東京に私の居場所ができた日
上京して4年経っても、東京はどこか遠い町だった。
そんな田舎者の私に居場所を与えてくれた大好きなお店の話。
当時、新代田に住んでいた彼氏の家に向かう途中にそのお店はあった。
PPcurry(ピピカレー)
カレー屋らしからぬおしゃれな外観に、人気番組めちゃイケの1コーナー「ガリタ食堂」のシールが貼られた扉。濃厚ルーをチキンスープで割りお好みの味にするスタイル、それが自分だけのカレーを食べられる特別感があって好きだった。
初訪問から1年ぐらいだろうか。
2013年の冬にこの店が閉店するということを知り「美味しかったのに、残念だな」と思った。その時はそれだけだった。
久しぶりにTwitterのタイムラインにそのお店のツイートが流れた。新店舗のオープンまで知り合いのお店を間借りしてランチだけ営業するとのこと。
またあの味が食べたくて間借りの店舗を訪ねると、そこは小さなお店だった。
お客と店長さんの距離も近く、「お店の最終日にTシャツ買ってくれてましたよね…?」と話しかけられた。
何度か足を運ぶうちに、少し話をするようになった。
一緒に来店した彼が春から福岡に転勤になること、
彼も私もビートルズが好きなこと、
そんなたわいもない話をした。
彼は「東京に来た時またここに来ます」と言って店を出た。
そして迎えた2014年5月。
大学4年生の私と社会人1年目の彼は、国立競技場の前にいた。
待望のポール・マッカートニー来日公演を目前にして、開場時間になっても全く開かないゲート。
大衆がざわつき始め、警備員に詰め寄る人も…。
少し待って拡声器から流れてきたのは、公演中止のアナウンスだった。
肩を落として帰路についた。
彼に福岡へ帰る前に東京で何をしたいか聞くと、あのカレー屋に行きたいと言う。
お店に入ると店長さんが、
そう言って、私たちを出迎えてくれた。
東京という町に自分たちのことを気にかけ、待っててくれた人がいることがとても嬉しくて涙が出そうになった。
その日、私は確かに東京に自分の居場所を感じた。
ずっと馴染めずにいた東京に、帰る場所が出来た気がした。
この日この時から、私にとってこのお店は大好きで、特別で、かけがえのないお店である。
中野で店名をトリコカレーに変えて第2のスタートを切ったが、残念ながら、周辺地域の再開発で2度目の閉店を迎えた。
今度は私たちが待つ番だ。
私たちがこのお店の居場所になりたい。
もう新たなお店の場所も決まっているそうで、ただただオープンが待ち遠しい。
胃袋を満たしてくれるだけでなく、心も満たしてくれる私の居場所。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?