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わかってるね、戸根くん -コールセンターの人々#1

管理チームに綺麗な男の子がいる。
戸根くんという。
彼は色白で長身、骨格はしっかりしている。顔立ちは薄く、耳にかかる長さの茶髪であるから肩幅は広いが、どちらかというとかっこいいというよりは綺麗な感じ。物腰も柔らかく、仕事をバリバリこなすイメージはないが好青年だ。
まだ見たことないから分からないが、マスクの下はたぶん整っている。
私は静かめのイケメンが好物であるのでマスクの下見てぇ〜と下心を抱きつつ、何食わぬ顔で彼のディスクを通り過ぎる。
ほかのオペレータ達もきっと彼を好青年またはイケメンと思っているには違いない。


ある日の午後。
電話ラッシュが去り、みんながふぅーっと一息ついたところだった。

戸根くんがススっとベテランオペレータ北田さんの席に寄ってきた。

(私はたまたまその隣の席に座っていた。)
戸根くんは目線を合わせるために、しゃがみ込んでお話をする。そんなところも好印象である。私は着信を待ちつつ、意識を隣のディスクに向ける。

「北田さん。今お手すきですか?お願いがあるんですが、いいですか? 
この人に日程の案内をしてほしいんですよね」


なにやら、現時点で1番めんどくさそうな案件を頼んでいる様子。北田さんもあぁ、この人ね…、はい、わかりました…と。
気が乗らないのもわかる。

すみません、お願いできますか?
これ、北田さんにしか頼めないんです


ああ、これは決まった、完全に決まった。

予想通り、威力は凄まじかったようで、
「んまぁー!わかりました、頑張ってみますね」と北田さんは快諾。


完全K.O. 
「まぁ〜」ではない、『んまぁ〜!』だもの。
横目で見てた私にも、最後の一言を放った戸根くんの瞳がウルウルしてるように見えたぐらいだ。間近で食らった北田さんに断るという選択肢はない。
戸根くん意外とやる奴だ、自分の価値をわかってる、有能だ。罪な男め。(スキだ。)

狙ったのか、はたまた天然なのか
どちらにしても末恐ろしい。

無事、めんどくさそうな案件は解決し、平穏な時間がもどった。

彼をみる度、このこの〜罪な男めと関心しつつ早くマスクの下見てぇーと下心も抱き、無表情で横切る。

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