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今日わたしは風呂のドアを壊しました

きっかけはinstagramだった。


男性が早送りでお風呂掃除をこなす動画が流れてきた。床や浴槽ではなく、なんとお風呂のドアを外して黒カビを取る方法を紹介していた。

「ドアってとれるの?!」と思った私は早速やってみようと思い動画を真似てドアを外した。引っ越してきてから1年。案の定ドアの隙間は真っ黒なカビだらけ。カビハイターをシュッとかけしばらく置く。その後歯ブラシで擦ると元の白いドアに戻った。


「あー、掃除ってなんて気持ち良いんだろう」


ぴかぴかになったドアを見て、まるで心までもがすっきりしたように思えた。昨夜はひとりで酒を飲みアイスを食べ、今朝は昼前まで寝ていたのだが、掃除をしたことですべての罪がなかったかのような気持ちになった。都合の良い女である。

自分の怠惰さを棚に上げ「午後から何をしようかな」とわくわくしながらドアを戻そうとしたのがいけなかった。
つい力が入りすぎて、ストッパーがパキッと音を立てて取れてしまった。ドアはハマったものの、何かが噛んでいるのか滑りが悪かった。


慌ててストッパーをはめようとしたものの根っこからもげていてハマらない。
さっきまでの晴れやかな気持ちが嘘のように曇り、自分自身に嫌気がさした。
「まーたやっちゃったよ....」

とりあえずドアは閉まるので、一旦何事もなかったかのようにそっとドアを閉じそのまま出かけた。




これまで「丁寧なくらし」に憧れ『オレペ』や『レタスクラブ』『ESSE』や『サンキュ』を読んできた。
instagramでは#丁寧なくらし#ミニマリスト#ひとり暮らしで検索をし、人びとの暮らしを覗いていた。


しかしわたしは極度の面倒臭がり。
そして粗雑。

せっかく調べたレシピは実践しないし、掃除も四角い角を丸く掃く。
新卒で入社した会社では、あらゆる機材や備品を壊し、先輩社員には「破壊神」と呼ばれる始末。


そんなわたしがなぜ主婦向け雑誌を愛読しているのか。

その答えをドラマ『僕の姉ちゃん』が教えてくれた。


ソファで収納の本を読んでいた姉に弟が「どうせしないじゃん」的なことを言った。その返しがこれだ。

あんたわかってないねぇ。
片付けるために読んでないし。
こういう本てこのとおりにやればだれにでもできると書いてあって、このとおりにやれば出来るわけよ。
このとおりにやれば自分にも確実に出来るって思える何かがあるって安心じゃない?
そういうことを実感するために読むわけよ。
いわば癒し本だわな。
ほっとする〜。癒しの本て。
僕の姉ちゃん


なるほど。その通りである。
収納された部屋を見ると自分にもやれると思えるし、なんなら片付けた気にすらなれる。
そして心がまるで汗水流して掃除をした時のように整う。
面倒な作業を何一つしなくて良い。
だからわたしも#丁寧なくらしが好きなのだ。


そうして手軽に丁寧なくらし(妄想)を手に入れたわたしはますます家事をサボる。
そんなわたしがたまに風呂掃除なんてしてみるとドアを破壊する。たまのやる気なんて起こすもんじゃない。これなら目に見えないカビなんて放っておくんだった。



しかしながら外出から帰ってきて、冷静になって試行錯誤したら風呂のドアは直った。破壊神歴25年ともなればどうにか直す力が身につく。ストッパーはもげたままだが、とりあえずどうにかなった。退去時にいくら請求されるかが心配だが、のんきな私のことだ。その頃にはきっと忘れている。

元通りの滑りを取り戻したドアを開けると、予想以上に気持ちの良い風呂場が待っていた。思ったよりそう思ったもんだから、面倒臭がりなりに重い腰を上げてみるのも良いと思った。



これからも主婦向け雑誌やインスタグラマーには#丁寧なくらし(妄想)をさせてほしいし、時々ならわたしのやる気を鼓舞していただきたい。ただ次は自分が破壊神である自覚を持ち、物をやさしく取り扱いたい。それが#丁寧なくらし(現実)の第一歩だと思うから。

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