日本におけるMMTへの誤解②
前回の続き。
雇用保障プログラムについて
つまり、MMTにおける自動安定化装置のお話。ビルトインスタビライザーとも言いますね。
自分はMMTについては、ランダル・レイ(ランドール・レイ)の入門書とシェイブテイルの解説書、あとはブログだったり、レヴィ研究所の論文をいくつか翻訳して読んだ程度の知識しかないんだけど、
MMTの最も重要な主張というか、根幹の部分って、貨幣論や金融オペレーションに関することではなく。
自動安定化装置に関することだと思うわけです。
というのも、この自動安定化装置なくして、MMTの理論、ないし目指すべき社会は成立しないと思うわけ。
ネット上でよく税収は財源ではない。いや、何言ってんだ、財源は税収に決まってんだろ、というやりとりをよく見かけるんだけど、スペンディングファースト(政府支出が先)だろうが、そうでなかろうが、現実の詳細なオペレーションがどうだろうが、なんにしろ、政府が自ら立案した予算を金銭的事情によって執行できなかったことはないってことは、単なる事実でしかないわけで。
その一方で、スペンディングファーストだろうが、そうでなかろうが、結果として歳入が歳出を下回れば、政府セクターの赤字を拡大することに違いはないじゃん、とも思う。
とはいっても、財源は税収派の人達のように、政府から、特に具体的にはなんの返済計画も示されていない政府セクターの負債を将来に渡って、(なんなら自分たちではなく、将来世代の)租税によって、返さなければならないと盲目的に信じ込んでいることは確かに厄介な問題だとも思う。(一体、いくら返すつもりなんだろう。)
(レイやMMTにとって、貨幣論や金融オペレーションの記述に関しては重要なのだろうけど、実益としては、税は財源かどうか?という、しなくもいい議論をしなくてよくなる程度のことだと思う。まあ、ここをブレイクスルーして、この先に進むのが一番難しい気もするが、、、)
金銭的制約をクリアしたところで、実際に政府支出を増やしていくとなる(MMTでは政府が直接雇用することでの完全雇用の実現)と、当然、実経済や為替、金利などなどに影響を及ぼす可能性はあるわけで、これをどうするかっていう問いへのアンサーが、自動安定化装置ってわけ。(完全雇用がそのまま自動安定化装置にもなるというね)
なので、レイからすれば、極端な話、デフレだろうが、インフレだろうが、どっちでもいいよってことなんだと思います。だって、自動安定化装置を実現することによって、物価は安定するし、景気も安定するんだから。(つまり、デフレもインフレもない世界)
何より、失業を無くせる。(それにデフレだろうが、インフレだろうが、1%の富裕層が富を増やし続ける状況に変わりはないし。そもそも、レイは経済成長を目標としていない。)
というのも、読んだ人ならわかると思いますが、レイの入門書を読む限り、インフレに関する言及が本当に少ないんです。
"軽度のインフレは一般的に良いとされているし、実際、多分良いのだろう。"
"40%を超えるインフレが経済に悪影響を及ぼした事実はない"←ほんとかよ(笑)
くらいです。見落としているだけかもしれないけど。
実はつい最近のレイの論文で、日本に関することが書いてあって、日本の長期停滞と財政赤字の原因は、緊縮財政と消費税による税収の減少と分析しているんですが、(この論文については、また別の機会に書きます。)
つまり、97年の消費増税によって始まった景気後退に合わせて、緊縮財政、つまり政府支出を減額したことが原因と言っています。
でも、だからといって、積極財政になれということではないんです。(なったらダメというわけでもない。)
景気が変動するたびに、それに合わせて政府はいちいち政府支出を増減させるな、それは経済に混乱しかもたらさないというのがレイの主張です。
つまり、レイのなかでは、例え、インフレになったとしても政府は支出を減らしてはいけないんです。逆にデフレになったからといって、政府支出をふやしてはいけない。裁量的な部分に関しては。非裁量的な部分(社会保障とかね)は別です。てか、非裁量的な部分はしゃあないもんな。(レイがこう考えるのも、もちろん、理由はある。)
なぜなら、政府の予期せぬ行動が国民経済に混乱をもたらすからです。多分。ここでは書きませんが。(ハイエクっぽいな)
で、MMTの世界でそんなことが可能なのも、雇用保障プログラム(JPG)という、強力な自動安定化装置が機能するからなんですね。(だからといって、景気変動がないわけではないし、不況になるリスクがないわけではない)
そして、日本の積極財政派(ベースにMMT理論があると思われる)の人たちって、この自動安定化装置に関することが完全に抜け落ちていると思うわけです。
というわけで、今回はここまで。
結局、今回は触れることができなかったですが、次回こそは雇用保障プログラムについて、レイの入門書に基づいて、簡単に解説していきたいと思います。
参考文献
Has Japan Been Following Modern Money Theory Without Recognizing It?
エヴァ・ネルシシヤン ランダル・レイ
MMT入門
ランダル・レイ 訳 島倉原 鈴木正徳 解説 松尾匡・中野剛志
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