手に激痛が…腱鞘炎でもリウマチでもないのに
へバーデン結節。不治の病。
激痛はつらい。変形もつらい。
「へバーデン結節は不治の病です。今は非常に痛くてつらいでしょうが、指が変形しきれば痛みは治まります。大丈夫。これで死ぬ人はいません」
かれこれ十数年前、整形外科医は初診の私にそう告げ、ついでに調べた腰へのシップを処方した。
長い事付き合いのある腱鞘炎では私は治らぬ病の宣告を受けた。
突然の痛みと戸惑い
ある日突然、その痛みは現れた。いつもの腱鞘炎とは違う。アレもヒドイ痛みだが、飛び上がるほどの激痛ではない。そっと触れただけでも痛みに声が出なくなる。その痛みをこらえながら満員電車を飛び降りて、いつも車窓からぼんやり見えていたその整形外科のドアを押した。
そして、自分の体に何が起こっているのか分からず思い悩んでいた自分に、一つの答えが出たのだから喜ばしいことだ。
...などと呑気に思うことができなかった私は、帰りの電車で必死にへバーデン結節の変形を止めるための手段を探していた。
痛みが続くことも辛いが、それ以上に私は自分の指が変形していく様を見続ける勇気がなかった。己が外見至上主義者だとは思ってもいなかったが、多かれ少なかれ、自分は「そう」なのだと認めるしかなかった。
自分の思いがけない志向にも戸惑ったが、何はともあれ、この変形と痛みを止めるための情報が欲しかった。
希望を求めて —— 情報との格闘
インターネットの海を泳ぐ
今ほど検索精度や手法も高くない時代からインターネットの恩恵にあずかってきた身だ。しらみつぶしに探すことをいとわずにいられた。とはいえ、情報の海の表層に見えるのは、へバーデン結節のとんでもない痛みと、指の変形についての話ばかり。
都市伝説との出会い
それでも諦めず泳ぎ続けていると、チラホラと東京のどこかに、それを治せる医者がいる、と都市伝説のようなものがヒットし始めた。もちろん、最終的にその病院の名前をみつけ、家からは1時間半かかるそこに行ったのは言うまでもない。
結論を言おう。へバーデン結節は今のところ確かにまだ不治の病の域を出ていないだろう。しかし変形するとは限らないのだ。手術をしなくとも、変形しないように過ごせれば、変形しない。
もしも冒頭の私のように診断されて、気落ちしながら検索して、たまたまここにたどり着いた人がいたら...「諦めないで」と伝えたい。
私は医学的専門知識を持ち合わせてはいない。ただ実体験として、そう言える。
先日、数年ぶりにまた痛み出した激痛に耐えかねて、近所に開院して間もない整形外科を受診した。その医師も、現時点での変形は認められないと保証してくれた。
正直な話、この十数年の間にへバーデン結節の痛み、ブシャール結節の痛みは、何度もぶり返している。つまり長い小康状態を挟んで、ある日突然、攻撃してくる。
痛みをこらえつつも日常を送れるような「ゆるめ生活」の時期にあれば、病院には行かない。指を酷使しがちな、安静にできそうにない時期には病院へ行き、薬を飲む。...その繰り返しだ。
もともと完治するものではないのだから、それがへバーデン結節と自分の付き合い方におちついた。
治療との出逢い —— 幻の病院にて
三種の薬との邂逅
一時間半かけてたどり着いたその病院で、私は数日前に他院で受けた整形外科定番の検査を再び終えた。その医師が処方したのは3種類の薬だった。
1)血行を良くする薬
2)痛みをやわらげる薬
3)本来整形外科では使わない薬
本来使わない...この3番目の薬こそ、この病院を都市伝説たらしめているものの正体だった。
別に違法な薬ではない。ただ本来(?)整形外科で使う薬ではなく、数年後ついには利用を止められることになったのだが、確かに自分には効果があった。
大人しくその薬を飲み続けた一か月後。気が付くと、痛みを感じずに箸を握れる自分がいた。
効果と議論
当時、本来の使用方法から逸脱したその薬を使うことを非難する医師もいた。エビデンスに欠けるその薬を患者に使うなど言語道断!...当然ともいえる意見だ。それでも、効果があった自分からすれば、治しようがないと諦めているならむしろ、使ってみればいいのにね~と思う。あくまで、好転しないが悪影響もない、ならの話だが。
簡単にそう言えるのは、自分に良い結果があったからというより、もともとの薬に向き合う姿勢のせいだ。「毒と薬は紙一重」。
他の病気で飲んでいる薬では、さんざん副作用に苦しんできたし、今後もあるだろう。が、自分で飲むしか効果の有無は分からない。私は勧められた薬は副作用を理解したうえで、とりあえず飲むことにしている。
私の選んだ付き合い方
動かすことの大切さ
ところで、幻の薬を処方していた医師は、へバーデン結節に対してはテーピング反対派だ。関節が固定されないように、むしろ適度に動かすこと、痛くても。無理に動かす必要はないが、固定はするな、血を通わせろ、というご意見だ。
現実的な対処法
基本的に、私はその意見に従っているが、今回ばかりは無理だった。何もしないとうっかり忘れてしまうこの頭では、気を付けながら活動するのは無理だった。それほどまでに利き手の人差し指は働き続けているのだ。
...鉄板入りのサポーターを手に入れるまで、数日とかからなかったし、後悔はしていない。必要に応じて取り外し、気を付けながら作業し、痛みに飛び上がりながらも作業を終えたら、またサポーターを付ける。
そうして一か月が過ぎた。痛みのコントロールはなんとかできている。
そもそも、更年期とも関わりの深い病気だ。初めてこの痛みが出た時、40過ぎてすぐは早いとはいえ、確かにほかの更年期症状も抱えていた。今はこの病を緩和する可能性の高い、婦人科の薬を飲み始めたばかりでもあり、一時間半むこうのあの病院に行ける体力もない。
十数年前と違い、ちゃんと探せば意外と近くにへバーデン結節に対処してくれる病院はすぐに見つかるかもしれない。...そう思いながら、行けるようになった時、まだ痛みが続くならやはり私はあの病院へ行くだろう。
非難されるほどの薬を使いつつも、確かに救われた患者を多く抱えるあの医師のもとへ。
結論 —— 希望はある
痛みを繰り返しながらでも、変形しない可能性
…十数年前に始まった病のことを、2024年の今書いているのは、当然訳がある。
久しぶりに再発したのだ。
ちょうど更年期障害も悪化してきて、他の関節も痛み出している。
が、既に書いた通り、指の変形は認められない。
痛みはある。
がペンも何とか、包丁も何とか握れている。
さすがに絵は思うように描けないので、今は止めているが近いうちにまた描けるだろう。
へバーデン結節は今のところ確かにまだ不治の病の域を出ていないだろう。しかし変形するとは限らないのだ
これから向き合う方へ
もしも冒頭の私のように診断されて、気落ちしながら検索して、たまたまここにたどり着いた人がいたら...「諦めないで」と伝えたい。
付記 —— 薬との向き合い方
注:例の薬の効果は「100パーセントではなく、効く人には効くだけの薬」だったと記憶しています。自分はたまたま幸運にも効く方に入っただけなのでしょう。
どの病気であれ、何の薬であれ、効かない時は効かないどころか毒になる...。予防医学という言葉を知っていても、なかなか実践しきれないなら、それを踏まえて毒(薬)を飲む覚悟が必要だと思っています。