日本におけるMMTへの誤解③
というわけで、今回こそ雇用保障プログラムについて書いていきます。
オリジナルMMTの掲げる唯一の政策でもあり、MMTにとっての自動安定化装置、雇用保障プログラムとは何か?
それはズバリ言うと、
”政府が失業者全員を最低賃金で雇う”
です。
えっ!?
思ってたのと違う?
勘の良い人は分かったかも知れません。
そうです。
MMTは好景気、好循環を生み出すための理論ではありません。
貧困・格差対策なんです。
MMTが政府が金銭的制約によって、支出ができないなんてことはないんだと説くのは、このセーフティネットを作り上げ、維持するためなんです。
だから、日本のMMTを基盤にする積極財政派の人達の給付金とか粗利保証ってのは、景気刺激目的ではなく、セーフティネット政策なので、MMTっぽいし、ベクトルも同じな気がする。
(ちなみにレイ自身はベーシックインカムには反対)
(でもまあ、皮肉でもなんでもなく、日本の積極財政派の人たちがこの自動安定化装置について、議論しないのも無理はないかな。
現実、日本はアメリカより社会保障が充実してるだろうし、格差もアメリカのように極端に酷くないだろうから。
それに、MMTの金融オペレーションや貨幣論、SFCとかに関するところって、目から鱗だったり、魔法の杖を手に入れたような高揚感を味わえるから、財政や経済への考えをシフトさせたり、議論を活気づけるにはうってつけだし。
あらぬ方向に理解してしてしまう人もいるだろうけど、、、
それに比べると、、、この就業保証プログラムは地味だし、イマイチ分かりにくい。
でも、これこそが、MMTのイデオロギーなんです。でないと、左派急進派のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスが支持を表明するわけない。)
レイの入門書 第8章の1節 "機能的財政と完全雇用"の中で、こう説明されています。
『就業保障プログラムは、働く用意と意欲がある適格な個人なら、誰でも職に就けるように政府が約束するプログラムである。
中央政府は、統一された時給を福利厚生と共に提供する共通プログラムに対して資金を拠出する。
このプログラムは、パートタイム労働や季節労働のみならず、要望に応した柔軟な労働条件を提供可能である。
福利厚生を提供するには議会の承認が必要だが、医療、育児、老齢年金などの社会保障、通常の休暇・病気休暇を含めることができる。
最低賃金が法律で定められるのと同様に、プログラムの賃金は政府によって設定され、政府が引き上げを承認するまでは固定される。
福利厚生には、貧困削減、長期失業に関連する多くの社会的病理(健康問題、配偶者虐待と家族崩壊、薬物乱用、犯罪)の改善、オン・ザ・ジョブ・トレーニングによる技能強化も含まれる。』
つまり、公務員とまではいかなくても、働きたいならば、※1すぐに仕事を用意しますよ。
福利厚生もちゃんとつけて、なおかつ、政府が定めた最低賃金(政府に保障されている)で政府が直接雇用するってことです。
時間とかも融通ききますよ。職業訓練もしますよ。
レイは就業保障プログラムだけで、本一冊を容易に書くことができるということで、この入門書での説明だけでは、正直、わからないことが多いが、それでもかなり丁寧に説明してくれている。さすがに、このノートにはほんのちょっとしか書けないけど。
※1(多分、この部分が最も重要で、最も議論や異論、批判を呼ぶ部分だと思う。今回はここには触れないけど、つまり、完全雇用をセーフティネットとして機能させようとなると、常に政府セクターに雇用、求人があるっていう状態を維持しなければならない。アメリカの失業者の数は好況時800万人〜不況時1200万人で、400万人ほどの振れ幅がある。しかも、これについてもどんぶり勘定だと、レイ自身も認めている。恐慌時は3倍になったりするし。)
それと、なぜ自動安定化装置として機能するかというと、
まず、政府が基礎賃金を決めて、直接雇うことによって、賃金の『土台』ができる。
民間セクターはこの政府の条件よりも、良い条件でなければ、雇うことができないから、民間部門の労働条件は改善されるだろう。
政府雇用の条件を上回れば、政府セクターから労働者を引き抜くこともできる。
つまり、不況になれば、政府雇用が増え、好況になれば、政府雇用が減る。
これが就業保障プログラムが、自動安定化装置であるという理由のひとつなんですね。
そして、この8章ではそれまでの説明的なものから、打って変わって、レイ自身のイデオロギーが見えてくる。
一般的なマクロ経済学の教科書(マンキューとかね)において、インフレと失業はトレードオフ(どちらかしか選べない)だと説明される。しかも、かなり最初の方に。
つまり、多くの経済学者からは貨幣価値を安定させるには、むしろ、ある程度の失業は必要だと考えられている。
レイは、これに納得いかないらしい。
理由はシンプルで、倫理観の問題である。
為替レートや貨幣価値を安定させるためには、ある程度の失業者は必要なる主張など到底受け入れられないのだ。(そりゃ、そうだ。失業者は失業の絶望から死を選ぶかもしれないし、失業者の家族は生活していくことすら苦しい状況に追い込まれかねない、路頭に迷うことになるかもしれない。そして充分に、その可能性はあり得る。しかも、それは失業が存在し続ける限り、現在進行形なのだから。)
あとなぜ、財政出動ではないのか?(ダメとはいってない)
レイに言わせると、そこにはタイムラグとシステムの問題がある。(民間セクターとの資源のバランスもね)
不況になりましたと、こりゃあ、まずいってことで議会で話し合って、政府支出を増やして、公共事業を増やそうとなったはいいけど、
1.不況が発生してから、実際に事業を行い、賃金が労働者に渡るまでに必ず、タイムラグがありますよね。(もしかしたら、数年ってことも)
2.システム上、資本家の取り分は労働者より多いですよね。
3.景気変動に合わせて、いきなり、政府が公共事業やるとなったら、民間との物的資源、人的資源の取り合いになりかねないですよね。(お金は無限だけど、資源は有限というのがレイの考え、そりゃそうだ)
だから、自動安定化装置なんです。タイムラグが小さいから。(インフレにもならないし)
ちなみにこのシステムの問題は、税制についても同じで、
レイの考えでは、高所得者からよりたくさんの税をとることは難しい、なぜならば、彼ら(つまり、富める1%の者たち)は税制や税率を自分たちの有利な方に調整することができる立場であるから。(少なくとも貧者よりは)
(もはや、資本主義は市場の意思決定によって運営されているのではなく、権力者によって運営されている。)
だから、再分配よりは事前分配のほうがいいんだよ。(日本の左派政治家に聞かせてやりたい)
それに、財源は税金というレトリックは、言い換えれば、高所得者や大企業から、税金を多く巻き上げなければ、貧困層に富を分配できないと思わせてしまっている。
これは問題だろうというわけです。
まあ、つまり、今のところ、富裕層からはどうやったってとれないだろってことです。
とれてたら、とっくにとってるっつーの。
なので、わざわざ、そんな難しい道(というか不可能に近い)を選ぶ必要はない。
だって、政府はいくらでも支出できるんだから。(為替や景気に影響を与えないとは言わないけど)
最後に、『ハイマン・ミンスキーが1960年代に主張したように、貧困を減らしたければ、「貧困との闘い」の中心的要素に雇用創出を含めなければならない。ミンスキーは、ケネディとジョンソン政権期の「貧困との闘い」には、このようなプログラムが含まれていないので失敗するだろうと予測した。
さらに彼は、ひとたび職を求めるすべての人に仕事を与えたならば、所得の分配を徐々に底辺の人々に移さなければならないと主張した。それは、徐々に底辺の人々の賃金を増やす一方で、上位にいる人々の所得増加を抑えることによってなされる。
もちろん、我々はどちらもやらなかった。過去半世紀にわたり、実質最低賃金は急激に低下してきた。失業も増加してきた。多くの研究が立証してきているように、労働生産性の上昇傾向が続いてきたにもかかわらず、実質賃金の中央値は1970年代初め以来停滞してきた。その差はだれが手にしたのだろうか?金持ちと権力者である。』
と、かなり端折ってますけど、こんな感じです。
あんまり書いてもあれなんで、続きが気になる方は、ランダル・レイのMMT入門を買って、読んであげてください。
続きます。
できたら、今年2月に発表された、レイらによる論文
Has Japan Been Following Modern Money Theory Without Recognizing It?”日本はMMTのアドバイスに従っている?”の中での、レイ達による日本の長期停滞についての分析と提言を紹介していけたらと思います。
参考文献
ランダル•レイ MMT入門 訳 島原 鈴木正徳 解説 松尾匡 中野剛志
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