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【MOOV,8cases】大阪のものづくりの今を知る、8ケース
※この記事は、2013年3月29日に発行された内容です。
下町のちょっとした感動ネタから、ここにしかないスゴ技、
人が集まりコラボが加速する場所まで大阪のものづくりの今を知る、
8ケース。
■鋳造会社を率いるのは女性社長
物心両面でやる気促し、13期連続黒字。
<Case1:人>
辰巳工業株式会社(茨木市佐保48)
高温の炉で溶かした金属のことを業界では「湯」と呼ぶ。
取鍋(とりべ)と呼ばれるバケツ状の器に入れられた橙々色にたぎる湯は二人がかりで運ばれ、鋳型へと注ぎ込まれてポンプ部品などが形作られていく。
この苛烈なものづくりの現場を率いるのは、航空会社のキャビンアテンダントとして働いた経験も持つ社長の辰巳 施智子 氏。
100を超える材質ごとに注湯する日をあらかじめHP上で公開し、低コストで注文を受けられるようにしたカレンダー方式を採用するなど業界に常に新しい風を送り込んでいる。
辰巳 氏が社長に就任したのは13年前のこと。
それまで事務部門を統括していたが、債務超過に陥った窮状を見かね、「私に任せて」と研究肌の夫からバトンを引き継いだ。
それから1年は事務所に毛布を持ち込んで1日も休むことなく“再建”に当たった。
大みそか、こっそり出勤し、炉の修理に当たる社員を見て「この社員たちを守らねば」との思いを強くした。
急場をしのぐため給与は2回に分けて渡した。
不良品が出ると誰かに責任をかぶせようとする社員の意識を変えるため品質向上の会議を設け「なぜ?なぜ?を問う」習慣を浸透させた。
鋳造した製品が取引先の製品のどこに使われ、どこが評価されて選ばれているのかを伝えた。
大手企業の社長、工場長経験者、研究者など外部の人に協力を仰ぎ、知識と理論の教えを請い、現場で共有した。
初めはいぶかしげに辰巳 氏のことを見ていた社員たちの表情が見る間に変わっていった。
7%台だった不良品率は1%以下に改善。
3年後には累積損失を一掃させた。
辰巳 氏は「物心両面」の重要性を説く。
「お金が伴ってこそもっとがんばろうと思える。社員の努力によって得た利益をどう還元するかが大事」
仕事量が月間目標を超えると努力賞として全社員に一律1万円を渡した。
2003年からは利益に応じた決算賞与を毎期出すようにしたことに加え、各種手当を充実させていった。
例えば教育手当は、小学生1人に1万円、中学生2万円、高校生3万円を毎月支給する。
また、医療費の自己負担分3割の半分を会社が負担する。
「子どもにい教育を受けさせるのも健康でいられるのもいい会社にいるからと思って働いてもらいたい」と辰巳 氏。
年に3回行っている全社員との面談ではまず社員の長所を1人1人に伝えている。
自分が感じていることだけでなく、普段隣の席に座っている同僚や現場で一緒に働いている仲間にも聞いた上で伝える。
社員の間に信頼感が生まれ、組織が強固になるのを実感している。
新年度からは面談回数を年3回から5回へと増やすことに決めた。
累損を解消して以来、10期連続で黒字を計上中だ。
最近、囲碁を習い始めた。
「結果が出続けるとどうしても顆りが出る。あえてーから勉強する環境に身を置いて、社長を受け継いだ時の初心を忘れないようにしたい」
目標に掲げる「業界一の給与水準にするため」の取り組みはさらに続く。
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■社員一丸で日本最強工場をめざし、100年企業となるべく邁進する!
<Case2:技>
株式会社クニムネ(東大阪市高井田14-8)
プラスチックのインジェクション成形品を製造する株式会社クニムネ。
同社は1957年の創業以来、下請けメーカーとしてプラスチック成形品の製造を主体としてきた。
1990年代後半には、家庭用ゲーム機外装などの製造も担ってきたが、メーカーが海外生産にシフトしたことで一気に受注が縮小。
「下請けのままではいけない」との危機感が高まったという。
また、代表取締役の国宗 範彰 氏の子息が「プラスチックは環境に悪いと学校で教わった」との発言も事業内容を見つめ直すきっかけとなった。
そこで自然環境との共生・調和を考えた素材の研究開発に着目したのだ。
最初に手掛けたのは、ポリ乳酸を使用したバイオマスプラスチックの研究だ。
ポリ乳酸は、トウモロコシなどのでんぷんを原材料にしているため、貴重な化石資源を節約できる素材。
燃焼廃棄しなくても、土や海中の微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素に分解されて、自然界へと循環していくのが大きな特徴。
環境負荷の低減にも役に立つという。
ところがポリ乳酸は熱に弱い。
そのデメリットを克服するために耐熱性を付加したポリ乳酸の研究を2003年にスタートさせた。
従来は58度が脹界温度だったポリ乳酸が、120度まで耐えうる高耐熱性を実現した。
さらに、2007年には経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」、2009年には「中小企業製品開発補助
金」の認定を受けるなどして、リサイクルペットボトルを使ったプラスチックの開発や、一度の工程で二色の成形を可能とした成形機を導入するなど、新しい技術を次々と確立させていった。
そして、2012年からは技術力の高さが買われて、東大阪のモノづくり企業とプロダクトデザインの株式会社エイドとが協力してつくる雑貨ブランド「シンプルプラススタイル」にも参加。
クニムネがつくっているのは、PET樹脂やポリ乳酸を使用した食器だ。
百貨店などの催事でも販売し、好調な売れ行きとなった。
2013年2月に東京で開催されたギフトショーにも出展したところ、専門店バイヤーからも注目されたとのこと。
「これまで、法人営業のみだった私たちにとってお店のバイヤーの方々と商談できたことも良い経験となりました。価格交渉だけでなく、販売スキームやマーケティングについても考えさせられました」と語る、営業部の玉田 周平 氏。
同社の挑戦はさらに続く。
2012年1月27日には耐熱性成形法で特許を取得。
現在は、中小企業新事業活動促進法のもとで実施されている「新連携」を活用し、プラスチック商社と連携して蜂の巣の開発に取り組んでいる最中だ。
「公的な補助金や支援などを活用しながら、絶えず新しい技術を追求し、開発力を強化していきたい」と意気込むのは各種申請手続きを担う開発・技術部長の長澤 次男 氏。
「昔と同じことをやっていても、モチベーションは中々上がらない。目標を掲げてビシッとやっていきたいですね」
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■平面からの再現性、機能性を兼ね備えつつ、着ぐるみとしての可愛らしさを追求していく。
<Case3:人>
株式会社ふわふわ(茨木市清水1-34-12)
意外かもしれないが、大阪は洒ぐるみの一大生産地だという。
茨木市にある「株式会社ふわふわ」もそのひとつ。
代表取締役の大辻 真弓 氏が着ぐるみの制作とイベント用遊具のレンタルを二本柱に同社を設立したのは13年前。
着ぐるみづくりで大切なことは、原画を忠実に再現すること、そして動きやすさだという。
「原画だと足が全然見えないようなキャラクターもあるのですが、それだと歩行が困難なので、イメージを壊さないようにデフォルメして歩けるように変更しています」
さらに手の位置の調整や重量の軽減、熱中症対策として通気孔をとったり。
最近では送風機を内蔵し、空気で膨らむエアー着ぐるみも扱う。
この業界も空前のゆるキャラブームで新規参入も増え、価格競争も生まれて悩んだ時期もあった。
だがクォリティを保つためには、今まで通りこだわりを貫こうという結論に至った。
「私たちは可愛らしさと機能性•安全性を追求しています。着ぐるみ1体ずつ愛情とプライドを持って送り出していきたいです」
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中:熊取町役場ジャンプ君
右:関空展望ホールスカイビュー ブービィ
■精巧に複製する高い技術力で、新市場を創造する。
<Case4:技>
株式会社ユウビ造形(東大阪市今米1-18-15)
ウレタン注型や加工、シリコーンでの樹脂造形などを行う株式会社ユウビ造形。
観賞用フィギュアをはじめ、治具、ロボットなど様々なジャンルの仕事を手がける。
代表取締役の森田 寿一 氏は「ジャンルは関係ない。当社が狙う市場は、1個だけ作る試作と数千個作る大量生産の間、つまり100~500個ほどの『中ロット』の樹脂製品製造」と語る。
樹脂成形における中ロットの製造は金型を要するためにコスト面から困難とされていたが、ユウビ造形はそれを可能にした。
そのため、仕事の多くは単に製品を作るだけではなく、素材選びや生産方法を模索するところから始まる。
「多品種小ロットが進めば、中ロットのニーズも高まり、市場として形成されるでしょう」と語る。
神戸大学との医工連携で開発された手術訓練用脳モデルでは、臓器や骨といった異なる質感を素材のブレンドのみで精巧に表現するなど、最先端分野でも認められる技術力を武器に、新市場の創造をめざす。
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■柔らかい素材を切る!『裁断機のドクター』
<Case5:技>
サプリナ株式会社(泉北郡忠岡町高月南3-14-6)
「布のような柔らかい素材を切る、簡単に見えて意外と難しいんですよ」と笑うのはサプリナ株式会社の代表取締役 川島 淳 氏。
創業以来40年の歴史の中で、下請け製造や自社製品開発、海外輸出など、あらゆる裁断機ビジネスに携わり、現在はオーダーメード裁断機の製造・販売がメインだ。
裁断する素材も時代の変化に伴って変化し、布やビニールはもちろん、皮革、不織布、最近では航空部品に使われる炭素繊維やスポンジケブラーなど多岐にわたる。
しかも素材や厚さが変われば切り方、さらにはその前後の工程もまったく変わり、蓄積したノウハウは、次に製造する裁断機に注がれていく。
「返品ができないオーダーメード製品は、常にお客様が期待する以上の製品を作り、納得いただけるまでフォローする必要がある、まさにメーカーの
矜持が試される仕事です」と川島 氏。
常に切りたい素材や用途などを問診し、処方箋として最適な機械を提案する『裁断機のドクター』と言える。
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■『当然』を受け入れず、技術革新に挑戦。
<Case6:技>
関西オートメイション株式会社(大阪市北区兎我野町2-14)
粉体、粒体、液体の容積や体積を測定するレベルスイッチのメーカー、関西オートメイション。
設置先の諸条件に合わせて設計・製造の必要がある粉体計測用レベルスイッチのオーダーメイドが強み。
新製品『スイングマスター』は、モーターではなく電気的に駆動力を生み出す電子回路部と測定用羽根部を隔壁で完全分離しながらも、磁カで動きを伝達して測定用の羽根を動かすという振り子式レベルスイッチだ。
「粉体がセンサーのアンプ内部に入り込んで動作不良を起こすトラブルは、粉体レベルスイッチの宿命と考えられてきました。しかし、その宿命を当然のことと受け入れずに変えたかった」と語る代表取締役の宮坂 典央 氏。
そこで、同社の技術部スタッフに大手企業を定年退職した技術者を開発メンバーに加えて『スイングマス
ター』を開発した。
「製品寿命が延び、メンテナンス回数や使用電力も低減できた。今後も粉体計測のエキスパートとして製品改良技術を高め続けたい」
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■新しい技術開発&技術進化こそが、中小企業が生き残る道と信じる。
<Case7:技>
株式会社オカノブラスト(堺市中区東山648)
精密ショットピーニング、精密ラッピングなど、金属表面加工処理が専門の株式会社オカノブラスト。
精密ショットピーニングとは、金属製品の表面に微粒子を高速衝突させて金属の疲労強度を高めたり摩擦抵抗を低減する表面改質技術だ。
専務取締役の岡野 俊之 氏は「精密ショットピーニング加工の納品先で、鏡面仕上げである精密ラッピングのニーズを感じていた」と、精密ラッピングの導入を決めた。
現在は精密ショットピーニングと精密ラッピングを複合させ、独自の加工ノウハウを蓄積している。
「モノが高精度かつ小型化すれば、部品寿命にスポットが当たる。すると部品寿命を延ばす効果を持つ当社の加工技術のニーズがさらに高まるでしょうね」と代表取締役の岡野 俊博 氏。
実際に小型軽量化と高耐久性の両立を追求する自動車やバイクのレース業界からも注目されている。
「他社ではできない加工技術を追求し続けます」という俊之 氏の言葉に、技術力で生き抜く中小企業の底力を感じた。
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■変化を恐れない、変える勇気を持ってオンリーワンのものづくりをしていく。
<Case8:技>
ジャパンポーレックス株式会社(箕面市萱野1-1-28)
精緻を極めたセラミックの刃。
その美しい造形もさることながら、扱う食材の特性にあわせて、刃の形、設計を変え、素材の良さを損なうこ
となく削る、すぐれた機能を持つ。
ジャパンポーレックスは独自の特殊な成型方法により、精巧なセラミック製品を開発している会社だ。
代表取締役の上岡 佳世子 氏が、いつも社員に言うのは「変えることを恐れない」ということ。
「ものづくりの方向性を変えていくにはポイントを定め、ブレずに進むことが大切。そして間違った時には、すぐ動ける体制をつくっていくこと。そう言いつつ私自身、山ほど失敗していますけど(笑)」
だからこそ常に最悪の事態を想定したシミュレーションをして動く。
「経営者にとって“想定外”という言葉は許されないんです」
開発の苦しみも醍醐味も味わいたいと、上岡 氏もみずから商品開発に参加する。
「社員は本当に可愛い。何かあったら彼らの顔が浮かびますし。この人たちがいるから、交渉事でも絶対に譲らないと強く出られるんです」
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■編集後記
企業グループをつくって企業連携を見える化する。
巻頭特集の大阪ケイオスは見える化した上に法人化も実現。
企業同士の関係性が強い一方で、車業の意思決定のゆるさというか柔軟さを大切にする風土があります。
しかも発言は自由、実現するプロセスも自由という、実に大阪らしい取組みで経営者達がひとつになっている。
そういう「大阪らしいつながり」を拡げて企業同士の壁を取り払い、大阪ケイオスみたいな付合いが大阪全域でできれば、新規事業・販路開拓がもっと加速するのではないでしょうか。(浅野)
■スタッフ
企画・編集
株式会社ファイコム
編集長
浅野 由裕(faycom)
写真
北尾 浩幸
アートディレクター
北村 竜司(CURRENT)
ライター
清野 礼子/中直 照/町田 佳子/山口 裕史
印刷
有限会社山添
■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
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【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2013年3月29日発行
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