〜根性は美しい〜映画「アイ・トーニャ」
実話の威力たるや…。「事実は小説より奇なり」とは、なるほど的を射た表現だなと思わざるを得ない映画であった。
アメリカで初のトリプルアクセルに成功したフィギュアスケート選手、トーニャ・ハーディングの実話。このお方、オリンピックの選考会の時期に、元夫とその友人と共謀して、ライバルである自国の選手ナンシー・ケリガンに怪我を負わせたという疑惑が持たれていた選手なんです。ただし、本人は否定。元夫たちが勝手にやったと証言をしていたのです。
また、トーニャは疑惑のさなかにリレハンメルオリンピックに出場し、靴ひもが切れてタイムアウトを取った選手でもあったのです。なんともまぁセンセーショナルというかドラマが過ぎるなー。ワタクシ40歳、そのシーンをなんとなく覚えてる気がします。オリンピックで織田信成くんの靴ひもが切れた時に思い出し気がするんだなー。
この映画、作りも凝っていて面白いんです。トーニャの半生を映画化しているのですが、要所要所で登場人物たちが鑑賞者に語りかけてくる作りになっています。例えばトーニャが「こんな理不尽なことってないわよね?」とか「私が犯人だって思う?」と語りかけてきたと思ったら、元夫・ジェフが「あいつが言ってることは全部ウソ、俺ははめられた」みたいな感じで応酬してくるんです。(セリフは自信なし、こんなイメージです…)
トーニャ(マーゴット・ロビー)は物心ついたころから、フィギュアスケートが大好きで寝ても覚めてもスケートのことを考えている女の子であった。母親は労働者階級で、結婚離婚を繰り返しており、自分の娘にフィギュアスケートの才能があると見抜いた母親はコーチをつけ、学校もロクに行かせず、厳しく育てていく。それはトーニャをオリンピック選手にして貧困生活から脱出しようという思惑でもあったのです。
この母親は厳しいというより、虐待しながらトーニャを育てていくのです。気に食わないことがあると暴言はもちろん殴る蹴るは当たり前。それが娘を強くすると信じている。そんな環境の中、トーニャはフィギュアスケートをはじめた瞬間からその才能をいかんなく発揮していくのです。
トーニャが10代後半で出会ったのが、夫(途中で離婚)であるジェフ(セバスチャン・スタン)。実家を出たい、母親のもとから離れたい一心でジェフと結婚する。しかし、このジェフも暴力を振るうDV男であったのです。
トーニャの家庭はほとんどシングルマザー状態で常に貧困。貧しさにより暴力が加速していく。そんな生活の中で多くの資金を必要とするフィギュアスケートを続けることは並大抵のことではないと素人の私でも容易に想像がつく。さらに、受けた暴力はさらなる暴力を呼ぶことがトーニャの結婚からもわかる。「おまえは自分が殴られて当たり前と思ってるんだろ」と夫ジェフから言われ、トーニャも否定ができないどころかそう思っている。
さらに、トーニャは実力があっても評議委員から認められないのです。どちらかというとパワー重視の演技のため、どれだけ他を圧倒しても芸術点や演技構成点が出ないのです。衣装やメイクなども他の選手よりも見劣りすることも一因となっている。
点数に不満を抱いたトーニャが評議委員に直談判しにいくも、評議委員からは「みんなが見たいのは、あなたのような(貧困層で品がない)スケートではなく、アメリカのきちんとした(裕福で上品)家庭像なんですよ」というような言葉を投げつけられるのです。
この言葉、私だったら耐えられない気がする。勉強もそう、スポーツもそう、結局お金や育ちが物を言うのか……と思うと暗澹たる気持ちになる。どんなことでも、子供たちにはある程度スタートラインは同じにしてほしいと思うし、それが政治の役割だと思うけれど、現代の日本でもそれはまかり通らない時代になってきているね……おっと、話が脱線しました。
ただ、このトーニャはここで引き下がらないのです。トリプルアクセルを決められれば評議委員を黙らせることができると、挑戦を続けるのです。なんてパワー!生きる力がハンパない。エネルギーの塊!!ありったけの力で、自分の運命や逆境に立ち向かうのです。
ただ、その結果、「ナンシー・ケリガン襲撃事件」という悲劇を生んでしまうのも事実なんです。才能をもったトーニャがしかるべき支援を受けてフィギュアに打ち込んでいたらと考えずにはいられないけれど、とはいえ、それだけでもないのがスポーツの世界なので一概に言えないけれど…。でもね…。
ただし、この事件の実質の首謀者は夫ジェフの友人のショーン。この人がまた強烈なキャラクターなのです。自分を元諜報部員だと思い込み、自身を大きく見せようとした結果、事件を引っ掻き回した男。実際は実家ぐらしのニートの童貞。「こういう男の人いるなー(苦笑)」って感想です。
トーニャはその後も世間に屈することなく力強く生きていくのです。不屈の精神とはこのこと!生きる力がすごすぎます。今は息子さんと穏やかに暮らしているそうです。