KANさん、差し入れの話
今日は3月18日。KANさんがメッケル憩室がんを公表したのがちょうど1年前の今日だった。それはKANさんの公式サイトで発表され、その日のうちにいくつものメディアで報じられた。そして日が変わって3月19日の午前0時からのSTVラジオ『KANのロックボンソワ』で、KANさん自身が詳細に、かつ冷静に病気のことを語った。
あれから1年。いまはもう、KANさんはいない。私は、KANさんのこととは関係はないけれど、この1年でいろいろなことがあって、仕事への向き合い方が大きく変わった。つまり、もう仕事を頑張りすぎないということ。けれど、年度末ともなると繁忙期となり、仕事よりも自分を大切にするという新たな向き合い方も、続けることが容易ではなくなる。それでも、早すぎたKANさんの死を考えると、自分を大切にすることが自分のためであり、家族のためであり、自分が大切に思う人や、自分のことを大切に思ってくれる人のために、何よりも大切なのだな、ということを心に刻んで、なるべく仕事から離れようとしている。しかし、上司や同僚には申し訳ない気がするのも事実で、複雑な葛藤があるというのが正直なところだ。
そんな忙しい年度末の3月。この月は仕事だけでなく、プライベートでも家族の誕生日が2回もあったり、ホワイトデーというものがあったりする。もともとお返しするほどバレンタインデーにチョコレートをもらうわけでもないし、コロナ禍以来、会社関係での義理的なイベントは完全になりを潜めた。なので、ホワイトデーだからといって、あれこれ考える必要はないのだが、奥さんにあげるものは別だ。結婚してずいぶん経つし、いい歳なので、形骸化しているという部分はあるけれど、せっかく渡すのならば、普段食べられないもの、ちょっと珍しくて、何よりも美味しいものを選びたい。そして、今や我が家ではバレンタインデーにしても、ホワイトデーにしても、結局家族みんなで食べることになっているので、なおさらその気持ちが強くなる。
ところで、気になっていたお菓子がある。それは、去年2023年1月22日の『KANさんのロックボンソワ』のオープニングのフリートークでKANさんが話していた、KANさんが現場に持っていく「差し入れ」のお菓子である。
「差し入れって、ライブとかいろいろな現場でいただいたり、自分でも持っていくことがあるんですけど、僕はもう決まっていて、東京にある、ちっちゃい、女の人が一人でつくって売っている、パイがあるんですね。長方形で、長さ10センチちょいくらいかな、幅が4センチくらい。味はプレーン、ソルト、アップル、チョコレート、シナモン、6種類くらい。微妙に季節によってラインナップが変わるんですけど、すごくおいしいんですよ。もう4~5年前かな、できた時からすごく気に入って、僕は差し入れを持っていくときは必ずそこのパイを買っていくんですけど、ときどき自分の現場にも、スタッフさんのおやつ用に持っていくことがあって。」
これはどこのお店なんだろう?ずっと気になっていた。ネットで調べ、それらしきお店を見つけた。ただ、忙しい3月に買いに行くには遠い場所。ということで、お取り寄せをしてみることにした。
なんだかんだ注文が遅くなって、ホワイトデーの前日に届いた。シンプルな包装だけど、とてもおいしいって聞いたから、と言って奥さんに渡してみた。箱を開けるところを横からのぞきこむと、中には、たしかに横の長さが10センチくらい、幅は4センチくらいの端正なパイが並んでいた。おそらく、KANさんが番組で話していたのはこれだと思う(もし違っていたらゴメンなさい)。同梱されていたお店からのパンフレットには、バニラアイスと一緒に食べるとおいしい、と書いてある。家族みんなでそのままで1枚食べ、バニラアイスに添えて1枚食べた。これがKANさんが好んだ味だったのかな、と思うより先に、こうして家族一緒に、おいしく食べられることが幸福だと感じた。
ちなみに、KANさんのオープニングトークには続きがあって、こんな話もしていた。その話とは・・・2022年12月に秦基博さんをゲストに迎え、馬場俊英さんと一緒に収録した配信番組の収録の際にもこのパイを持って行ったとのこと。自分の現場なので差し入れをスタッフに渡すと、スタッフが「KANさまからいただきました」と書くのが普通なのだが、KANさんの現場にKANさんからの差し入れっていうのはあまりにも当たり前すぎてつまらないので、「KANさんからもらったと書くより、小田和正さんからいただきました、くらい書いたほうがおもしろい」とスタッフに指示したそう。それを横で聴いていた秦基博さんのマネージャーが「じゃあ、うちも秦基博からいただきました、じゃダメですよね。なんて書けばいいですかね?」という話になり、KANさんが「ダメじゃないけど、せっかくだったら誰の差し入れなら食べたいか考えて書いたら?」と言い、それを受けた秦基博さんのマネージャーが「やっぱ永ちゃんっすかね!」というやりとりがあり、結果、小田和正さんからと矢沢永吉さんからの差し入れ、というウソが書かれたお菓子が並んだとのこと。とはいえ、そこはKANさんのスタッフ。みんなウソだとわかって食べてたらしいけど、ひとりメイクさんが信じちゃって「すごいですね!小田さんと永ちゃんから差し入れなんて!見たことないです!」って信じてた様子だったので、本当のことは言わずにほっといた・・・という話。なんともいたずら好きのKANさんらしい話だなぁ、と改めてラジオの録音を聴きなおして感じた次第。
とはいえ、家族でこうしておいしいパイを食べるきっかけをくれたKANさんには感謝です。ありがとう、KANさん。
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