「かわいくない」という呪い
私は今年の8月で20歳になる。成人式に行くつもりはない。私の地元は小学校の学区よりも狭い地区ごとに行われるのだが、近所に仲のいい子もいないし、なにより振袖を着るのが嫌だし、それを見られたり、写真を撮られたりするのも嫌だ。でも、母は執拗に前撮りだけでも、と言ってくる。写真に残るのが嫌なのだから了承するわけにはいかない。私が着ても七五三だから、と笑ってかわすと、「昔はたくさん撮らせてくれたのに。いつかから急に写真嫌いになったよね」と言われた。
私は基本的に写真を撮られることが嫌いだ。あとから見返して自分の顔面のかわいくなさに辛くなってしまう。でも、思い返せばたしかに、昔はそんなこと気にしてなかったかもしれない。多分、私は中学1年生くらいまでは、自分の見た目に頓着がなかった。でも、あっさりサバサバしてて媚びない性格だったので、結構、敵ができた。その子たちに、色々言われた。目が左右で大きさ違うとか、ケツアゴだとか。言われていくうちに、自分の顔面のパーツが不良品だらけのことに気づいた。今まで特に気にしたことがなかったのに、猛烈に自分が一重であることが辛くなった。ケツアゴであることはかなりいじられた。かなりしんどかった。写真を撮るとき、アゴがうつらないようにピースを顔元でして隠すのが癖になった。できるだけ、顎を隠して生活するようになった。笑うと目立つことがわかってたから、あまり笑えなかったし、1番マシだったから、唇を噛むような顔をすることが多くなった。色々調べたけど、解決策はみつからなかった。みんな私の顎を見て笑ってるんだろうなと思って、つらかった。
高校に入る前に、眼鏡からコンタクトに変えた。そのとき、私は何年かぶりに自分の眼鏡なしの顔をはっきりと見ることができたわけだが、ぎょっとした。本当にブサイクだったから。一重のことは分かっていたけど、左右でこんなにも目が違うことを知らなかった。ちょっとだけ違うとか、形は一緒だけど片方だけ二重とか、そういう人はたくさんいると思うけど、私の目は本当におかしい。形が根本的に違う。目頭の切り込みの角度が全然違うのだ。本当に、気持ち悪かった。このままでは外を出歩けないなと思った。そういえば中3のとき好きな男の子に眼鏡を取られて、「……眼鏡つけてた方が好き」って言われたな。私は、圧倒的に不良品である目を今まで眼鏡でなんとなく誤魔化してもらっていたらしい。
それからは、左目だけアイプチで奥二重にして目の大きさを揃える生活が始まった。高校時代、何度か聞かれたけど、認められなかった。嘘ついた。どうしても、アイプチしてるって言えなかった。汗かいたりしたら左目がどうなっているか気になって、ずっと、心が重かった。でも、高校ではかなり愛想の良いキャラでいて、敵を作らなかったので、ケツアゴのことをいじる人は中学が同じだった人以外にはたった一人もいなかった。一年生の頃はずっと顎を隠して写真にうつっていたけど、二年からは気にしなくなった。友達に恵まれたんだと思う。本当に感謝している。ケツアゴが治ったわけでもなんでもないけど、私の中ではあまり気にならなくなった。昔は人が私の顔を見ているだけで気になってしょうがなくて辛かったけど、今は自分の顔を鏡で見る時以外は意識していない。
今でも寝る時にアイプチをして左目だけ癖付けをしている。してないと、翌朝本当にブサイクになる。つらい。二重じゃなくてもいいからせめて左右対称がよかったって何億回と思ってる。整形も考えてはいるけど、そもそもの目が小さいから目頭切開とかしなければならないし、自分のお金ではできないから親に頼らなければならないけど、親に自分の顔が嫌だとか、そういう話を一切したことがないから、自分がそこまで見た目にコンプを抱いていることを知られるのが恥ずかしい。それは周りの友達にも同じだった。結局私は度胸がないから整形はできないと思う。
自分の顔のパーツが不良品であるせいでどうしてこうも悩み事が増えるのか不思議だ。もうちょっとかわいくありたかった。クラスで5番目とかでいいから。世の中って結局顔面至上主義だ。性格がいいブスはブスだけど性格の悪い可愛い子はかわいい。かわいいってだけで自信になる。堂々と出歩けるだけで私は羨ましい。ブスって、ひねくれるから、人の褒め言葉を素直に受け取れなくなる。化粧のモチベーションだって、ある程度かわいくないとあがらない。私は自分の顔と向き合うのが嫌だから長時間鏡と向き合ってメイクを研究するのはむりだ。目は小さいし一重だしアイメイクをする楽しみは皆無。インスタで見るアイメイクなんて、キャンバスが狭すぎて真似できやしない。
自分が客観的に見て「かわいくない」ということが自明だから、怯えながら生きている。でも、愛想とか愛嬌で、仲良くなった人には本当に「かわいい」と思ってもらえることはできると思う。せめてにこにこ、優しくて愛想のいい女の子でありたい。わたしって可愛くないから、そんな努力しないとただのブスなんだもん。
かわいい女の子になりたかった。