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巻頭特集【MOOV,discussion】「時には大胆な決断も。」競争が激しい中で、付加価値の高いニッチ市場を獲得するために、時代のニーズを探りながら、商品開発のヒントやアイデアを見つける。
※この記事は、2013年9月30日発行に発行された内容です。
他のやらないことをやる。それは中小企業が発展的に生き残るための王道。ニッチ市場を開拓し、光を放ち続ける企業の高付加価値戦略とは?
施設の電気室に欠かせない変圧器のケースを一手に受注する株式会社東和製作所常務取締役の曽賀 敬二氏と、自動車排気系部材ワイヤーメッシュ製造が事業の7割を占める株式会社ベスト代表取締役の野田 康洋氏にお越しいただき、大阪産業経済リサーチセンター越村 惣次郎をファシリテーターに「ニッチ市場開拓の現状と今後のヒント」を語っていただいた。
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その関連部品であるワイヤーメッシュ 作りに特化することで、
ニッチな企業活動を極めようとする株式会社ベスト。
今号の巻頭特集「ニッチ戦略」をめぐって、株式会社東和製作所の曽賀取締役と共に、
濃い内容の鼎談を展開くださった野田社長を中心に
大阪市の本社前に並ぶ 株式会社ベスト従業員の皆さん。
■ニッチヘの扉を開いた本業の深掘り、特殊製品受注。
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(越村)
ここ数年、中小企業を取り巻く環境が厳しくなり、アジアの新興勢力の参入できないニッチ市場をめざす会社は多いと思いますが、ニッチ市場は狭く小さいため、見つけることが難しく、参入障壁も高いと言われています。
現在の事業内容とあわせ、どういったキッカケで市場に参入されたのかをお話しください。
(野田)
弊社はガスケットをはじめとした自動車および自動二輪車用の排気系関連部品を主体とした生産・販売を行ってきました。
それ自体が隙間系のビジネスなのですが、十数年前にガスケットの素材の一つであったワイヤーメッシュの内製化に取り組みました。
その後用途に合わせた多様なワイヤーメッシュの開発を進めるなかで、関連のオファーが増えていき、これが新たなニッチ市場への参入のきっかけにもなっています。
(越村)
例えば、どのようなニッチ市場でシェアをお持ちですか?
(野田)
正確なシェアはわからないですが、自動車の遮熱カバー用のワイヤーメッシュ部分は、国内外で年間500万台相当分を納品しています。
(曽賀)
農機具部品の生産から出発した弊社は、平成に入って関西電力の仕事をするようになったことがきっかけで変圧器のケースを作り始め、今ではそれが主力製品になっています。
平成6年以降にできた施設の電気室に入っている変圧器にはすべてうちの製品が入っています。
(越村)
創業当時の事業内容からの流れの中でニッチ市場に参入された訳ですね。
(曽賀)
関西電力向けの変圧器を作っている会社の下にはうちのような会社が700社ぐらいあって、それぞれ部品を作っています。
今の製品については、他に作っているところがないので、結果的にニッチな製品を作っているということになります。
変圧器ケースは年間通して3千台~4千台出荷ベースで、累計6万~7万台ぐらい納入しています。
■生産システムヘのイノベーション体質に勝機。
(越村)
ニッチ市場は参入障壁が高いといいますが、それでも他社はあの手この手で参入を狙ってきます。
それに対してシェアを維持し続け、伸ばしていくための差別化戦略とはどのようなものでしょうか?
(曽賀)
弊社がここまで来れたのは不良品が少なかったというのが大きいと思います。
先代の社長が違う分野からこの業界に入ったので、素人でもきっちり仕事ができるようにと、20年ほど前に溶接用ロボットの設備投資をしました。
そのため品質が安定し、ひずみやピンホールがない高品質の製品を作ることができました。
大きな設備投資や、技術のイノベーション体質は追随されることが少なかったので、それが大きかったですね。
(越村)
その当時にロボット・レ_ザ_溶接とは大胆な決断ですね。
設備費も相当かかったのでは?
(曽賀)
当時家が3軒ぐらい建つと言われていました(笑)
しかし、設備が整っていたおかげ、関電の仕事を続けていくことができましたし、ものづくりの厳しい規約を守って信頼関係を築くことができました。
(野田)
私の業界では同じようなワイヤーメッシュを作っている会社が既にあり後発だったので、品質は良くて当たり前と思われていで価格競争力を高めないと採用してもらえないという苦労がありました。
だから競争に勝つためオリジナルの製造設備を内製化して加工工程を工夫することに注力しております。
低価格を保ちながら、安定した部品を供給し続けることをいつも考えています。
そのため緩衝、軸受、浄化、制振などのユーザーの用途に適したワイヤーメッシュ部品を生産するため、金属の細さや素材、編み方など機械メーカーも巻き込んで開発に取り組んでいます。
(越村)
確か本社工場には技術部隊が常駐していますね。
(野田)
そのとおりです。
本社工場は試作開発、営業窓口を担当していますが、試作用の編機やプレス機があり、いろんなワイヤーメッシュ製品の開発に取り組んでいます。
一方、熊本工場では多品種短納期生産、中国の子会社では手間のかかる大量受注品と棲み分けることで、多様な生産に低コストで対応できる体制も強みの一つです。
ものづくりは進化していっていますので、どうしたら良いものを安く作れるかを研究し考え抜いて作り上げていくことが大切。
自社にしか出せないクオリティを実現することによって、他社との差別化が図れるのだと思います。
■経営者がリードする柔軟なアイデア発想。
(越村)
ものづくりのアイデアはどのように創られていくんでしょうか?
(野田)
技術開発は技術部が中心にはなりますが、できるだけ垣根を低くして、社内全体でアイデアが出せるようにしています。
同時に、多様なマーケットの声を探ることです。
価格競争が年々厳しくなりますが数年前からは、価格だけじゃなく、本当にうちの製品の価値を分かってくれるお客さんを探すようになりました。
そのために、展示会に出展してワイヤーメッシュをたくさんの人に見てもらう、触れてもらう、違う業種の方に見ていただく機会を増やしていきました。
商工会議所のセミナー後の懇親会の片隅に商品を展示させてもらったり、分からないなりにいろんなことにチャレンジしてみました。
(越村)
ワイヤーメッシュはいろんな形状に変形できることが特徴ですから、見る人によって違う発想が期待できそうですね。
(野田)
そうなんです。
ワイヤーメッシュは造形物として見てもキレイなので、「これでアクセサリーを作りたい」といった声もい
ただきました。
(曽賀)
今の主力である電気や建設の分野は国内のマーケットがいずれ縮小していくものと推測されていますが、農業や医療、エネルギーなどの分野は、今後、日本の姿が変わっても必要とされるといわれておりますので、これらの分野の研究を少しずつ進めています。
(越村)
具体的にはどんな取り組みをしていますか?
(曽賀)
3年ほど前からコンサルタントの方が主宰している医療介護分野の研究会に入れていただき、製品開発をスタートしました。
研究会では介護の現場で起こっている生の課題をヒントに新しい製品を企画しています。
例えば、格闘技の技の原理を取リ入れるなど、自社だけではとても思いつかない柔軟な発想も出ていてとても参考になっています。
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関西電力の電力供給を支 えている、東和製作所の製品群。
堅実なものづくりで 信頼と実績を重ねている。
■現状に甘んじることなく、さらなるチャレンジは続く。
(越村)
今後の課題、抱負についてお聞かせください。
(野田)
オリジナル製品を開発できるようになリたいですね。
今は自動車メーカーの一次下請けに製品を納めるということをやっていますが、依頼がなければ受注がないわけですから、自社で能動的に売り上げが立つような製品の研究開発がしたいです。
そのために自分たちができることをどれだけ探せるかということも必要になってきますね。
また、新しい製品をどう世の中に出していくのか、発信の仕方も考えていかないといけないですね。
(曽賀)
私の方は医療や介護の延長で、社員、お客様、地域の方が健康で元気でいられるために、健康の支援ができるようなこともしていきたいと思っています。
(野田)
現在、アメリカのコンサルティング会社と組んで、インドで販売拠点をスタートしたところなんですが、来年マレーシアで合弁会社を立ち上げようと考えています。
自分のところが持っている技術を必要としているところはあると思うので、実際に行ってみてアクションを起こさなければと思っています。
我々が今までやってきたものづくりを必要としているところが必ずある。
国内ではニッチ市場をさらに極めて新しい需要を掘り出していくことと軸足は自動車業界ですので、次に出てくるものに対して対応できるように技を磨いていく。
国内ではハイエンドな製品を海外では国内で磨いた技術を広く展開していくという2本立てで動いていきます。
2年後、3年後どうなっているか分かりませんが想いがあればなんとか形にはなるのではないかと思います。
(越村)
今日のお話を聞いで重要なことは新しい技術の開発だけでなく、今ある技術で価値を見出せる市場にめぐりあうこと。
そのためには社長が先頭になって前に出てチャレンジし、進んでいくことが必要だと感じました。
本日はありがとうこざいました。
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■企業情報
株式会社ベスト(大阪市鶴見区今津中5-1-35)
ガスケットをはじめとした自動車、自動二輪車の排気系関連部品を製造・販売。
中国に子会社を設立し、品質、価格両面で幅広いニーズに対応している。
株式会社東和製作所(豊中市利倉2-12-27)
高度な設備力を生かした丁寧なものづくりで、電力会社の設備部品製造で事業の軸を形成。
生活者のニーズに照準を合わせた次なる事業展開にチャレンジしている。
■MOOV,press vol.07 記事一覧
■編集後記
今号で取材した市民工房ファブラボ(FABLAB)は、ものづくりの楽しさを生活者の手に取り戻そうとする世界
規模のムーブメント。
プロセスと情報を共有することで、私たちは欲しいモノを手に入れるだけでなく、モノの目利きになることができる。
ライフスタイルの新しい風を久々に感じた取材でした。(山蔭)
■スタッフ
企画・編集
株式会社ショーエイベストコーポレーション
編集長
山蔭ヒラク(ショーエイベスト)
ライター
工藤拓路(ショーエイベスト)
金井直子(ショーエイベスト)
写真
岩西信二(JPS)
アートディレクター
高谷朋世(キューブデザイン)
印刷
昭英印刷株式会社
■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2013年9月30日発行
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