【この本を読んで考えた】薬指の標本
小川洋子さんは有名な作家さんだし、以前『星の子』の文庫版で今村夏子さんとの対談を読み、どんな小説を書いておられるのかなと気になりながらもそのままになっていた。そして先日往復2時間ほど電車に乗るのに本を持って出るのを忘れていたので、駅構内の本屋さんで何かないかなとキョロキョロ。
そして出会ったのがこの本である。
『薬指の標本』と『六角形の小部屋』
2編が収められていた。
『薬指の標本』
標本室で働いている主人公と雇い主でもある標本技術士との間の何やかや。
いろんな人がいろんな物を持ち込んでくる標本室。
何でも標本にするってなんだろ?
星新一氏のショートショートに出てきそうな話だろうか。
ところがあり得ない設定にもかかわらず、そこには温度があり、湿度があり、情景がとてもこまやかに描かれている。
ある意味エグかったりエロかったりしているはずなのに、優しい言葉で紡がれていっているせいか、全体がふんわりとしたもので包まれているようなイメージが残る。
『六角形の小部屋』
スポーツクラブの更衣室でたまたま存在に気づいてしまった人を通して知る世界のあれやこれや。
本編も、思いつきもしない不思議な世界を主人公と一緒に味わうことが出来た。
これで小川洋子氏の小説を2編読んだことになるが、どちらも懐かしい匂いがする。
小説の内容に既視感というのではなく、雰囲気が懐かしい。
なぜか本にのめりこんでいた子どもの頃を思い出すのは、もしかしたら言葉の優しさのせいなのかもしれない。
Twitterでフォロワーさんが、「すごく優しい文章」と言っておられたが、本当にその通りだと思う。
他の小説もそのうち読んでみたいと思っている。