巨匠も使う、魅力的な建築デザイン手法
「感動を生む五感を刺激する体験」の記事では、私が過去に訪れた空間の紹介をさせて頂きました。実は、そこから抽出できる下記A~Fの要素を使うことが、建築を魅力的にするデザイン手法といっても過言ではありません。
① 魅力的な空間に共通するデザイン要素
下に<1>~<5>の5種類の魅力的な空間事例を並べています。これらの写真から魅力の素(もと)となる要素を抽出したものが、下記A~Fです。写真をひとつひとつ見ていきましょう。
A 曲線美(アーチ・ドーム・自然造形)に人は惹かれる
B 水平垂直以外のカタチは、身体感覚を刺激する
C 圧倒的なスケール感、スケール感のメリハリに感動する
D 反復(リピート)による量感に感動する
E 全体として統一されていることに惹かれる
F 奥行き感(レイヤー・重層)を感じられるものに惹かれる
<1> ヨーロッパ諸国の教会
<2> トルコのカッパドキアの洞窟と岩肌
<3> ローマのパンテオン
<4> 京都 圓通寺の借景
<5> フィレンツェの屋根
A 曲線美(アーチ・ドーム・自然造形)に人は惹かれる
B 水平垂直以外のカタチは、身体感覚を刺激する
C 圧倒的なスケール感、スケール感のメリハリに感動する
D 反復(リピート)による量感に感動する
E 全体として統一されていることに惹かれる
F 奥行き感(レイヤー・重層)を感じられるものに惹かれる
どうでしょうか?言われてみれば、A~Fが、魅力が発する原因というような気がする、と思っていただけるでしょうか。
② 多摩美術大学の図書館で魅力的な要素を検証
これらの魅力A~Fを、現代建築に落とし込んだ最も良い例が、伊東豊雄さんの多摩美術大学の図書館です。
多摩美術大学の図書館 designed by 伊藤豊雄
さっそく、こちらの事例をもとに、A~Fについて分析してみましょう。
A 曲線美(アーチ・ドーム・自然造形)に人は惹かれる
→アーチ壁のみで建物全体を構成している
B 水平垂直以外のカタチは、身体感覚を刺激する
→実は、1階エントランスの広い範囲が勾配のついた床になっており、身体感覚を刺激する仕掛けが組み込まれています。
C 圧倒的なスケール感、スケール感のメリハリに感動する
→ひとつのひとつのアーチがとても大きく、アーチが交わる柱の部分が林立して、林の中にいるような感覚になります。
D 反復(リピート)による量感に感動する
→アーチ壁のみで建物全体を構成しており、ただひとつひとつのアーチはサイズがそれぞれ違っていたり、「同じ要素の中にも違い」があることが、シンプルで単調になるのではなく、統一感があって、複雑にも感じる森のようです。
E 多くが統一されていることに惹かれる
→こちらも、アーチ壁のみで構成していることで生まれた魅力です。
F 奥行き感(レイヤー・重層)を感じられるものに惹かれる
→アーチ壁で緩やかにゾーンが分かれており、それが奥に連続しています。一歩入って終わりではなく、向こうの先まで行きたくなるような気持ちを誘発されます。
どうでしょうか、こうやって考えてみると、実は「現代建築は、魅力をそそる要素を忠実に表現しているだけ」とも言えますし、逆に、「外観も内部も同じ要素でひとつにまとめて建築をつくること」は、用途やプログラムの調整・整合を考えると、実際にはとてつもなく難しいことなのですが、それを実現しているのが、さすが巨匠の建築家、ですね。
③ 隈研吾さんの建築事例で魅力的な要素を検証
他の事例でも、隈研吾さんの太宰府にあるスターバックスを見てみましょう。
こちらの事例では、内装デザインにおいて、D「棒状の木材だけを組み合わせてリピート」、E「その要素だけで全体をつくる」、F「組み合わせパターン自体を立体的にして奥行き感を与える」、B「水平垂直以外の斜めの要素をパターンに組み込む」と、この事例にも4つの要素を見つけることができました。
上の浅草文化観光センターでも、D「ルーバー付の家型状のカタチのみを積層させてリピートする量感」、E「その要素だけで全体をつくる」、C「家型が何層にも重なっているという圧倒的なスケール感」、B「屋内空間では、屋根がナナメの要素となって空間に躍動感が出ている」というように、この事例でも多くの要素を見つけることができました。
魅力的な建築や空間を見ながら「魅力につながる要素は何かを常に考えて分析する」と、自然と「共通するもの」が見えてきます。ちなみに、それがわかっても、現実に反映するのがまた一段とハードルがあるのですが、継続した蓄積がいつか花開く、その日のために日々の積み重ねが重要です!
mocA における 実践・事例
mocAでは、巨匠たちほどの表現力には及ばないながらも、A~Fの要素を積極的に取り入れながら、魅力的なデザイン提案となるよう日々尽力しております。
私が、中でも好きな手法はD(反復)とE(統一)です。フィレンツェの街並みを高台から眺めた時の感動が今も忘れられません。
ひとつひとつの屋根の形は微妙に違うけれど、全体としては統一感があって、似たようなものが反復しているから、全体的にスケール感の大きな一つの塊のように見えることが、美しいと思わせる要素なんだなと思いました。
森とか林が美しく見えたりするのは、木々1本では物足りなくても、似たようなものが多くあつまると、ひとつの塊として美しさを増していく、そんなものにも似ていると思います。
そんなこんなで、mocAの設計事例でも取り入れている点をご紹介します。
事例:清住白河のファサードで反映した要素
C スケール感のメリハリ(大小のフレームを散らばせる)
D 反復(リピート)による量感を出す
E 店舗・オフィス・住宅の複合用途でも、ひとつの要素で統一
事例:豪徳寺のファサードで反映した要素
A アーチによる曲線美を強調
C 大小のアーチを組み合わせて、スケール感にメリハリを
D アーチの反復(リピート)による量感づくり
E アーチでファサード全体を統一
F アーチのダブルスキンによる奥行き感の演出
事例:個人住宅インテリア
C 扉サイズ・天井高を大きく、スケール感にメリハリを
D 様々な種類の木素材の反復(リピート)による量感づくり
E 木とタイル素材で全体を統一
F ルーバーによる緩やかな仕切りで奥行き感の演出
mocAでは、魅力的な要素A~Fの他にも、「京都から学んだ記憶をつながる街づくり」にて、建築の魅力・深みを増す方法について記事にさせていただいておりますので、こちらも是非ご一読いただけると嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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