左利きに道具が合わせてくれる「TUZU アジャスト 万年筆」
2024年4月27日に新発売した、セーラー万年筆の「TUZU アジャスト 万年筆」(税込4,950円)。じぶんに合った書きやすさが見つかるとうたった機能が気になり、購入してみた。
私は左利きである。実は左利きの人は、書く方向や自身のクセによって、右利きの人より万年筆が使いにくい場合があるのだ。なので、左利きの書きグセをフォローするペン先と、サポートするグリップがついた「左利き用万年筆」が売られている。
しかし、「TUZU アジャスト 万年筆」は、利き手を問わず、さまざまな書き方の人に対応するらしい。従来の左利き用万年筆にはない機能も使っているそう。そんなことを聞いたら試さずにはいられないのだ。
※この記事は個人で執筆しています。誤記がありましたら、クリエイターへの問合せから連絡いただけると幸いです。
左利きの人が「万年筆は使いづらい」と感じてしまう理由2つ
そもそも、なぜ左利きの人が「万年筆は使いづらい」と感じてしまうだろうか。人にもよるが、下図のような理由が考えられる。
1.筆圧が強い→万年筆のペン先が広がる・刺さる
元々筆圧が強い人もいるが、左利きであるために筆圧が強くなってしまう人もいる。
左利きが日本語を書く場合、横画は左から右に押すように書く。そのため、ボールペンのボールが上手く回らなく、インクがかすれてしまうときがある。右利きの場合、横画は左から右に引くように書くため、無駄な力が加わらない。
本来ならば、力を抜けばインクが出る場合もあるのだが、「インクを出したい!」と力が入ってしまうこともあるだろう。そのため、筆圧が強くなってきてしまう。
万年筆の場合、筆圧が強いとペン先が広がりインクが出づらくなる。また、過剰な力を加えた場合、ペン先そのものの湾曲にも繋がってしまう。(1)
また、万年筆のペン先には「ペンポイント」と呼ばれる、小さいボールのような合金が付いている。筆圧が強い人は、「ペンポイント」の形が鋭角状の万年筆を使うとき、紙を突き刺す感覚を受けてしまうだろう。
▼初めから手を出す人は少ないと思うが、ペンポイントの形が鋭角状のものは、特殊なペン先によく見られる。
2.変わった筆記角度になる→正しい万年筆の角度で書けない
左利きが横書きする場合、書いた文字が手に当たるため、インクや鉛筆がこすれてしまう。手が汚れるのを避けるため、手を曲げたり浮かせたりして書く人もいる。
また、横書きした文字が自分の手で隠れてしまうので、文字を避けるようにペンや鉛筆を持つ人もいるだろう。
万年筆の場合、正しいペン先の位置で持たないとインクが出づらい。そのため、変わった筆記角度で書くクセのある人は、万年筆は使いづらい文具になってしまうだろう。
【まとめ】
以上が、左利きの人が「万年筆は使いづらい」と感じてしまう理由である。
逆に言えば、左利きでも「筆圧が弱いまたは普通、筆記角度にクセがない」人は問題なく万年筆を使える。また、右利きでも「筆圧が強く、変わった筆記角度の人」は万年筆を使いづらいと感じるだろう。
それにしても、左利きの人が「ちゃんと文字を書きたい」と工夫した結果、万年筆が使いづらい書き方になってしまうのが、なんとも切ない。
使いづらさが「TUZU アジャスト 万年筆」なら解決するかもしれない
では、試行錯誤の上で「筆圧が強く、変わった筆記角度の人」になってしまった左利きは、書き方を矯正しないかぎり、万年筆が使いづらいままなのだろうか。
これから紹介する「TUZU アジャスト 万年筆」は「筆圧が強く、変わった筆記角度の人」に対応する特徴を持ったアイテムなのだ。なので、今まで万年筆が使いづらかった人も解決するかもしれない。
1.筆圧が強い→丸いペンポイントと硬めのニブで受け止める
万年筆のペン先の素材は、金を使ったものと、鉄(ステンレス)を使ったものがある。
金を使ったものは、しなやかで強弱のついた線が書きやすい反面、筆圧の強い人にはペン先が広がりやすい。
「TUZU アジャスト 万年筆」の場合、ペン先はステンレスを採用している。ステンレスは比較的ペン先が硬いため、筆圧のコントロールに慣れていない人にも使いやすいのだ。
また、ペンポイントが丸いため、紙にペン先を突き刺す心配もない。
鋭角状のペンポイントに比べ、ペン先が紙に接する面も増えるので、対応できる筆記角度も広がるのもポイント。これは、「変わった筆記角度になる」人の対応策にもなる。
また、ペンの太さも細字(F)・中字(M)・太字(B)と3種類のなかから選べるのもうれしい。
なぜなら、手に取りやすい価格帯の「左利き用万年筆」は中字(M)相当の太さの特殊ペン先のみを採用しているのだ。母数が少ない左利きなので、低価格帯の万年筆で、太さのバリエーションを増やすのも難しいだろう。利き手を問わない万年筆だからこそ、ペン先の種類が増やせる。
ちなみに、セーラー万年筆の「プロフィット21 レフティ 万年筆」は左利き用ながらペンの太さが選べる。ただ、定価が税込33,000円(2024年5月時点)と、なかなか勇気のいるお値段となっている。
2.変わった筆記角度になる→ペン先そのものを回転させてしまう
万年筆は、ペン先が紙に対して垂直に向けて書くのが好ましい。(2)
そのため、従来の左利き用万年筆や、初心者向けの万年筆は正しくペンを握るためのグリップを付けているものもある。
「TUZU アジャスト 万年筆」も「ナチュラルフィットグリップ」を採用している。上の写真の赤線部分を握ると、正しいペン先の向きで書けるのだ。
しかし、長年変わった筆記角度で書いていた人の場合、決められたペンの握り方に違和感を覚えてしまうこともあるだろう。そこで、ペン先そのものを回転させてしまう「ペン先回転機能」の登場だ。
グリップの位置が10度ずつ調整できるので、自分の使いやすい位置にペン先を調整できる。
例えば、上からペンを回り込むように持ち、ペン先が横を向いてしまう握りクセがあるとしよう。この場合は、左回りに20度動かすことで、ペン先が紙に対して垂直に向かうようになった。
実際に書いてみた
実際に書いてみると、紙とペン先に抵抗感がなく、かつ硬めのしっかりした書き心地である。インクの出が良い加圧式ボールペンのような印象も感じる。
私の場合、万年筆を使いたいがために、筆記角度を矯正したため、ペン先の位置を大幅に変えなくても使える。
だが、横書きの場合、右に10度回すと安定することに気づいた。おそらく、手にインクがつかないように、やや手首を内側に入れるからだろう。
「TUZU アジャスト 万年筆」がオススメできない人、できる人
「TUZU アジャスト 万年筆」のデザインや機能が気に入った方は、ぜひ試してみてほしい。けれども、初めての万年筆や、一度万年筆を挫折した方は悩んでしまうもの。そこで、個人的に「TUZU アジャスト 万年筆」のオススメできない人、できる人について考えてみた。
オススメできない人
万年筆の中には、手に取りやすい価格のものもある。左利きの人は、筆記角度が矯正できる、グリップの付いているものがおすすめ。
参考までに、実際に私が使ったことのある、税込3,000円以下の万年筆を紹介する。
「カクノ」パイロット万年筆 税込1,100円
ペン先がステンレス、太さがEF・F・Mと選べる。初心者はやはりMがおすすめ。グリップが三角形になっている。「万年筆 Base」シュナイダー 税込2,640 円
ペン先Lは左利き用。グリップは、左利きの人が正しいペンの角度で持てる仕様。
オススメできる人
「TUZU アジャスト 万年筆」の「ペン先回転機能」は他の万年筆にはない機能。自分の筆記角度そのままに万年筆を使いたい人は、ぜひ試してみて欲しい。
ちなみに、税込4,950円は一見高く感じる方もいるかもしれない。
だが、先ほど紹介した「ペン先回転機能」に加え、万年筆内でインクが乾いてしまうことを防ぐ「スライド式シール機構」や、好きなボトルインクを入れられる「コンバーター内蔵」など、さまざまな機能を備えている。もっと高い値付けをすることもできただろう。
個人的には、5,000円以下で万年筆を楽しんでほしい、という願いが込められた価格のように感じる。
「じぶんの持ち方」で万年筆を楽しんで
スープバーのおたまが使いづらい、紐で固定されたボールペンが書きずらい、でもそれを使うしかない……普段は「道具に自分を合わせる」左利き。
そんななか、「TUZU アジャスト 万年筆」は「道具が自分に合わせる」体験をくれる。ぜひ、じぶんの持ち方で、じぶんに合った書きやすさを見つけてみてほしい。
▼今回紹介した万年筆はこちら。
▼今回は、主に左利きに向けた機能を取り上げたが、他にも万年筆初心者にオススメできる機能があるので、オフィシャルサイトもチェックしてみてほしい。
参考文献
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文具マガジンやっています。道具として使っている文具と、完全に趣味趣向の文具、どちらも好きで紹介しています。
▼左利き向けの文具を知りたい方はこちら!実際に愛用中のものなので、自信を持っておすすめします。
▼万年筆よりも難易度高めな、「左利きのつけペン選び」も書いています。
▼記事の更新情報や、リアルタイムで使っている文具はX(Twitter)で発信しています。
▼Instagramでは「ペン先回転機能」を動画でご紹介。