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【MOOV,8cases】大阪のものづくりの今を知る、8ケース

※この記事は、2012年12月28日に発行された内容です。


下町のちょっとした感動ネタから、ここにしかないスゴ技、
人が集まりコラボが加速する場所まで大阪のものづくりの今を知る、
8ケース。

■チタンで世の中の『当たり前』を変え、世界中の人々の幸せに貢献したい!

<Case1:技>
株式会社ティグ(東大阪市川田4-1-32)

プラントパーツをはじめとしたチタン製加工品、さらにはチタン製車イスや自転車フレームの製造を行う株式会社ティグ。
同社はチタンの溶接技術、中でもチタンパイプの溶接構造体の製造に強みを持つ会社だ。
チタン専門の溶接加工で創業し、チタン製の熱交換器を開発した。
その後も消防隊が使用するチタン製梯子をOEMで製造するなど、さまざまな加工品を製造してきた。
実は1998年に開催された長野オリンピックの聖火台も、ティグの手によるものだ。

まさにチタンのプロフェッショナルと呼ぶにふさわしい同社だが、1995年頃に創業者であり代表取締役の小澤 隆治 氏の「軽さや強度といったチタンの良さをもっと知ってほしい」という想いから、フルオーダーのチタン製車イスやチタン製自転車フレームの製造に取り組み始めた。

これらはハンドメイドによるセミオーダー、もしくはフルオーダーによる受注生産方式をとっている。
そのため、本社近くに同社の製品に触れたり、試乗できるショールームを開設した。

「製品自体の軽さや乗り心地はもちろんですが、動き出しの軽さやチタン製の車イスや自転車が備えているメリットを理解していただくには、実際に試乗して体感してもらうのが一番良い方法なんですよ。また体に合わせて調整するための場所、さらにはお客様から商品に対する生の声をいただける場を作りたいという想いもありました」とマネージャーの小澤 隆一 氏。

現在、日本国内でチタンの自転車フレームを製造しているのが、パナソニックとティグだけという点からも、その技術の高さやチタンに対する思い入れの深さがうかがえる。

「チタンは地球上の実用金属資源としては4番目に位置するほど、豊富な埋蔵量がありますし、多彩な価値を備えています。しかも、産業材としてのチタン加工の歴史は、わずか50年ほどなんです。例えば、自動車は発明されてから150年ほどなのですが、現在まで驚くほどの進化を遂げてきましたよね。それと比較すれば、チタンはとんでもなく大きな可能性を秘めた素材だと思うんですよ(笑)」と語る隆一 氏。

現在は企画、設計、加工、組立に至るまでトータルな生産体制を構築し、ほぼすべての製品を自社製造している。
しかしながら、今後は産学連携や異なる強みを持つ企業とコラボレーションすることで、チタンという素材にこだわりながらも作り出す商品の幅を広げていきたいと考えている。

具体的には対強酸性や耐強アルカリ性、人体との親和性が高く溶出しにくいといった、チタンの特性を生かせる食品産業や製薬産業などがターゲットになる。

「微力ではありますが、チタン業界全体を活気づけるお手伝いをしたい。今は高価な素材ですが、さらに普及させることで世の中の当たり前を変えていく素材になると信じています。さらにチタン製車イスや自転車のような、くらしに直結したチタン製品を新たに開発して人々の生活を豊かにしたいですね」

■社員一丸で日本最強工場をめざし、100年企業となるべく邁進する!

<Case2:人>
新庄金属工業グループ 新庄金属工業株式会社(東大阪市高井田中2-3-26)

携帯電話や自動車部品などに使われる特殊合金加工や精密切削加工などを行う新庄金属工業株式会社。
年間3,000アイテム以上の加工部品を数十個から数万個の単位で生産する多品種少量生産が強みだ。

同社では、3交代制で工場を24時間365日休みなく稼働させている。
「当社では生産拠点を海外に移すつもりは全くありません。そこで、どうすれば日本国内でものづくりを継続できるのかを考えて導き出したのが、会社が持つ設備や能力をフルに発揮する24時間365日稼慟だったんです。儲けるためじゃなく、会社や社員が日本でものづくりを続けるための道標であり、そのベクトルが“日本最強工場”というキーワードに集約されているんですよ」と語る代表取締役の益山 利二 氏。

そのための設備投資は惜しまず、常に最新の機械を導入して、社員の技術がフルに具現化される環境を整えている。

「社員が無理することなく24時間365日稼働できる仕組みを構築しているのも、当社の技術のひとつだと考えています」と語るのは専務取締役の益山 慶三 氏。

いかにマンパワーをかけずに24時間連続稼働を実現し、なおかつ高品質な製品を作り続けるか、そこが同社
にとって一番のノウハウといっても過言ではないそうだ。

新庄金属工業では“顧客満足はまず従業員満足から”を実践しており、社員は規定の休日をきちんと消化しているほか、社内クラブ活動も盛んで、社内勉強会などにも積極的に参加する。

こうした環境を構築するために、経営者である二人が取り組んだのは『すべてを社員にきちんと説明して情報開示する』こと。
価格勝負ではなく技術で勝負するには社員のモチベーションが必要で、その源泉のひとつが“情報”なのだ。

「自分が作る部品がどんな製品のどこに使われるのかに始まり、会社の売上や利益といった経営情報まで包み隠さず伝えます。もちろん24時間365日稼慟の必要性についても、社員が理解するまでとことん説明しました。それが絆を生み、会社を前進させるんですよ」と利二 氏。

また技術を成長させるためには失敗が必要だという。

「初めての挑戦を重ねないと技術を成長させることはできません。そして初めての挑戦につきものなのが失敗ですから、失敗は成功のきっかけということですよね。そう考えると、失敗は成功の兄弟のようなもので
すね(笑)。だから小さな失敗は全然問題ない。それよりも失敗を恐れて何もしないことの方が問題です。“成功”の反対語は“失敗”ではなく“何もしないこと”なんです」と慶三 氏。

2012年はちょうど創業50年に当たるが、二人がめざすのは『100年企業』だ。

「我々は、先代から引き継いだこの会社を次世代に引き継ぐためのリレー走者だと思っています。我々は100年目を見られないかもしれませんが、次世代のメンバーがより良い状態で100年目を迎えられるように、最大限の努力をしていきたいですね」

■高速道路や橋の継ぎ目には、技術の粋が詰まっている。

<Case3:技>
ミカサ金属株式会社(泉北郡忠岡町新浜2-6-11)

橋梁の継ぎ目に埋め込まれる『伸縮装置』を製造するミカサ金属株式会社。
多数の溶接部分があっても組み立て完成時の熱歪みを数mmに抑える高度な技術を強みに、多くの導入実績を誇る。
もともと鋼構造物の加工で起業したが橋梁で最も製作手間を要する伸縮装置の加工を手掛けることとなった。
その後、図面の原寸作業(型取り)の自動化、設計、非排水装置と事業領域が広がっていき、伸縮装置の一貫生産が可能となった。
「他社に勝てるコスト力や技術力とチャレンジ精神がないと生き残れません」と課長の下川 博史 氏。
さらに「梧梁や道路などで培った技術を公共事業以外にも活かしたい」という代表取締役の田仲 正明 氏の言葉通り、新たなチャレンジも始まっている。
そのひとつがマンホールの蓋の滑り止め加工だ。
これは独自開発した伸縮装置上でのスリップを防ぐ溶射技術を活用しており、大阪府の助成金事業にも採択された。
今後も主力事業の技術を生かせる新事業に挑戦し続ける。

平成23年度ものづくりイノベーション支援プロジェクト認定

■ロボットを通じて、八尾の「お茶の水博士」を育てたい!

<Case4:技>
マテック八尾(八尾市曙町1-54 株式会社関西クラウン工業社内)

八尾市内のものづくり企業を中心とした交流会『マテック八尾』
結成当初は共同受注を目指していたが、メンバーの「ロボットとか面白いんちゃう?」というひとことからロボット開発が始まった。
奈良工業高等専門学校との出会いをきっかけに活動が本格化し、マテック八尾がハード、奈良高専がソフトを担当して、オリジナル体験学習教材ロボット『マテック君』を開発。
この頃からロボットを通じた子どもたちとの交流活動が始まり、小中学校での出前授業は、恒例行事となった。
2008年からは八尾ロボットフェア(ロボットコンテスト)を主催し、2011年には小学生が描いた絵のロボットを実際に製作する「子ども夢実現プロジェクト」から『RURO』が誕生。
代表幹事の福田 吉宏 氏は「活動を通じて、八尾市がものづくりの街であることを知ってもらい、興味を持ってもらえれば最高です」と語る。
活動が活発化するにつれて、メンバー間でのビジネスも増えており、交流会の新スタイルとなるかもしれない。

■学校教材から製本機器まで、多品種少量生産技術を極める!

<Case5:人>
さくら精機株式会社(八尾市楠根町2-61)

「自分たちでも、どんな会社かを説明するのが難しいんですよ」と笑うのは、さくら精機株式会社 代表取締役の村本 順三 氏。
内田洋行のOEM商品として、学校用理科実験教材からオフィス用品、製本関連機器など、1,200種類以上の商品を開発・製造しており、多品種少量生産の技術とノウハウを蓄積している。
「木製が当たり前だった黒板を初めてアルミ枠とスチールで作ったのは当社なんです」と語る村本 氏が、現在最も力を入れている事業が印刷・製本機器事業。
印刷後の用紙のカットや折り目、ミシン目の加工が1台でできる加工機『AeroCut4(quatro)』は、ハード面に加えて制御ソフトや電機系までを自社で開発・製造している。
そうした技術やノウハウを蓄積できているのは、開発・設計スタッフが製造に関する知識が豊宮で、商品をほぼすべて自社製造しているから。
「数量が売れないと思う究極的にニッチな分野に当社のビジネスチャンスがある」という言葉に、多品種少量生産技術に対する自信を見た。

平成23年度ものづくりイノベーション支援プロジェクト認定

■フォトエッチングで精密、超量産の型抜き加工を可能に

<Case6:技>
株式会社エス・ジー・ケィ(和泉市テクノステージ3-7-1)

金属板に穴を開ける加工法に、写真原版のパターンに沿って化学処理で金属を腐食させるフォトエッチングがある。
物理的に型を抜くプレス加工と異なり、バリやゆがみが生じないのが特徴。
「パターン通りの精密かつ複雑なデザインが可能で、ミクロン単位の薄物でとくに強みを発揮する」と営業部営業課課長の矢口 裕隆 氏。
加工時、金属表面全体に均ーに露光を当てなければならず、従来は小物の加工しか対応できなかったが、シャープの65型「AQUOS」向け大型スピーカー用カバー向けに大物を加工できる技術を開発。
1,600ミリ×100ミリの金属に直径0.6ミリの穴を約30万個開けることに成功した。
大型金属の中に同じパターンを繰り返し、後工程で切り離すことで小物の量産にも対応可能となり、ある家電製品の仕事では日産120万枚の加工を一手に引き受けた。
「低コストで超量産の加工ならフォトエッチングに勝る加工はない」と、今後は家電のほか医療、エネルギー製品分野の開拓を進めていこうとしている。

■付加価値の高いデザインで圧倒的な差別化を実現

<Case7:技>
長谷川工業株式会社(大阪市西区江戸堀2-1-1江戸堀センタービル14階)

梯子、脚立、高所作業台の専用メーカー長谷川工業株式会社。
現場作業に利用される業務用製品で成長してきたが、業界内では製品の没個性化や価格競争が進み、「利益が出ない」状況に陥った。
営業利益を獲得するため、同社の理念でもある「付加価値商品」の開発を強化。
まずは徹底的に、ユーザーの声を分析した。
「脚立は家庭でも普及していますが、押入れ等に収納し必要時も取り出されることが少なく椅子を代用されがち」と、常務取締役マーケティング本部長の長谷川 義高 氏。
転倒事故も危惧し、一般向けの製品に着手。
「デザインも顧客へのアプローチのひとつ」との考えから、世界的な工業デザイナー、村田 智明 氏が主宰するメタフィスと共同開発した。
そして誕生したデザイン脚立「lucano(ルカーノ)」は、自立する設計や断面からの視覚性までこだわり、インテリアとしての機能美を実現。
「今後も、脚立や梯子を進化させ、世界中の人がワオ!と驚く製品を作りたいですね」

■高度な研磨技術と徹底した顧客管理が、ものづくりの現場を影で支える。

<Case8:人>
日研ツール株式会社(門真市四宮5-3-26)

自動車部品メーカーなどで使用される工作機械の刃先部を製造&再研磨する日研ツール株式会社。
製品は超硬合金をダイヤモンド砥石で削って作り出した、4~20mmほどの切削工具。
再研磨品は新品と同じ精度が必要であり、そのために工程ごとに加工図面を作り、その全図面を顧客情報とともにデータ管理している。
同時に、全国各地に営業所を設置して営業担当者を配置することで納期や仕様などに関するクライアントの細かな希望にも迅速に対応している。
「工具の品質が安定すれば、お客様の工場から生まれる製品の品質も安定します。革新技術の開発は不可欠ですが、それ以上に高品質な商品を安定供給するための技術開発や顧客管理、人材育成が重要。技術はお客様の信頼を支えるひとつの要素にすぎません」と竹内 耕二 取締役。
また、将来の展開をたずねると「中長期的には海外進出も視野に入れているが、国内にも切削工具を必要とする企業はまだまだ多い。自動車部品産業以外への供給にも挑戦してみたい」と意欲的だ。


■編集後記
本当に人のためになる「技術」とは、いったい誰がつくっているのだろうか。
いくつかの企業が連携して、製品が完成する。
ということは、「~のため」という想いが隅々まで伝わっていないと、最高の技術で、役に立つ製品ができるわけありません。
巻頭の鼎談では、下請けだけでは終わらない明確なビジョンを掲げ、実践している経営者に「技術のこだわり」について語っていただきました。
技術を高め、その技術をもって、強みを際立たせたコミュニケーションが可能になります。
一見簡単なようで、なかなかできない技だと思いました。(浅野)


■スタッフ
企画・編集
株式会社ファイコム

編集長
浅野 由裕(faycom)

写真
北尾 浩幸

アートディレクター
北村 竜司(CURRENT)

ライター
清野 礼子/中直 照/山口 裕史

印刷
有限会社山添


■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2012年12月28日発行


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