職人一人ひとりが動力を持った“新幹線型の会社”へ
※この記事は、2022年4月15日に取材した内容です。
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■偏らない受託で技術を蓄積し、さらなる顧客を呼ぶ
プラスチック射出成形用金型の設計、製作、試作のテスト成形まで行う山善金型。
中国の協力会社とも連携し、コストやその他の要望にもきめ細かく対応しながら、質の高い金型を製作している。
「半導体製造装置部品など、精密機器に関わる分野からのお引き合いが多いですね。非常に厳しい公差を要求されますが、そうした仕事も対応できるのが当社の強みです」と語る山下 氏。
とは言え先代からの方針で、決まった業界に偏らず幅広く仕事を受託している。
家電製品、自動車関係、日用雑貨と多岐にわたる業界と取引があり、それぞれの金型製作に関するノウハウを蓄積している。
その歴史、ノウハウがあるからこそ、業界を選り好みせずに受託でき、顧客の紹介で新たな引き合いも生まれている。
「声をかけてくださる顧客の望みを叶える。そのスタイルはそのまま残っています。利益率のいい業界に絞った方がいいという考え方もあるでしょう。しかし業界を問わず、私たちの技術を求めてくださる顧客に応えたいという想いで続けています」
現在取引のある企業は50 社ほど。
偏りのない取引が、さらに多くの顧客を引き寄せている。
また、ある業界が落ち込んでも別の業界が伸びるといった具合にバランスが取れ、経営の安定にも作用しているようだ。
■バツからマルへ。コツコツと変容を促し、活気ある会社に。
山下氏が経営を引き継いだのは2019 年。
それまで一社員として20 年間勤めてきた中で、ある想いを抱いていた。
「先代は自身が先頭に立って引っ張っていき、社員が後に連なる、言わば蒸気機関車のようなスタイルでした。しかしそのままでは時代の変化について行けないのではないか。そのために、社員それぞれが考え、動ける組織にしたいと考えていました。先頭車両の動力だけでなく、各車両が動力を持ち走る新幹線のような組織が理想です」
また当時は若い社員の離職率が高く、そのことにも危機感を抱いていたという。
「現場は眉間にシワを寄せた、バツ印のような表情の職人が多かった。職人とはそういうものというイメージもあり、重い雰囲気の職場のままでは若い人が定着しない。もっとマルを増やさないといけないと考え、改革に着手しました」
自分たちの会社という意識を高めるため、毎週社員で工場内を清掃し、3S活動サークルも立ち上げた。
以前は一切なかったミーティングを毎日行い、各セクションでこまめに打ち合わせの場を設けることで、上司と部下の対話の機会を増やした。
またミーティングの際、毎週1 回、一人ずつ自由にテーマを決めてスピーチをするという取り組みも始めた。
「職人は、若い社員が言いに来てくれたらいくらでも手を貸すとは言いますが、バツのままだと近寄り難いですよね。でもミーティングやスピーチを重ねることで互いを知り、そこから信頼関係が生まれて、コミュニケーションもとりやすくなったようです。スピーチなんて仕事には関係ないことですから、私自身、効果があるか確信を持てないまま続けていましたが、確かに効果はありました」
山下 氏に代替わりして以降、5名の若手社員が入社し、定着している。
若手が増えたことで、中堅層の役割も変わる。
次代の中核、牽引役としての成長を期待し、新たに30 代の社員を工場長に任命した。
一方で前工場長には従来の業務と同時に後進の指導を担ってもらい、育成と技術の継承がシステムとして上手く回るようになった。
■目標と役割の明確化でチャレンジマインドが萌芽する
山下氏は若手社員から3年後、5年後の将来像を聞き出し、面談する取り組みを始めた。
「技術志向なのか、管理職志向なのか。技術なら具体的に何を習得したいのか。直属の上司の意見も交えて検討し、できるだけ本人の意向に沿えるようにしています」
適正判断を加味しながら具体的な目標を見据え、なりたい自分になるためのステップを後押しする。
「まだ始めたばかりで結果は出ていませんが、明らかに若手の熱意を感じます。熱意があれば必ず伸びるはず。これからが楽しみですね」
山善金型は『ひとりのヒーローにあらず、チームがヒーローに』というスローガンを掲げている。
この“ヒーロー”から着想を得て、6名の社員から成る“山善レンジャー”というチームを立ち上げた。
「ベテランの技術は会社の資産です。それをバージョンアップして次世代に継承するのが山善レンジャーの使命。また彼らが会社の中心的な人材として育ってほしいという想いと、遊び心もあって作ってみました」
さらにYouTubeチャンネルを立ち上げ、広報活動にも取り組み始めた。
これらは製造現場の社員が発案したもの。
社員各々が考え、動力を持ち、ひた走る理想の組織に近づいて来ているようだ。
今後は新しい仕事へのチャレンジを構想していると語る山下 氏。
「まだ模索している段階ですが、社員からは自分も携わりたい、責任者になりたいと積極的な声が挙がっており、とても心強いです」
山善金型の2022 年のテーマは『町工場から企業へ』
強い会社になることで、顧客に頼られる存在になりたいという想いが込められている。
強い会社、組織に変貌するためには、社員一人ひとりの力が必須だ。
だがすでに山下氏の取り組みで社員の積極性、チャレンジマインドは磨かれている。
各々が動力を積み、走り始めた山善金型。
想い描く未来に到着する日が、もうすぐ見えてくるだろう。
■MOBIO担当者 村井のコメント
金型製作をする企業が、減少している昨今ですが、ベテラン技術社員と若手社員がうまく繋がって、加工精度にこだわり続けている同社。
会社の中心人物となる中堅・若手社員などの声を吸い上げ、活かし、改革の手綱は緩めずに、“チームがヒーローに”と邁進されている山下社長。
普段は物静かだが、お客様に頼られ喜んでいただける会社へと、熱く多くを語っていただきました。
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