~映画だからこその体験~映画「メッセージ」
こんな原作をよくもまぁ映画化できたなぁというのが率直な感想である。しかも登場人物が地味(失礼!)。宇宙人が暴れ回るわけでもなく、異空間に飛ばされるわけでもなく、もちろん激しい恋愛もない。終始淡々としている。しかし、それ故に作り込まれた脚本や演出、造形の凄みがあり、濃密な映画体験ができる素晴らしい作品である。
突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは―。(公式サイトより抜粋)
SF映画の最大の壁は、文章で書いてあったり、人それぞれのイマジネーションに委ねられているものを、例えば未確認生物の姿を造形化して”見せる“必要があることだ。見せないなら見せないで、その理由の開示が必要になる。
これは私がマンガを作っているので良くわかる。というか、いつも困っている。人の頭の中にあるものを可視化する難しさ。しかも、それを観ている人に納得させなければならない。SFなのでそういったことが随所に出てくる。これを一つ一つ齟齬のないように造形化したのかと思うと気が遠くなりそうである。
しかし、それこそがこの映画の醍醐味であり、ストーリーに絶大な説得力を与えている。ぜひ、映画館で大きなスクリーンで堪能したもらいたいです。
さて、今作、何よりも素晴らしいと思ったのが主人公の女性ルイーズ。年齢は出ていなかったが、40代の未婚の女性であると推察される。言語学者としてをつみ、大学でも教鞭を取っている。穏やかに実直に自身の研究や生活を送っている姿が印象的であった。
政府に依頼され、未確認知的生命体と対峙していくルイーズ。正体はおろか、意志の通じない未確認生命体とやり取りをするためにルイーズが編み出したのが“言語“を使うこと。まずは自分が何者かを名乗る、いわゆる”自己紹介”するのだが、これが人間以外のどんな”相手”にも有効なのだなと気付かされる。
「言葉は文明の基礎であり、人々の協力関係を促し、
更には闘いにおける最初の武器でもある。」
未確認生命体という想像を越えた恐怖と必死に向き合うルイーズ。それでもルイーズは人間として言語学者として、目の前にあるものと正面から対峙し、関係性を築いていく。そして大きな奇跡を起こす……。
この物語では、何事も一足飛びでは解決が出来ないのだと教えてくれる。昨今、政治や世界情勢では何事も壊したりして一挙解決を求めようとしているように見えるがそれでは何も生まないし、何の解決にもならないということをこの物語では”メッセージ”として私たちに発信してくれている気がした。