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ひとつの夢がかなった日


オンライン授業になって、大学に行く価値はあるのだろうか?

いやそもそも、大学の価値って、なんだっけ?

そう考えることの多かった、1年間でした。


大学は勉強をしに行くところだから、オンライン授業だからといって、いちいち文句を言うのは甘え。

といった、厳しくも真っ当な意見も、聞こえてきます。

一方でコミュニケーションや、グループワークといった人間同士の協調性を育んだり、友人づくりだって重要で、一生のなかでも多感な時期に、学友たちと二度と来ないキャンパスライフを送ることには価値がある。

といった声も、とても多いようにも感じられます。

オンライン授業で、単位が楽になったぜ、ラッキー。と内心喜んでいる学生も、いるんだろうな、とも思います。

実験やフィールドワーク、造作を中心とするような、化学・建築・美術・電気工学といった学問を学んでいる人たちは、現地に行かないと話にならないという声を聞きます。



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今、僕のもとには、全国から500名を超える学生から、「コロナで学業や進路に影響があり、違った道を模索したい」という、支援を求める声が届いています。全国すべての都道府県から来ており、そのうち32.3%は、女子学生です。

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たとえば、父が解雇され生活に困窮し、家計をサポートするためにも大学に通い続けることが困難になった方。「自分で稼ぐ力」を身に着けなければいけない、といった声。

たとえば、一流のホテルマンに憧れて観光学部でホスピタリティを学んでいた方。将来に希望をもって勉強していた矢先に、コロナ禍で就職先が文字通りすべて「ゼロ」になったという声。

たとえば、ひとり親の家庭で育ち、生活を切り詰めながら、NPOによる生活支援を受けている方。なんとか大学に通っているんです、という声。

たとえば、海外留学の途中で帰国を余儀なくされ、その後も戻れない中、単位認定もままならず、あやふやとなった方。自分の人生の方向性を見失ってしまったという声。

たとえば、オンライン授業で、やる気のない教授に対して苛立ちを感じている方。その抗議や怒りの矛先を、誰にも向ける事ができずにいて、自分自身で抱えて精神的に疲弊しはじめているという声。


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政府や自治体も、学生への支援が足りていない。

そして今、3度目の延長された緊急事態宣言、真っ只中。

政府への補償を求める声が、街に溢れています。いや、すでに「求める」という期待さえ持てずに諦めを感じているフェーズで、希望を感じられなくなってきている飲食やサービス業、旅行業の皆さんは、本当に気の毒に感じます。

僕が 2016年 に渋谷・道玄坂にオープンさせた BOOK LAB TOKYO も、コロナ禍には太刀打ちできず、惜しまれながらも閉店となりました(現在はバーチャル的なコミュニティサービスとして、そのブランド名を残し、メディア事業を営む株式会社インフォバーングループさんが事業を継承していただいております。)

飲食・旅館などサービス業の休業補償や、中小企業への資金繰り支援、無担保無保証といった融資支援などは、よく耳にします。

でも 国、政府 から、学生への支援といった話はあまり聞きません。あくまで、大学ごとによる学費の減免措置の取り組みが発表されたり、奨学金制度の拡充といった取り組みに委ねられていて、あとは立派なOBが大金を寄附したり、日本学生支援機構などが頑張っていたりする程度です。

環境も不十分な中、オンライン授業を要請するのであれば、その期間中、学費の 50% などを政府が補助しても良いと思うのですが、いかがでしょうか。これをもし議員さんが見ていたら、ぜひとも議題に上げてほしいと思います。


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誰も、学生には支援できていない。困っているのに。

まあ、みんながみんな困っているもんな。結婚式あげたくても、あげられないもんな。

でも、「自分も困っている側の人間だから」という理由は、「もっと困っている人たちを助けられない」という言い訳には、ならない。


コロナ禍における学生支援活動として、僕が個人として 30万円 を、できる支援に拠出(寄附)することを決めました。


でも、見渡してみても、どこかに良い寄附先があるわけでもありませんでした。そういうとき、だいたい自分でやるべきだなと考えるわけです。

そんな折、とある大阪を拠点としたNPO法人と出会いました。

ひとり親だったり、貧困だったり、不登校を経験していたりする高校生を対象に、プログラミングを無償で教えて、エンジニアとして外部から仕事も引き受けられるようになる(まずは数万円でもいいから、稼ぐ経験をサポートして、自立を支援する)。

そんな活動をしている理念的な団体でした。

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NPO法人CLACKの平井くんに会った時、すぐに「自分の中にある考えが、昨年夏からぐるぐると回っているんだ。ちょっと聞いてほしい。」と声をかけました。そして「一緒にやろう。」と、3週間後には役者が揃いました。

そして立ち上がったのが、本来は営利スタートアップである 株式会社LABOT と、NPO法人CLACK の共催による、非営利プロジェクト「CODEGYM Academy 2021年コロナ学生緊急支援です。

かつて東日本大震災のとき、自分ができることをしようと取り組んだ、prayforjapan を通じて徹夜を続けながら支援を活動していたあの頃以来、大きなエネルギーを必要とする支援活動です。


この企画について構想段階から、知り合いの企業に声をかけていくと、30を超える協賛企業、1,000万円を超える協賛金が集まりました。そのおかげで、僕らは、500万人以上いる大学生世代のうち、たった500人から1000人の規模だけかもしれないけど、「学び」を絶たれ、「進路」を絶たれ、「希望」を絶たれてしまった学生たちに、一筋の「可能性」を提供するきっかけを、作れるかもしれない。

LABOT からは広報予算の一環から 300万円 をこの活動に拠出(寄附)することにし、鶴田個人も30万円を出しました。

まだ今ほどの丁寧な企画書も出来ていない中、真っ先に支援を表明してくれたのは、Googleさんと、スマレジさんでした。スマレジ山本社長は、「エンジニアが価値を生み出す源泉であるIT業界としての社会的責任、やるべきこと。コロナで困っているし、この業界はエンジニアの人手も足りていない。若い人への教育支援、やらないでどうするの」と、即決してくれました。それから、GMOインターネットグループさんも、熊谷さんトップからの共感のもと、今回の企画が実現するうえで重要すぎるほど、大規模な支援を表明してくれました。熊谷社長は、100以上のグループ会社、1,900億円以上の売上高を誇るベンチャー企業の創業者であって、実は、最終学歴は「中卒」なんだと、彼の本を通じて、僕は知っていました。今回、高校中退をぎりぎり踏みとどまったような学生さんもいらっしゃいます。

「経済的な事情もあって、学校を辞めてしまうことになるけど、でもそうすると、学歴社会の日本では、正社員としての道が閉ざされるか、キャリアがかなり遠回りになる。」

そんなのは、残酷で、悲しいと思いました。

「貧困の連鎖」にも、繋がると感じました。こういうことなのか。

エンジニアは実力があれば、学歴はあまり関係無いです。(もちろん学歴を伴う上を目指すキャリアの世界も、ありますが、)そうじゃなく一般論として、あくまで自分で道を切り開いていく、ワイルドな生き方がしやすい職種であることは間違い有りません。


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─ 「コロナで影響を受けた学生に、たとえば1000人規模でプログラミングをタダで教えたいんだけど... どう思う?」

昨年、社内でそう言ったとき「また代表がなにか無茶なこと言っているよ...」みたいな感じの空気が、一瞬だけ漂いました。

でも誰も、「100人くらいでいいんじゃない?」「非営利...? 資金調達中だけど、投資家とかコミュニケーション大丈夫?」とか、反対や疑問を持つことなく、話を聞いてくれました。今思えば、高い目標を掲げたときに何の疑問も持たずに、どうやったらできるか? を考えて、ついてきてくれる、最高のメンバーでした。

規模にはチャレンジが必要でしたが、一人ひとりの方に結果を出してもらう企画の中身に、自信はありました。

僕らが、2020年から行っていた CODEGYM ISA (※ ISAは、スクールに在籍して学んでいる間は学費がかからず、卒業して就職が決まったあとから、年収に応じた割合を学費として支払う所得分配契約)では、卒業生のうち、新卒にあたる 16歳〜22歳 の元受講生の3人が、サイバーエージェント、DeNA、ZOZOテクノロジーズ、レコチョク、コードベリーに、それぞれ年収400万円以上での新卒エンジニアの内定実績を作っています。


家庭環境に悩み、今回コロナによって親を手伝うために実家に帰り、学びをやめなければいけないと何度も危機があり相談に来ていた 16歳(卒業した現在は17歳)の元受講生は、今回エンジニア就活を経て、「提示された企業からの初任給だけど、地方に暮らしている親の収入を超えていましたよ」と、ちょっと複雑な感情も入っているような、喜びの報告をしてくれました。柄にもなく彼が「親孝行できるかも」という趣旨のことを話していて、僕は「人に教える」という職種を通じて仕事ができたことを、誇りに思い、嬉しく感じました。

ひとりで子育てしてきたり、兄弟何人も育てながら苦労していた親の立場としては、自分の子どもがコツコツと勉強を重ね、熱中し、その結果として企業から採用オファーをもらい、ソフトウェア・エンジニアとして自ら生計を立て始められるということは、なんと嬉しいことだろうか。何より「好きな仕事」に出会い、好きでやっているということに。

CODEGYM の卒業生からは、久しぶりにインタビューの機会を通じて、ミーティング間際に「あ、ちょっと切るの待って下さい、言いたいことがあります」と話しかけられ、「本当にこのスクール作ってくれてありがとうございます。今の自分があるのはスクールのおかげです。」と、卒業して9ヶ月経ったあとになっても、丁寧に御礼を言ってくれました。

教え子たちが胸を張って立派に業界で活躍していってくれる姿をみて、僕はもっとこの業界に貢献したいと思いました。卒業生たちがさらにキャリアアップしたり、業界で活躍する土壌を作っていきたい。うちのスクールは、結構ドライだしビジネスライクだから、不意にそう心から感謝の言葉を受け止めると、やっぱり恥ずかしいけれど、励みになります。

ただ、前の段落について、全員が華々しいそういった知名度の高い企業や、待遇の良い条件で決めるというのは、当然ながら無理だとは思います。例で上げたのは、やっぱりスクールの黎明期だからこそ、おそらく情報感度が高い方が最初に集まりやすかった、という事象も絡んでいるとは思います。比率でいうと、母集団に対して、5% くらいの少数派。

有名企業や待遇が良い採用案件に、卒業生の就職実績があるから、私たちに期待してくれという話ではありません。あくまで個人差の大きい話でもあり、受講生自身の努力の差異だったり、運だったり、タイミングだったり、カルチャーフィットだったり。知名度が高いとか、年収が良いとか以上に、カルチャーマッチのほうが大切です。

少なくとも同様の年代の方が、僕らを信じてカリキュラムに最後までついてきてくれれば、「正社員」として、大卒初任給と同じ額で、手に職をつけて「自ら納得できる就職先」を見つけて、仕事を始められるところまでは、支援できるだろう。


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CS50 は最高の教材。世界200万人が学んでいるものと同じカリキュラムを使って、現在の境遇、これまでの学歴に関係のない「挑戦する機会」を提供する。

非営利のプロジェクトで、教材などにお金をかけないためにも、MOOCである edX のなか人気コンテンツ、 CS50 を主要教材として採用しました。ハーバード大学の Malan 先生に、Facebookを通じて「日本でコロナで困ってる学生に、この教材を使って支援をするんだ」と連絡をしてみたところ、「いいね!」と明快な応援コメントを返信してくれました。CODEGYM Academy 2021年コロナ学生緊急支援では、Creative Commons ライセンスに基づいて、ハーバード大学で実際に学ばれているコンピュータサイエンスの内容と Web Development のカリキュラムを学び、もし最後まで続けられたら、実際にハーバードのCS50 履修認定を得るところまでをサポートします。

それに加えた独自のカリキュラムとしては、チーム開発のロールプレイングを通じて、ハッカソン形式でオリジナルのWebアプリケーション開発を、「すべてオンライン、リモート開発」で行います。



1つの夢がかなった日 ─入学オリエンにて


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今週行われた入学オリエンテーションは、Zoom の画面に入り切らないほどの沢山の学生が、真剣な眼差しで話を聞いてくれました。

このオリエンの中で僕は、以下の様なことをメッセージとして伝えました。

「かつての僕が、不登校でコンプレックスの塊だったとき、プログラミングを通じて思考し、創作を続けることで、自分の殻を破り、自己肯定感を持ち、社会とのつながりを実感できました。自分ができるようになったとき、自分のような人にプログラミングを教えたいと思った。

そんなことを思い始めてから 17年が経った今、ようやく、今週末から。みんなと一緒にプログラミングを学べるのがとても楽しみです。

僕にとって1つの夢がかなった日です。」




まだまだ支援が足りていないのが実情です。

でも、500人に対して毎週プログラミングの指導を行い、就職まで支援というのには、正直なところ、リソース(ストレートに言うと、支援のためのお金)が足りていない。具体的にはあと、600万円くらい足りていません。

足りていないので、実はやれることには限りがあり、例えば1on1でのコーチング学習は当初やりたかったけれども、12週目以降にクリアした学生に提供するような形となりました。12週目までに脱落してしまう可能性がある方に、丁寧なサポートは出来ないという意味になります。もう少し資金的な余裕があれば、これもサポートが拡充します。

収支報告書をインターネットで公開します

私たちは会社のバリューに「フェアであろう。」ということを捧げています。高額なスクール商材ですから、払う価値があるものか、その契約はフェアであるのか、しっかりとお客さんと向き合っていたいから。

そのバリューがあるから、今回のプロジェクトも自ずと、非営利でやってスポンサーを集める以上、収支報告をするよね。でもそれって、スポンサーとかステークホルダーだけに報告する..? いや、Twitterで声援を送っていただいたり、お金に限らない応援をくれる人はたくさんいるわけだから、インターネットで公開するべきじゃないのか?

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今回の企画「コロナ学生緊急支援」は非営利プロジェクトで、透明性を重視するためにも、協賛企業など利害関係者に限らず、収支報告をインターネットを通じて、広く公開したいと考えています。


あと少しだけ、協賛を集めています。クラファンにご協力していただけませんか。

実はいま、協賛金ギリギリのところで、頑張っています。思った以上に学生の悩みが深刻であり、ひとりひとりの手厚いサポートが必要かもしれないと感じている。少しでも多く集まれば、多くのメンターを業務委託で採用して、一人に対するサポートの時間を濃くすることができる。

非営利だからといって、赤字になってしまっては、運営メンバーは疲弊するし、「良いことやってんだし、人件費もボランティアでお願いしますよ」とは言えない。持続可能ではないし、持ち出しにも限界がある。


だから、これを読んでくれている方に、ただただシンプルなお願いがあります。

クラウドファンディングを、はじめました。個人の方からの小さな支援を募っています。

これまでGMOさん、スマレジさんを筆頭としたありがたい企業からの協賛に加えて、個人の方を対象として、3,000円から支援できるクラウドファンディングをはじめました。授業が始まる前日の5月14日(金)まで実施されています。


クラウドファンディングを通じてご支援いただいたお金は、コロナ禍の影響を受けた学生に対するプログラミング教育支援として、非営利に限定され、活用されます。収支報告のほか、学生がどういうふうに学び、結果を出し、どういう成果物を作っていったのか、活動報告を受ける権利が得られます。

2,500円の技術書が高すぎて、買うことにためらって一歩を踏み出せない10代が、日本に沢山います。これが現実です。コロナ禍でバイトのシフトも減り、収入が減ってしまったのだから、学費のために生活を「切り詰めて」いたりすると、「バイトで稼いで本を買えばいい」というレベルの話ではなくて、稼ぐ手段もなく、支出だけがあることに悩んで抜けられていないのです。

でも、みんな環境に関係なく、ちゃんと生まれ持った地頭があります。素直なんです。今までの逆境やコンプレックスから抜け出したいと、何倍も意欲があるんです。エネルギーはあって、その向き先が、上手に分かっていない。

彼らを半年教えることができたら、僕たちでの企画を通じて、立派なソフトウェアエンジニアの卵に育ててみせます。

そんな数百人の学生の将来を見てみたい方、ぜひ、今回のクラウドファンディングにどうぞご支援をよろしくおねがいします。


CODEGYM Academy 公式サイト


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