アンシャントロマンに関する資料まとめ

はじめに

本稿は、クソゲー界に名を馳せたPSゲーム「アンシャントロマン」に関して当時の雑誌資料から得られた情報をまとめたものである。

筆者はクソゲーマニアでもなければ本作のプレイ経験もないことを最初にお断わりしておかねばならない。このゲームのことはそのへんのMADとゲームカタログ@Wikiで知っていた程度である。
別件で90年代アニメ関連の資料を探しに雑誌図書館に行ったところ、たまたまこのゲームの情報が目に入った。調べてみると、本記事の執筆(2022年3月)時点で周知されていない情報がかなりあったため、場違いではあるがここにまとめることにした。考察の一助ともなれば幸いである。
ラインナップは以下のとおり。

  1.  アンシャントロマン公式サイト

  2.  声優の雑誌公開オーディション

  3.  オーディション当時の制作状況

  4.  ラジオCMおよびテーマソング企画の存在

  5.  発売後の状況

なお、本記事の執筆にあたってけっこうな額の経費が理不尽にも吹き飛んだので、はばかりながら 2. 以下をしばらく有料公開とさせていただく。いずれ無料公開にする予定である。
(22/4/13追記:おかげさまである程度費用が回収できましたので、無料で公開しました。記事をご購入いただいた方には何らかの形で還元させていただきます。)

確認資料

・主婦の友社『声優グランプリ』1997年6月号、8月号、10月号、12月号(+付録)、98年3月号、5月号、7月号、9月号。以下、記載の簡便のため、号数を97-6などと略記する。
・同社『アニラジグランプリ』97-6~98-6
・角川書店『Game Worker』98-6
・ソフトバンクパブリッシング『ザ・プレイステーション』98-5-8

このうち、『アニラジグランプリ』には情報がなく、『Game Worker』については小さな宣伝のみであったので本稿では扱わない。
図書館の蔵書など諸々の制約により、これら以外の巻号や他の雑誌については参照できていないが、1997年後半~1998年のゲーム総合誌には本作に関する情報が載っている可能性がある。
とくに当時のプレステ専門誌、『PlayStation Magazine』『HYPER プレイステーション』『電撃プレイステーション』『HYPER プレイステーション RE-MIX』『ザ・プレイステーション』等には言及がある可能性が高い。上の5誌には、本作の体験版が配布されたプレイステーションクラブフェスのチケットが付属していた(後述の公式サイト参照)。

アンシャントロマン公式サイト

本作品には公式サイトがあった。『声優グランプリ』97-10, 98-3の見開き広告にそのURLが記載されている。それ以外の場所には一切見当たらず、宣伝する気があったのかなかったのかよく分からない。

ページそのものは2000年の3月ごろに削除されたようだが、大変ありがたいことに、Wayback Machineにアーカイブが残存する。以下はそのトップページである。いかにも当時のhtmlサイトらしく謎にスクロール演出があったりする。一番下まで行くとホームに誘導される。

百聞は一見に如かずということで、サイトの内容に関する説明は割愛する。なお、上のリンクからはアーカイブの日付によっては全てのページにはアクセスできないので、全容が見たい方は下からアクセスされたい。

ドメインのinter-g7.or.jpは、旭通信社が運営していたInter Ginza G7という広告サイトで、当時のアーカイブにはKIRIN、アウディ、田中貴金属など名だたる企業がバナーを連ねている。G6 Entertainment のページでは、CAPCOM や任天堂をはじめとするゲーム会社も多数サイトリンクを掲示していた。アンシャントロマンの取扱説明書には、スペシャルサンクスとして旭通信社の名前が(なぜか個人名に付随して)記載されている。

声優の雑誌公開オーディション

1997年5月、『声優グランプリ』誌上で本ゲームのオーディションが開催されている(97-6 p.6)。主催は日本システム。協力には『声優グランプリ』のほか姉妹誌『アニラジグランプリ』の記載があるが、実際には募集は1誌のみで行われたようである(『アニラジグランプリ』98-3までの誌面をあらためた限りでは、本作への言及はまったく見つからない)。
応募段階では、募集枠はカイ・ファラ・ミシリア役の3名だった。応募条件はプロ・アマ問わず16歳以上であれば誰でもよく、後述のとおり本作が声優デビュー作となった方もいたことを踏まえると、新人や若手の起用も狙いだったとみられる。

プロ・アマ不問という条件が反響を呼んでか、最終的には990通もの応募があった。これは1誌のみのオーディション企画としては異例の応募数だったという(97-8)。1次審査(録音テープ)と2次審査(面接)を経て、97-10の誌面で結果が発表された。もともと3名の応募だったのが、最終審査のさい、審査員長だった日本システムの菅野又部長の意向で「特別賞」1名分が設けられた。菅野又氏いわく、中島沙樹氏の声を聞いてどうしてもサリナ役に抜擢したくなった、とのことである(98-10 p.85)。

このオーディション企画を経て、高橋直純(カイ役)、中山真奈美(ミシリア役)、森本まり子(ファラ役)、中島沙樹(サリナ役、特別賞)の4名が最終的に選ばれた。ちなみに、中島沙樹氏と森本まり子氏の両名については本作が声優としてのデビュー作品であったことが言及されている(97-10 p.84-85)。

その後の『声優グランプリ』誌では、
・東京ゲームショウ'97での声優トークショー(声優グランプリ編集長の安藤氏も登壇)
・2度にわたる表紙裏の見開き広告(97-10;  98-3)
・雑誌内コーナーでの紹介(97-12 p.132; 98-3 p.142; 98-5 p.120)
・付録CDで高橋氏が出演(97-12付録)
・4人のグラビア特集(98-3 pp.55-58)
など、誌を挙げて鳴り物入りの売り込みを展開している。オーディションが成功裏に終わっただけ、編集部の期待も高かったということでもあろう。

オーディション当時の制作状況

オーディション募集があった97-6当時、シューティングゲーム「雷電プロジェクト」などで好評を得ていた日本システム社が11月発売に向けて「総力を結集して開発しているオリジナルRPG」とのふれ込みで、本作は紹介された。本作を第1作として6作品に及ぶ超大作が予定されていたという。

物語の紹介文には、

空に輝く星々にそれぞれの人類が文明を培っていた。
ある日、その輝く星の一つが突如爆発を起こした。
この爆発は、その星にいた人類を死滅させ、
そのうえその星だけにとどまらず近隣の星々にも
大きな傷跡を残した……。
この話は、その傷ついた星々の一つで起きた物語である。

声優グランプリ(97-6 p.6)

とあり、また概要にも「美麗なCGアニメーションと迫力のある3Dシーンのハイレベルな融合が今までにない臨場感あふれるRPG世界を提供」とある通り、本作の大筋とコンセプトはすでに決定していたようである。当初は11月公開予定であったので、制作期間を考えれば妥当な話である。
また、オーディションで声優を募集したカイ、ミシリア、ファラについては3Dポリゴンが公開されているほか、名前がこの時点で確定していた。テープ審査の課題は、カイとピクシー(ファラ)が出会うムービーの会話となっており、ムービーシーンの脚本も一部は固まっていたとみられる。

ただしこの時点で、作品タイトルは「ファンタジアンワールド(仮)」と未確定であった。「アンシャントロマン Power of Dark Side」のタイトルは97-8時点までに確定したらしい。なお、「アンシャント・ロマン」という中点入りの表記も見られ、発売直前の98-5まで一貫しない(同一ページ内でさえ表記ゆれが見られる)。

97-8では、1次審査の経過報告とともに、プレイアブルキャラ8名のポリゴンと各種フィールド、ムービーのビジュアルが数点掲載されている。掲載されているシーンは以下のとおり。

【フィールド】
①マップ不明※
②ヴィーナの港の神殿
③肉体の塔
※そこそこ広い街であるが、ゲーム内に該当するマップが見当たらない。「隠された村で、あるイベントによって出現する」というキャプションからすると、ハンバの村の設定にも思われる。推測するに、1人称視点の移動を実現できなかった関係で広いマップを実装できず、お蔵入りになったものかもしれない。ゲーム内のハンバ村が不自然な円形をしているのも、後でむりやり建物を配置したものと考えると納得がいく。

【ムービー】
①奴隷村の終盤、老爺ジョナサンとの死別シーン
②ハインローグ城でカイが王子であることを告げられた翌朝、ファラに起こされるシーン
ちなみにムービー②はキャプションで「物語中盤の重要シーン」と記されている。ゲーム内ではその重みが今一つ伝わってこない憾みはあるものの、カイが旅を続ける決意を語るという1つの分岐点ではある。

オーディション終了から約3週間後(8月下旬ごろ?)、都内某所で声優4名の収録が行われた(97-10 p.85)。またこの号ではゲームの公開時期について「来春発売予定」とあり、当初の11月発売予定から延期されたことが分かる。体験版にハイライトムービーが収録されていたことからして、少なくともゲームの売りであるムービーは先行して開発が進められていたであろう。

ラジオCMおよびテーマソング企画の存在

公式サイトの中にラジオCMのページが設けられている。状況から見て、これも『声優グランプリ』誌のラジオ番組内で放送されたものと思われるが、残念ながらサイト内のオーディオファイルは開くことができない。
それと同一の音源かは不明ながら、声優グランプリ97-12の付録「3rd Anniversary 声優グランプリ スペシャルCD '97」にオーディオCMが収録されている。今のところネット上で聞くことはできないので、以下にナレーションの全文を引用しておく。
(22/06/26追記:この記事を読まれた方が音源を上げてくださったようです。どうもありがとうございます→ https://www.nicovideo.jp/watch/sm40477949

その星に生まれし者の運命[さだめ]なのか。
その血筋を引き継ぎし者の宿命なのか。
全てを背負って、君は自らを知る旅に出る。
CGムービーと3Dポリゴンキャラクターの出逢いが、RPGの新たな流れを生み出した。
プレイステーション版ムービーライクRPG「アンシャントロマン」
日本システム

このあおり文は発売されたゲームのパッケージ裏にも掲載されたらしく、前半部がピクシブ百科事典に引用されている。また4行目以降の後半部分は、97-10および98-5の見開き広告にも全く同じ記述がある。
このCM内で流れているBGMはサントラCDの「洞穴2」(ゲーム内では塔のBGM)の0:17あたりからの部分である。正直、背景音としてはかなりうるさい。なぜこれを使ったのかは不明である。

CD内にはこのCMを含む、アンシャントロマンとその他のゲームの宣伝を兼ねた高橋直純・小森まなみ両名のラジオトークが収められている。本ゲームの特徴として「ムービーライクRPG」である点のほか、様々なシーンでキャラクターが臨場感豊かに話す「話すRPG」が売り文句となっていたことだけ特記しておきたい。これは戦闘や買い物時のキャラボイスのことを指すと思われる。

もう一点重要な事実として、本作のテーマソング企画が中途まで進んでいたことが語られている。この曲は小森氏が作詞を任され、高橋氏が歌う予定だったとのことである。
トーク内では小森氏がすでに作詞を進めていることを示唆している上に、背景でインスト音源も流れているため、歌詞が完成すればあとは高橋氏の収録を待つだけだったようにも思える。が、不思議とその後の消息については誌上では触れられていない。
このインスト音源は、少なくともサントラCDやドラマCDには似た音楽を見つけられない。お蔵入りになったのかもしれないが、その経緯については判然としない。

発売後の状況

ここまで『声優グランプリ』誌が当ゲームの重要な広告塔となっていた様子を確認してきたが、その後はどうなったのであろうか。

まずゲームそのものの評価に関していえば、当初から散々なこき下ろされようであった。当時のプレステ専門誌『ザ・プレイステーション』のコーナー「PSソフト品評会」から3人の評者のコメントを引用する。カッコ内は100点満点の評価ポイントである。

ストーリーは極めて強引に進んでいくし、通常画面は見づらい、移動もしづらい。何よりポリゴンフィールドであるにも関わらず、プレイヤーが自由に視点を変更できないというのは納得いかない。さらに、各キャラのグラフィックも荒いし、戦闘シーンはテンポが悪い上にキャラの動きもヘン。唯一見られるところは、所々に入るポリゴンのムービーだけと思われるけど……。(22 point)
戦闘シーンがはっきりいって終わっています。あまりにもショボイグラフィックやサウンドなどこれでいいのかと言いたくなるぐらい。それに判定の悪さもかなりのモノで、町の中で扉に触れても何の反応もないことも……。肝心のストーリーもオリジナル性は乏しい感じ。しかもゲーム開始からどこそこへ行け、コレをやれといった典型的なお使いゲーで、やり込める要素がひとつもないです。(24 point)
町中でのマップやカメラアングルなど、妙に「ファイナルファンタジーVII」と似ている。しかし、ゲーム自体の内容は頼まれた事を延々とこなしていく、典型的なお使いRPG。システムなどに斬新なものが感じられず、今のユーザーを満足させることはできないかも。買い物や魔法を使うときも効果が表示されず、不親切な点も見受けられた。イベントが長く、なかなか戦闘できないのにはウンザリ。(29 point)

『ザ・プレイステーション』98-5-8 p.29

このコーナーの評価点は、普通のゲームならば辛口な評者でもせいぜい30点台というところで、全員が20点台をつけるのは3号に1回くらいしかお目にかかれない。評価内容については各所で触れられていることばかりなので深入りしないが、「妙に「ファイナルファンタジーVII」と似ている」という評が当時からあったことだけは特筆に値するかもしれない。

このような結果を受けて(発売前から予期されていたかもしれないが)、6作品に及ぶはずだった続編の制作が立ち消えになったことは想像に難くない。1999年には早くもInter Ginza G7のトップページから公式サイトへのバナーが削除されている。
日本システムとの間にどのような交渉があったかは不明だが、ゲーム発売後の98-7号以降、『声優グランプリ』誌はこのゲームに関して一切沈黙を保っている。声優を送り出した編集部側としても、後味の悪い結末だったことであろう。

ところで、公式サイトを提供した旭通信社がスペシャルサンクスに加わっていることを踏まえると、これだけ本ゲームの宣伝を後押しした雑誌編集部のクレジットがどこにもないとは考えにくい。よく見ると、主婦之友社の系列企業としてオプトコミュニケーションズがあり、これが当時の『声優グランプリ』編集社であった。取扱説明書やエンドロールにもきちんとクレジットされていたことが分かる。

おわりに

以上、未見情報について要点をまとめてみた。冒頭にも触れたとおり筆者はエアプ勢であるから、誤認に基づくところもあるかもしれないので、お気づきの点はご叱正いただきたい。
ここまで書き連ねて今更ではあるが、気になる人はこんなまとめを読むより中古で雑誌を買っていただいたほうが理解が早いかと思う。わざわざ図書館まで行ってコピーを取るよりはるかに安上がりである。
自分でもなんでこんなゲームのためにここまで労を割いたのかよく分からないが、昔の雑誌に関しては国会図書館でさえ万能でないことを知れたのは収穫だった…と思うことにする。

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