言語を習得するということ

フランスに越してきて半年が過ぎた。

日本にいる頃は全然身が入らなかったフランス語の勉強も、やっぱりいざこっちに来たら早く話せるようになりたい気持ちがどんどん湧いてきて、がっつりフランス語に浸る日々。

まだまだ長い道のりだけど、振り返ってみるとかなり上達したと思う。最初の3ヶ月は語学学校に通って、その後の3ヶ月はオンラインB2レベルのクラスを受けている。半年フランス語にひたって生活したら、英語を習得した時の感覚と重なる部分が多くて、それをどううまく表現できるか色々考えていたので、今日はそんなことを書いてみようと思う!

英語を習得したのは、高校生の時。日本の中学校を卒業後、単身で海外へ渡り、3年間現地の学校に通いながらホストファミリーと暮らした。学校で毎週勉強していた英語はいざ現地へ行くとなんの役にも立たなかったが、1年もすればまあまあ喋れるようになり、2年が経つ頃には現地のアクセントでペラペラ喋れるようになった。言語を「学習」することと「習得」することの違いを実感した。

自国にいながら多言語を学ぶということは、自力で森を作り上げる作業に例えられると思う。自分が作りたい森に生えている木々を調べて、土を耕して、種を蒔いて、陽に当ててジョウロで水撒きを繰り返してようやく芽が出ても、それを枯らさないように定期的にお世話を続ける必要がある。

完全に「自発的」にその言語にアクセスしなければいけないという点だけでかなりの労力を要するのは明らかで、参考本なり、レッスンなり、インプットにはお金も必要になる。そして、何より一番難しいのが、それを「定期的」かつ「長期的」に続けるモチベーションを保たなければいけないことだ。

一方、ターゲット言語が話されている土地に暮らすということは、自然環境に自分の森を育てていくイメージだ。ただ「そこにいるだけで」たんぽぽの綿毛も飛んでくれば、陽も降り注ぐし、自然に雨も降る。もし同郷の友達に囲まれて現地語をあえて勉強せずに暮らしていたとしても、食料は調達しなきゃいけないし、移動に公共交通機関も使うだろう。それこそ周りがネイティブだけでサバイバルモードで暮らしていれば、かなりのスピードで緑が広がっていく。

日本に引っ越してきた外国人の同僚が最初に覚えた言葉は、「袋いらないです」だった。職場では英語のみ、周りの友達もみんなバイリンガルだった彼女だが、コンビニに行くたび聞かれる「袋入りますか?」をいつしか耳で覚え、それがどういう意味なのかを理解し、何て答えれば良いのかを友達に聞き、実際に繰り返し使うことで定着したのだろう。日本語はさっぱりな彼女だったが、気怠そうにコンビニで買い物をする姿はまるで日本人だった(笑)

これこそが私が思う「現地での言語習得」の根幹である。いろんなシチュエーションでいろんな言葉を浴びて、パン屋さんの匂いとか、通じなかったジョークとか、毎朝電車でみる広告とか、そういう生身の感覚に紐づいてどんどん記憶に染み込んでいくのだと思う。

単語帳に書いてある言葉をひたすら覚えようと思ってもそう簡単じゃないのは、思い出そうとする時にどんな経験にも紐づいてないからなかなか手繰り寄せることができないんじゃないかな。

私調べによると、現地で生活しながらの言語習得プロセスには、4つ段階が存在する。

  1. その言語がよくわからない音の塊にしか聞こえない。(1~3ヶ月)

  2. 周りが言ってることが少しわかるようになる。が、イエス、ノー、メイビー、など、超基本的かつ単語での返しかできない。(3~6ヶ月)

  3. 周りが言ってることがよくわかるようになる。自分が伝えたいことは伝わるが、ニュアンスをつけたり、表現を加えることができない。(6~12ヶ月)

  4. 少しずつ自分が言いたいことを言いたいように言えるようになる。(1年~)

最初は、本当にでっかい音の塊にしか聞こえなくて、「うわー、絶対無理だ。絶対わかるようになる気がしない。ましてや喋れるようになんて慣れない。」と絶望する。

だけど、やっぱ耳って慣れるもので、文の切れ目というか、リズムというか、構造がわかってくる。

「ーーーーーーーーーーーーー」←この音の塊が
「ーー、ーーでーーから、ーーして」←こう聞こえるようになる

それで、段々自分の中のボキャブラリーが増えてくると全部はわからなくても、7割くらいわかるようになる。
「これ、ーーからーーで熱いから、気をつけて」←こんな感じ。

そのくらいわかると、残りの3割くらいは視覚情報やコンテキストから推測できる場合がほとんどなので、想像力で補えるようになる。
(あー、オーブンから出したばっかりで熱いから気をつけてって言ってるのね!)「OK、わかった、ありがとう!」てな具合に。

全部解らなくて良いのだ。なんとなくわかって会話を繋げられることの方が大事なのだ。

3あたりまでくるとインプットとして使えるリソースもかなり増えるので、「対象言語を学ぶ」からステップアップして、その言語「で」何かを学んだり楽しんだりすることができるようになる。たとえば私は、Launra in the Kitchenという料理系Youtuberチャンネルが大好きで、毎日楽しみながらインプットを増やすことができた。

ちなみに4に達してからは、半永久的に学びが続く。細かいニュアンスや慣用句、アカデミックな表現やスラング、有名な映画のリファレンスやsarcasmなどの文化的要素は、時間をかけて少しずつ使えるようになっていく。

私のフランス語は今ステップ3まで達したと思う。英語を学んだ時とは年齢も環境も違うから(サバイバルモードじゃない)かなり時間がかかるんじゃないかと思ったけど、通った道もかかった時間も感覚的にはすごく似ていた。


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