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ギャル男のやべえ歯

前回歯についてのエッセイを書いたのですが、また今回もしつこく歯について書きます。

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10代の頃「モバゲー」や「GREE」といった携帯ゲームのSNSが流行っていた。その日は女友達と家で遊んでいて、突然彼女のモバゲーの受信BOXに男からメールが届いた。

「暇?今から遊ぼ」

プロフィールを見ると同じ中学の同級生だった。時間は深夜2時。当時高校を中退して廃人のような生活を送っていたわたし達は、人が動かない深夜帯がもっとも活動的な時間だった。

暇だし行くかあと、親にバレないよう友人とこっそり自室の窓から抜け出し、自転車に二人乗りして寒空の下24時間営業のファミレスへ向かった。到着して店内を見渡す。

あ、あれじゃない?

喫煙席にハリネズミばりに髪を坂立たせている金髪頭の男がいた。薄汚れた海と田んぼしかないこの田舎町では、あまり見ないくらいのイケメンだった。(同じ中学だったとはいえわたしは不登校なので同級生の顔をあまり知らない)

同じ中学にこんなかっこいい人がいたなんて知らなかった。席へ向かうと相手がこちらに気付いて、よおと、手を挙げた。

なにを話したのかは正直あまり覚えていない。たしかこれまでどんな女とヤッてきたかみたいなセックス武勇伝を聞かされた気がする。それだけ顔がよかったらそうなるか、と納得しながらドリンクバーのジュースをちびちび飲みながら聞いていた。

喋っているとだんだん陽がのぼりはじめてきて空が薄い青色に変わっていく。店を出る時、うちへ来ないかと誘われたがこいつの武勇伝の一部にはなりたくなかったので「帰るわ」と一言だけ放ち、男とはその場で解散しチャリに跨り友人とふたりで家へ帰ることにした。

その時、友人が恐る恐る口をひらいた。

「ねえ、あいつなんで歯なかった?」

たしかに彼には前歯が2本なかった。

歯がない人といえば老人のイメージが強い。しかし彼はわたし達と同じ16歳で、歯無し。どういうことなんだろう。セックス武勇伝よりも強烈なインパクトを残していった。歯が気になって途中からさらに話が入ってこなかったし、わからん怖いわと答えると友人が、「あたしもちこがトイレ行ってる間に聞いてみたんだけど、なんかハンバーグ食べてたら折れたらしいんだわ。マジかな?」


そんな硬いハンバーグがこの世界に存在していたら絶対に出会いたくない。もしくはハンバーグだと思って食べたら鉄球だったとか。ふたりでどれだけ思考を巡らせても答えは出なかった。

その後何度かメールが来たが、怖くて結局彼ともそれ以来会っていない。櫻井翔似のイケメンだったけど、歯がないことによって特別な違和感だけが置き去りにされた。

わたしが歯に執着するようになってしまったのは、歯に問題を抱えてる男たちを間近でみてきたからなのだろうか。歯、歯、歯。どんなに顔が整っていても、誠実でも、歯が普通とは違うだけでこんなにも不安に支配されるなんて。もっといろんな歯を見て知れば慣れていくのかな。知りたいような知りたくないような。

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