【2022年8月号アーカイヴ】『#Tokyo発シガ行き➡︎』 「祝!宵巴里刊行号/はらぺこはぎのゆ」by 月イチがんこエッセイ
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DLしてそのままでも、プリントアウトしてでも。プリントアウトされる方は出力時に「レイアウト」を選択しa4に4ページくらいプリントできる設定にするのがオススメ。わたしはゲラ直しの時、そうしてます。
先月号に引き続き今回もこのままでも読めるように以下に抜粋を掲載しておきますね。
2022年8月2日本日刊行✨の中島桃果子の十年ぶり単行本「宵巴里」より、
第5話の抜粋です。楽しんでもらえたら♩
祝🥂✨「宵巴里/Yoipari」刊行号✨🖋✨
祝「宵巴里」刊行! パチパチパチ!!!
これが配布されている今頃、きっとこのエッセイが置かれているところではわたしの待望の新刊「宵巴里」が刊行の時を迎えているね!
(素敵なグッズなどもご用意ありますよ♩)
おめでとう! おめでとう、わたし! 笑
そんなわけで先月に続き「刊行スペシャル篇(その2)」です!
実は本エッセイは最初に書いたものをボツにして書き直しています。最初はこの宵巴里が刊行された経緯つまり「プライベート出版」にまつわる楽屋エッセイなんぞを書いてみようかと思ったんだけど、書き終わってから読み返して、先日長めの後書きが一刀両断に却下になったモカコは、これは編集の壷井さんが好きじゃないというか「わたしはもっと真っさらな状態で読者に『宵巴里』届けたいです」とおっしゃりそうかも(いやもはや絶対そう言う!)と考え、壷井さんに送るまでもなく自分でボツにしました。笑。さてはてじゃあ何を書こう? やっぱり刊行スペシャル篇(その2)と銘打つからには抜粋かな? でも先月号は冒頭だったからいいけど、途中の抜粋って読む側は嫌よね? そんなことを考えて「宵巴里」の中でもちょっと雰囲気の違う箸休め的な回〈賄いチーズケーキ/Vol.5 リリの場合〉を抜粋することにしました。この部分を読んだからと言って小説全貌には影響はなく、先月号と合わせて読んで頂いた場合にも相性がよいだろうというのが「リリの回」を選んだ理由です。
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Vol.5/リリの場合(より一部抜粋)
二〇二一年六月十九日(土)夜『はらぺこはぎのゆ』
おちゃのみず、からタクシーでかえってくるくらいにリリと碧ちゃんは腹ペコだったのに、Uberがとどけてきたハンバーガーのふくろにはハンバーガーがはいっていなかった。碧ちゃんとリリはいまほんとうにUberがきらい。
「なにこれ!? たったこれだけ?」
そういって碧ちゃんがやぶくように開けた紙袋にはコーラ二つと、たのんでもないナゲットしかはいっていなかった。
「えええええええ〜〜〜〜」
リリも碧ちゃんも、とってもガッガリ。だからウーバーってダメなのよ。
「なんでウーバーってダメってしってるの?」
碧ちゃんがきく。
「だっておうちでママとたのむときも、ウーバーは、よく、まちがうよ」
碧ちゃんはしばらくけいたいを触っておこりました。碧ちゃんはおみせの人にも運んだ人にも電話をかけたけど、そのりょうほうの人たちが「ぼくたちはわるくありませんしかんけいありません」といったんだって。
「そくざの返金で『問題は解決しましたか?』って……かいけつしてねえよ!」
でもリリ。とにかくハンバーガーは、もう来ないようだわ。
「リリと碧ちゃん、きょう、ツイテナイね」リリがそういうと碧ちゃんが「ツイテナイ、なんておとなみたいなこと言って」とわらってた。
「どうする? 碧ちゃんのおみせにいって栞ちゃんのナポリタンたべる? リリ、ナポリタンすきでしょ?」
リリはくびをふった。
ママ、ころな気にしてるし、お外でたべるのはマスクやらしょうどくやらいっぱいめんどうなことあってしんどい。
「リリ、ハンバーガーがいい」
碧ちゃんは、わかった、だけどねづにハンバーガーないから、だいきらいなウーバーでまたたのむことになるけど、といった。
「せめてみせはちがうとこにしようか」
ハンバーガーは三十分後にきたけど、おなかすきすぎて食べたくもないナゲットを食べてたらリリはもうあまりはいらなくなって、二口ほどでもういらない、ってなってしまった。
「リリ、きをとりなおして“はぎのゆ”いこう」
あたらしい碧ちゃんのおうちの近くには、大きなおふろがあるのだそうだ。
“はぎのゆ”はとってもとってもたのしかった。
はぎのゆ、にはおふろがたくさんあって、じゅんばんにそれに入るのが楽しかった。すごいパワーの泡がふきだすところがあって「やる?」といわれて首をふっていたけど、思いきってやってみたらたのしかった。
「きゃー!!」ふたりでおおきな声をだしてわらう。
いつもはママにリリがちゅういされるけど、今日はリリが碧ちゃんにひそひそ声でちゅういする。「しー!」(ころな、だからね)。
ぶくぶく風呂のとなりには、小さいあわのぬるいおふろがあって、これはうでとかあしに小さな泡がぷくぷくなってきもちわるかった「炭酸ぶろだよ」
リリ、碧ちゃんにいった。
「リリ、たんさん、あまりすきじゃない。のむのも、すきじゃない」
ということで、すぐにでて、露天ぶろ。
リリは小さいからふだんはすぐのぼせるけど、はぎのゆの露天ぶろは中がだんになっていて、リリがすわっても胸とか肩とかはおゆの上にでる。石でできたおふろのふんいきも、まるで「にんぎょのすまい」みたいでリリは気にいった。
「ここってよるの海みたいだよね」
碧ちゃんもそう思っているみたいで足を人魚のひれのようにちゃぷん、とやって、得意げ、に、リリのことをみました。
「ねえねえリリ、ひるまのおしばい、じつはどうおもった?」
碧ちゃんが(じつはね、わたしは、あのおしばい、こわくてすきじゃなかったんだ)とちいさな声でリリにいったので、「あれ、こわかったよね」とリリもこたえた。
そうか、だからあのとき碧ちゃんはずっとだまってたんだな。
「リリはどんなところがこわいとおもった?」
碧ちゃんがきくのでリリは「死体がずっとおへやにあって、白いかおのおばけみたいなひとがずっとうごきまわってたところかな」といった。
「あのとうじょうじんぶつたち、死体が部屋にあってどんどん腐っていっているのに、そのおうちでうたったりしょくじしたり、たのしそうにすごしていたでしょ、あのかんじも、すごくぶきみだったよね」
碧ちゃんは、あのげきじょうの感じがそれにすごいフィットしてたからよけい怖くて、はやくげきじょうをでたかったわ、といった。
あのげきじょうって、にんぎょう劇のためのげきじょうなんだよ。そこがまた怖かったわ。
フィット、のいみはわからないけど、まるで「こどものためのことば」でしかはなさない大人より、碧ちゃんのはなしのほうが好き。
「そういえば、げきじょうのちかくにマックドあったね」
リリがそういうと碧ちゃんは「マックド!」ってわらってから、またよるの海をちゃぷん、と鳴らして「あのときマクドに行っとけばよかったなあ!」とくやしがった。
「ほら、月がきれいです」
碧ちゃんがそういっておふろにゆらゆらうつるひかりをすくった。
ええとこれはでんきなんだけど、わたしと碧ちゃんには月の水です。
「わたし、月をつかまえました。だから空には月がないのです」
それからしばらく、わたしと碧ちゃんは月をつかまえつづけた。あした、碧ちゃんといっしょに「日本のにんぎょ」に会いにいく。
〈以上抜粋。続きは「宵巴里👁」本編へ続く!〉
いかがでしたでしょうか。笑。
刊行はいよいよ本日!この良き日に!!
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以上「小説家FBページフォロワーのための」びっくり(はしないかもしれないが著者からの)サプライズでした!(笑)
長く絶版になっていたわたしのデビュー作「蝶番」と2012年の渾身作「誰かJuneを知らないか」がこの度、幻冬舎から電子出版されました!わたしの文章面白いなと思ってくれた方はぜひそちらを読んでいただけたら嬉しいの極みでございます!