言の葉の栞
心の師との出会い、念願の友との出会いと同じように、
ひとつのことばとの邂逅も人生上の大きな事件だと思う。
渡世の道半ば、灯のようなことばたち。
(随時更新予定)
わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)
「色即是空 空即是色」
「花びらは散る 花は散らない」
「ひとつひとつの空蝉の胴にふるえてみちる天日のあかるさ」
「われわれの生が刹那である故にこそ、また人類の歴史が刹那である故にこそ、今、ここにあるひとつひとつの行為や関係の身におびる鮮烈ないとおしさの感覚を豊穣にとりもどすことにしかない。」
「生きることはまことに苦しく辛い。世を呪い人を呪い、それでも生きたい。」
「かがやくものは、いつもここに」
冬 キビシ
春ヲフクミテ
さくらは、暖かさを段々蓄積するようにして、開花するらしい。
みんなが肩をすぼめる厳しい冬の間も、一時一時、さくらの蕾は、春の熱を、少しずつ少しずつ蓄えている。冬と春のあいだにもうひとつの季節があるように、気がつかない内に、いつの間にか既に春は、はじまっている。
不幸と苦しみが人間の魂のふるさとなのだから
「内なる老若男女を育てる。」
(認知的不協和、認知の罠から外れるために)
(釈撤収『100分de宗教論』)
自分と違う立場に耳を傾ける、できるだけ多面的でいることが、自分の認知の歪みと向き合う試みと知る。情報に溢れているからこそ、都合の良い情報しか得られないため躓きやすい。
淡いに生きるための矜持。
ためらいの倫理学 第四人称の視点
「こころの中に鬼を飼う」
「きみのバラをそんなにも大切なものにしたのは、きみがきみのバラのためにかけた時間だよ。」
「きみは自分が飼いならしたものに責任を負うことになる。きみはきみのバラに責任がある…」
猫が猫で あるように
犬が犬で あるように
全身 全霊 僕でありたい
もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
大切なのは、ただ身を委ねるだけじゃなく、自分のなかにある〈control〉と〈surrender〉のちょうどいいバランスを常に見出そうとする、そういう動きのある態度なんじゃないかな
すべてをコントロールしようとせず、
すべてによりかかりもせず、
そのバランスを探し続けること、
初めに自分と向き合う時は、ひたすら真面目に。
次に向き合うときには、明るく、かろみを持って。
だってあなたは、命をはこんでいるのだから
歩きながら、命をはこんでいるのだから。
オイリュトミーの3分割歩行法
あげて、はこんで、おく。
水が地面からふつふつ湧いてきて、
すーっと地面を伝って、
また地面にゆっくり染み込んでいくように。
歩くことは、命を運ぶこと。
わたしたちはそんな奇跡みたいなことを毎瞬、毎瞬、やっている。
「自分できれいだと思うものは、なんでもぼくのものさ。」
「表現とは締切だ。」
「自分はまわりの世界との関係性によってのみ存在していて、山や太陽や空なしには自分もまた存在しない。(…)そんな言葉の世界で自我が迷うことはあり得ない。」
カリフォルニア州ウィントゥ族の人々と土地との関係について
自分のことでまだ迷ってばかり。自分という存在が他者との関係性のなかであらわれてくるように、取り巻く様々な関係性にありのままで向き合うことが、自分の地図をつくっていく、己を知ることになるのかも。
「自分を知るには、まず他人を知らなければならない」
「もし神が存在するなら、それは人の心の中じゃなくて人と人との間のわすがな空間にいる。この世に魔法があるなら、それは人が理解し合おうとする力のこと。」
You must come full circle to find the truth.
(真実は一巡して初めてわかる)
争先非吾事 静照在忘求
先を争うは吾が事に非ず 静照して求を忘るるに在り
王義之「答許エン诗」
自然がくりかえすリフレイン 夜の次に朝が来て、冬が去れば春になるという確かさ のなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがあるのです。
むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをおもしろく
おもしろいことをまじめに
まじめなことをゆかいに
そしてゆかいなことはあくまでゆかいに
「海にでも沈めなさいよそんなもの 魚がお家にすればいいのよ」
さくら花幾春かけて老いゆかん
身に水流の音ひびくなり
さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐる
この冥き遊星に人と生れて
寂しさの極みに堪えて天地(あめつち)に
寄する命をつくづくと思う
さみしさ、は単に枯渇した感情ではなくて、
むしろそれに自覚的であるからこそ、宇宙への連なりを感じることができる。
火星が出てゐる。
要するにどうすればいいか、といふ問いは、
折角たどった思索の道を初にかへす。
要するにどうでもいいのか。
否、否、無限大に否。
待つがいい、さうして第一の力を以て、
そんな問に急ぐお前の弱さを滅ぼすがいい。
予約された結果を思ふのは卑しい。
正しい原因に生きる事、
それのみが浄い。
お前の心を更にゆすぶり返す為には、
もう一度頭を高くあげて、
この寝静まった暗い駒込台の真上に光る
あの大きな、まっかな星を見るがいい。
火星が出てゐる。
木枯が皀角子の実をからから鳴らす。
犬がさかって狂奔する。
落葉をふんで
藪をでれば
崖。
火星が出てゐる。
おれは知らない、
人間が何をせねばならないかを。
おれは知らない、
人間が何を得ようとすべきかを。
おれは思ふ、
人間が天然の一片であり得る事を。
おれは感ずる、
人間が無に等しい故に大である事を。
ああ、おれは身ぶるひする、
無に等しい事のたのもしさよ。
無をさえ滅した
必然の瀰漫よ。
火星が出てゐる。
天がうしろに廻転する。
無数の遠い世界が登って来る。
おれはもう昔の詩人のやうに、
天使のまたたきをその中に見ない。
おれはただ聞く、
深いエエテルの波のやうなものを。
さうしてただ、
世界が止め度なく美しい。
見知らぬものだらけな不気味な美が
ひしひしとおれに迫る。
火星が出てゐる。