
「理香さん、最近ちょっとお疲れみたいね?」
突然、紫色の光の住民が話しかけてきた。
「えっ?」
「人間の世界で働きすぎて、毎日が灰色に見えるんじゃない?」
その言葉に、私の胸がギクリとした。この存在たちがどうして私の状況を知っているのか、疑問よりも驚きが先に立つ。
「ちょっとしたヒントで分かるんだよ。私たち、光を通して気持ちを感じ取るのが得意だから。」
紫の住民がそう言いながらふわりと漂う。その動き一つ一つが滑らかで、見ているだけで癒される。
「まあ、難しいことは置いておいて。」今度は青い光の住民が口を開いた。「何か話してみて。最近困っていることとか、気分が落ち込むこととか、何でもいいよ。」
私は戸惑った。スマホの画面の向こう側で話しかけてくる光の住民たち。まるでオンラインカウンセリングを受けている気分だ。でも、その声にはどこか温かさがあり、拒否する気になれなかった。
「そうね……」私は意を決して話し始めた。「最近、仕事がすごくきつくて、周りの期待に応えなきゃって思うと、どんどん自分が嫌になっていくんです。」
住民たちは一斉に「ふむふむ」と頷いた。それが妙に滑稽で、少しだけ笑ってしまった。
「それ、たぶん光を閉じ込めちゃってるせいだよ。」
黄色の住民が楽しげに言った。
「光を……閉じ込める?」
「そう!人間は光ることができるのに、それを無理に抑えちゃうんだよ。誰かの期待とか、他人の目とかでね。」
その言葉は奇妙に心に刺さった。自分の内側にある何かが押し込められているような感覚――確かに、そんな気がしていた。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「簡単だよ。」黄色い住民がくるっと回りながら答える。「その光を私たちに見せてごらん。そうすれば、どうすればもっと輝けるか教えてあげる!」
「私の光?」
「ええ、あなたの光は、あなた自身。見つけるのを手伝うわ。」
リュミエットがそう言いながら、手を私に差し出す。いや、正確にはスマホの画面越しに差し出しているように見える。それが不思議と自然で、私はその小さな光の手に触れるように、スマホに指を伸ばした。
次の瞬間、視界が金色に染まる――
ふっと気がつくと、私は光の国の中にいた。まるで画面越しではなく、直接その世界に足を踏み入れたかのようだった。目の前には住民たちが笑顔で浮かび、その背後には信じられないほど美しい光景が広がっている。
「さあ、ここからが本番よ。」
リュミエットの声が耳元で響く。それはまるで、冒険の始まりを告げる鐘の音のようだった。
私は初めて感じた。「この光が、私を癒してくれるかもしれない」と――。
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日々の生活が二重の世界に分かれたような感覚だった。
現実の世界では、理香の疲れや苛立ちが目に見えて増していた。出版社での仕事は相変わらず厳しく、締め切りとクライアントからの圧が容赦なく襲いかかる。周りの同僚たちとの関係もぎこちなくなり、気づけば孤立しているような気がしていた。
そんな中、理香は少しでも心を癒すために「光の国」との通信に没頭するようになる。仕事から帰ると真っ先にスマホを手に取り、画面の向こうにいる住民たちと話をする。それが彼女にとって唯一の安らぎだった。
「今日はどうだった?」リュミエットが優しく問いかける。
「また叱られたよ……。頑張ってるつもりなのに、誰もわかってくれない。」
理香は画面に向かってぼそりと答える。光の住民たちは彼女の話を静かに聞き、時折ユーモラスな言葉で慰めてくれる。その会話が心の救いとなっていた。
だが、次第に理香の生活は歪み始める。仕事中にもデバイスを気にしてしまい、集中力を欠いた結果、大きなミスを犯してしまった。締め切りが迫る原稿を確認するのを忘れ、クライアントから怒りの電話を受ける。
「最近どうしたの?」同僚の一人が心配そうに声をかけてきたが、理香は「大丈夫」と無理に笑うことしかできなかった。
友人との約束も次々とキャンセルするようになった。「体調が悪い」と嘘をついて、自宅に引きこもり、デバイスに向かう時間だけを楽しみにしていた。現実から逃げるように光の国にすがる理香の姿に、住民たちも少しずつ変化を見せ始める。
ある日、リュミエットが真剣な表情で話しかけてきた。
「理香さん、このデバイスには限界があるの。」
「限界?」
「うん。私たちの光は、あなた自身の中にある光を反射しているだけ。いつまでもこのデバイスに頼ってばかりでは、本当の意味で癒されることはできない。」
その言葉に理香は反発した。「でも、あなたたちがいるから私は今を乗り越えられているの!この光がなかったら、私は……」
涙が込み上げ、スマホを抱きしめるようにして理香は言葉を詰まらせた。
その瞬間、スマホの光が突然弱まった。いつも鮮やかだった画面の中の光の国が、かすんでいく。
「どうして……?」
理香は慌てて画面をタップし、アプリを再起動しようとするが、光はますます弱まり、住民たちの姿が見えなくなっていく。
「待って!行かないで!」
必死に叫ぶ理香の声に応えるように、最後に微かにリュミエットの姿が浮かび上がった。
「理香さん、光を追い求めるだけじゃなく、あなた自身が光を放つ存在になって。」
その言葉を最後に、画面は完全に暗くなり、光の国との通信は途絶えた。
理香はしばらくスマホを握りしめたまま動けなかった。胸にぽっかりと穴が空いたような虚無感が広がる。だが、リュミエットの最後の言葉が頭の中で繰り返される。
「私自身が光を放つ存在……?」
呟いた言葉が部屋の静けさに溶けていく。その時、ふと窓の外を見ると、薄暗い空の中に一筋の朝焼けが差し込んでいた。
その光はまるで、彼女に新たな一歩を踏み出す勇気を与えるかのように、柔らかく優しく輝いていた。
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まだ薄暗い部屋の中、彼女はリュミエットの最後の言葉を反芻していた。「光を放つ存在になる」。その意味を深く考えながら、ベッドからゆっくりと体を起こす。
スマホは枕元に置かれていたが、もう画面には光の国は映らない。昨日までの癒しがなくなったことに心が締め付けられるような思いだったが、どこか不思議な安堵感もあった。
「私自身が変わらなきゃいけないんだよね……」
理香は小さく呟き、自分を奮い立たせるように両頬を叩いた。
職場に向かう途中、彼女はいつもとは違う風景に気づいた。駅前の花壇には冬を迎える準備がされた小さな草花が並んでいる。顔なじみのコンビニ店員がにこやかに挨拶をする。「気づけること」が少しずつ増えている感覚があった。
職場に着くと、理香はまず自分が犯したミスのフォローを進んだ。クライアントに電話をして率直に謝罪し、対策を提案する。その緊張感に手汗がにじんだが、話し終えた後には少しだけ胸が軽くなった。
「今朝の電話、よかったよ。」
同僚の一人がそう言い、笑顔を向けてくれた。それだけで、自分が「前に進めている」という手応えが得られる。
その日の帰り道、理香はふと駅前のベンチに腰掛けた。夜空には幾つもの星がまたたき、街灯の光が足元を暖かく照らしている。
彼女はポケットからスマホを取り出した。まだ何も映らない暗い画面に、微かな名残惜しさを感じながらも、「もう一度あの光を見たい」とは思わなかった。
「ありがとうね、リュミエット……」
理香は微笑みながらスマホをそっと撫でる。それはもはや依存の対象ではなく、自分を変えるきっかけとなった「出会いの象徴」だった。
数日後、理香は家のデスクに向かい、新しいプロジェクトに取り組んでいた。それは、彼女が前から提案していた「人と人をつなぐ光」をテーマにした特集企画だった。アイデアが次々と浮かび、ペンが止まらない。
そしてその夜、机の上に置かれたスマホがふと光を放った。
それは、かつてのような眩い光ではなかったが、柔らかで温かな輝きだった。理香は驚きながらも、その光をじっと見つめた。
「また会えるかもね。」
そう呟くと、画面の光は再び消えた。それでも理香の心には、確かに何かが灯っていた。
部屋の中の静けさの中で、彼女は新しいページをめくるように笑顔を見せた。未来はまだ未知数だが、彼女自身の光が道を照らしている。それだけは確信できた。
その光は、まるで「希望」と「癒し」の象徴のように、彼女と共にあり続けるかのようだった。
<終わり>
※作品は完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がありません。
今回の創作に使用したテクノロジー
AI画像生成
ツール:Stable Diffusion WebUI Forge
使用モデル:flux1-schnell
画像加工:Adobe Photoshop Express、PhotoScape X
AI小説作成
ツール:ChatGPT
これらの最先端のAIツールを通じて、新しい形の創作表現に挑戦しています。
作品への感想・リクエスト窓口
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