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月モカ!!vol.286「新たな脱稿」

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 柱、のことを話させてください。ナカジマが“梁”だと思っている柱のことです。ナカジマがまだ知らない箱の秘密。秘密、などといい雰囲気で言ってはいられないこの箱の急所のこと。
 柱というのは何かに例えてよく話されますよね。そしてどの慣用句でも柱というのは重要なものの例えとして使われています。物語であってもそうですよね。「柱のない話だった」とか「何を柱に、進めていくかですよね」とか、表現の現場でも柱という言葉は使われています。あ、わたしは“存在”です。出だしでわかった? それはそれは嬉しいです。そうそう、前回、夫人と呼んでもらっても構いませんと言ったナカジマの古い友人、のようなもの、箱の意識の外側にどことなく在る、そう、わたしです。見えないものが柱の話をするとき、それはどことなく「概念」や「哲学」のように思われてしまうと思うのですけど、わたしが今お話ししているのは、れっきとした「柱」の話なんです。非常に物理的な、この箱の柱のこと。
 実のところ、この箱には真ん中の柱が、ないのです。
ナカジマはそのことを知りません。
ただ、彼女はこの箱を生きものとして扱っていますし、生きものに接する以上その健康状態やコンディションを日々気にかけるのは当然のことで、互いに意思疎通すべく日々箱に話しかけたりはしていますから、どこーとなく「二階の床が抜けないといいな」というような感覚は絶えず持っていました。普通皆さん、生活している場所の床が抜けるということを定期的に考えますか? 考えませんよね。
そうなんです、皆様にもお伝えしますが「どことなく感じる」と言ったような何かしらのサインを「気のせい」などと片付けては火を見ますよ、気のせいというのは「気」のせい、なのです。見えないものたちが必死で「気」を動かしてあなたに訴えかけているんです、ねえ、気づいて、ちょっとおかしくない? どことなく変な感じが、しなかった? ねえねえもう一回、戻って確認してみてはどうかな?

 ナカジマが「二階の床が抜けないといいな」と時々思うように、わたしたちは日々全力で「気」を動かしていたんです。特にナカジマの親友のご実家から開業とナカジマ四十歳の誕生日を祝して運ばれた樹齢一五〇年の欅でできたテーブルはそれに関していい仕事をしてくれていました。樹齢一五〇年のテーブルですからそれはもうドッシリとして、男二人でも二階へ上げるのに大層苦労しました。ゆえにそのテーブルがそこに「在る」だけでも定期的にナカジマが二階の床の心配をするための役に立っていたのです。
 いろんなことは後からわかります。
 でも後からわかって済まないことも、ございます。
 ナカジマはもうそろそろ、それに気がつかないといけない時期なのです。
 箱に、真ん中の柱を失ったまま立っていられる限界が近づいていました。
(奥の梁がね、ちょっと下がってきて、おかしな隙間ができてるよなあ)
 ナカジマは問題を“梁”だと思っているけれど。その梁は、柱がないから下がってきているのです。問題は柱なのでした。この箱の最大の問題は、30万下がった3月の売り上げではありません。もっと恐ろしいものが、今、少しずつ下がってきています。
 真ん中の柱を失った? あらわたしそう言いましたか? そうですそうです、この箱も、この場所に建てられたとき、むろん真ん中に柱を持っていました。なぜ失ったのか。いい質問です。失われたのではありません、奪われたのです。誰に? 後先を考えない、目の前のことしか考えられない、エゴにまみれた人間という生き物に。
 

「K192(2023)」より抜粋

実はここ数週間「月モカ」を更新できていなかったのには事情がございまして、わたくし、執筆をしていたのでございます。名目というか名実ともに昨年書いた「K192」を改稿しておったのですが、これを「K192」と呼ぶには違うものが出来上がった気がしますのでまあ仮に新作「東京OASSIS(2024)」としておきましょう。(わたしの私小説は基本的に全て「東京OASIS」のシリーズでございます。デビュー作の「蝶番」もそういう意味では「東京OASIS(2008)」でございます)

(詳しくはこちら↑)

それで「月モカ」を書くとなるとどうしても出来立てほやほやの小説から抜粋したくなるのであるがそうはいかない問題に直面したので、
冒頭はその改稿に入れられなかった「K192」の抜粋を一部据えました。
ここをまるっと引用しようかと思いましたが長くなりすぎるのでやめて、
今日は代わりにこちらを引用します。

このマダム・ララさんはわたしの分身のようなお方(むしろわたしと言っても言葉通り過言ではないということが読んでいただいたらわかります 笑)
ですので、皆様本日はこちらを「月モカ怪奇譚」というような感じでお楽しみください〜

先日、人生で二回目の相撲へ!

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中島 桃果子 / Mocako  Nakajima
長く絶版になっていたわたしのデビュー作「蝶番」と2012年の渾身作「誰かJuneを知らないか」がこの度、幻冬舎から電子出版されました!わたしの文章面白いなと思ってくれた方はぜひそちらを読んでいただけたら嬉しいの極みでございます!