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【MOOV,8cases】大阪のものづくりの今を知る、8ケース

※この記事は、2012年3月30日に発行された内容です。


下町のちょっとした感動ネタから、ここにしかないスゴ技、
人が集まりコラボが加速する場所まで大阪のものづくりの今を知る、
8ケース。

■得意分野を束ね、日本のものづくりを世界へ

<Case1:技>
ゼネラルプロダクション株式会社(京都府相楽郡精華町光台1-7)

社名に表されている通り、ゼネラルプロダクションがめざすのはものづくり版“ゼネコン”だ。
ゼネプロが受注窓口となって設計を行い、生産は鍛造、切削、熱処理、
表面処理などの工程ごとに100社を超える企業の中から技術力、コストを見極め割り振り、強みを束ねる。

受注しても一貫した品質管理や各企業への支払いなどで壁に突き当たる共同受注会社と違うのは「ゼネプロがすべての責任体制を負っていること」と、石崎 義公 社長。
生産工程を管理するスタッフを置き、QCD(品質、コスト、物流)を踏まえた各企業への指示を行い、各企業に短期で支払いをできるようにしている。

「ボランティア社長」として慟く気持ちを後押ししているのが「日本のものづくりに対する危機感」だ。
石崎社長が東大阪で29歳の時に創業した株式会社タカコが挑んだのはヨーロッパの技術を基にした高圧ポンプの量産化だった。
東大阪に集積する町工場を束ねファブレスでものづくりを行った。

だが製品を大手企業に売り込もうとしても門前払いの連続。
「最後の勝負」でドイツ・ハノーバーの見本市に出展するとボルボやボッシュなど大手企業から引き合いが来た。
以来、キャッチアップしてくる世界の企業を「工法開発」で突き放し、気がつけば競合はいなくなっていた。

現在は米国、ベトナムにも生産拠点を構え、売上の85%を海外が占める。
海外企業と長年取引をする中で、日本のものづくりについて「海外勢には真似のできない技術を持ちながら、単工程しか担えない会社が多いこと」に気づいた。

さらにそうした会社がアジア資本に買収され、根こそぎ技術と設備を持っていかれる状況を目の当たりにし「だれが日本のものづくりを守るのか」と有志とゼネプロを立ち上げた。

2011年1月のキックオフ以降、ドイツやインドネシアの見本市に出展するなどして海外向けPRに努めてきた。
米国からは海水淡水化ポンプ、モーターの受注を獲得した。
「試作段階から量産まで見越した設計ができるのは日本だけ」と評価をもらった。

創業から1年余りが経過し、プロデュースカが着目され国内での大きな契約も見えてきた。
今後は、参加企業同士の交流会なども開き束ねる力をさらに強めていく考えだ。

■骨伝導技術で世界中に喜びの笑顔を広げたい

<Case2:人>
ゴールデンダンス株式会社(大阪市城東区古市3-22-19)

「骨」で音を聴く「骨伝導」という技術をご存じだろうか。
「騒音下でも音が聴き取りやすい」「鼓膜のダメージを軽減できる」などのメリットがあるという。
そんな骨伝導技術の研究と関連製品の開発を行っているのがゴールデンダンス株式会社だ。
起業前はごく普通の主婦だった代表取締役の中谷 明子 氏に、骨伝導事業に携わることになったきっかけをたずねた。

「とある展示会で骨伝導技術に出会い、『これを社会に広めることで、多くの人に喜んでいただけるんじゃないだろうか。夫婦で素晴らしい骨伝導技術を広める仕事をしよう』と、夫婦二人で骨伝導製品の販売代理店をはじめたんです」

販売代理店を始めて、骨伝導技術の可能性を改めて感じた二人。
だが、その可能性をさらに広げるには、自分たちで商品を開発することが必要だと感じ、骨伝導製品を開発・販売する会社を立ち上げた。

そして独学で骨伝導技術を学びながら自社製品の開発に没頭し、ついには大手メーカーも成しえなかった省電力化、高音質化を実現し、さらに音楽が聴ける骨伝導ヘッドホンの開発にも成功した。

革新的な技術開発力の秘密を中谷 氏にたずねると、
「我々は素人だった分、既成概念がありませんでした。過去の経験則にとらわれな
い発想と、お客様に喜んでいただきたいという信念、その二つがあったからこそ小さな会社が新しい技術を生み出すことができたのだと思います」

近年は、NHKや防衛省などに製品を納入するとともに、大手自動車メーカーとの共同開発にも参画。
さらに、展示会に出展すれば、ブーズ前は常に人だかりが絶えないほどの賑わいを見せ、世界中から注目が集まっている。

この点からも、ゴールデンダンスの骨伝導技術がいかに革新的で可能性に満ちているかがわかる。

「色々と大変な時期はありましたが多くの方の喜びの声に支えられて今があります。常に『人のために役に立ちたい』という気持ちが
大切なのだ、と社員には話しています」

通信をはじめ福祉、音楽、自動車など、様々なジャンルにおいて骨伝導技術は世の中を変える無限の可能性を秘めている。

『骨伝導で喜んでいただける人を世界中に増やしたい』という中谷 氏の夢が叶う瞬間は確実に近づいている。

■地元企業×市民のタッグで永続的な町おこし活動を

<Case3:場>
きしわだ木綿物語プロジェクト「夢つむぎ会」事務局
辰巳織布株式会社内(岸和田市上松町273)

繊維の町として歴史ある岸和田では、綿花栽培による地域振興活動が盛んだ。

はじまりは1996年。
「綿花栽培を軸に町おこしを」と、木村 廣 氏を中心に市民が「きしわたの会」を発足し、綿花栽培を開始。
その綿を大正紡績株式会社に紡糸を依頼し、辰巳織布株式会社など地元企業の協力を得て織布や靴下、Tシャツ
など綿製品の製造にも取り組んだ。

そして2004年には、活動に共感した辰巳織布の会長 辰巳 美績 氏ほか地元企業が集まり「夢つむぎ会」を設立。
「きしわだ木綿物語プロジェクト」という名称のもと企業と市民が共同で、綿製品の製造・販売フェアやシンポジウムなどを開催している。

辰巳 氏は「地域振興活動を企業と市民が一緒に行うのは全国的にも珍しいこと。うまく連携を取りながら、今後も永続的に活動していきたいですね」と語った。

■流体攪拌のグローパルブランドをめざして

<Case4:技>
プライミクス株式会社(大阪市福島区海老江8-16-43)

さまざまなものづくりにおいて「攪拌」のプロセスは欠かせない。

中でも流体向けの高速攪拌機を得意とする、96年に発売した「フィルミックス」では新しい概念の羽根を採用し、ナノサイズの粒径を均ーに分散、微粉化させることを可能にした。
リチウムイオン電池のスラリー(活物質粒子を溶液に混ぜた流動体)製造用としても使われ輸出も増やしている。

社員による改善活動「困難でいいんかい活動」、タケカワユキヒデさんの作曲による社歌づくり、1組5人でマヨネーズのでき栄えを競い合う優勝賞金100万円の「攪拌マイスター選手権」の開催など社員の愛社心、やる気を引き出す活動にも積極的。

こういった独自の技術や取り組みが評価され「関西経営品質賞」も受賞している。
蝶ネクタイ姿がトレードマークの古市尚社長は「会社への愛麓が業務へのやりがいを生み、顧客満足を生みだす」との信念で「PRIMIX」を世界ブランドに育てていこうとしている。

■“未来の担い手”に託すものづくりへの情熱

<Case5:人>
株式会社大阪工作所(東大阪市中野南1-34)

大阪では数少ない川崎重工業航空宇宙カンパニー認定工場として、航空機のドア金具や機体を支える梁などを製造する大阪工作所。
工場には高度なプログラミングを必要とする最新鋭の機械が並ぶなか、半世紀前の手動で操作する機械も置かれている。

「かつては、人間の感覚で数ミクロン単位の品質を実現した。ものづくりの根本を、こうした機械で若い人にも伝えていかなければ」と高田 克己 会長。

布施北高校のデュアルシステム実習も積極的に受け入れ、半年や1年単位で計画を立て、工場での作業体験や、名刺を持って社員の営業先に同行させるなど社を挙げて高校生を育てる。

実習風景は毎日写真に収め、終了時にアルバムにして渡す。
「いつか、彼らの中から東大阪のものづくりの担い手が出てきてくれたら」と期待を寄せる。

■炭再生紙で循環型社会を実現

<Case6:技>
山陽製紙株式会社(泉南市男里6-4-25)

古紙を再生し、包装・製袋用クレープ紙などを製造する山陽製紙。
梅の種やビールかすなどを炭化させて紙にすきこむ、炭再生紙事業を進めている。

「9年前、梅の産地・和歌山県みなべ町から出る梅の種を炭にして、紙にすきこめないか相談を受けたのがきっかけです。炭をいかに紙に定蒲させるか試行錯誤しました」と原田 六次郎 社長。

紙にすきこむベストな炭の形状と割合をつかむまで4年の月日を費やし、独自の製法を確立した。
消臭や調湿といった炭の機能と、自由に加工できる紙の特性をもち合わせた炭再生紙は、靴の消臭脱湿シートやスーツカバーなどに使われている。

「今まで捨てられていたものが紙として生まれ変わる。紙づくりを通じて循環型社会の実現に貢献できれば」
同社が掲げる理念は高い。

■産学公の連携も、継続こそがチカラになる!

<Case7:場>
ひらかた地域産業クラスター研究会(枚方市車塚1-1-1輝きプラザきらら6F)

枚方地域を中心に産学公が一体となって、地域中小企業の技術カアップや新事業へのチャレンジをサポートする活動を行っている『ひらかた地域産業クラスター研究会』。
1か月に1回のペースで活動を行いながら多数の産学公連携実績を誇っている。

実績に結びつく活動の秘訣をうかがうと「究極の目標は中小企業が自社製品を開発する技術力を養うことですが、すぐに成果を求めていては長続きしません。まずは産学公がそれぞれの役割を果たし、継続的に活動することをめざす中で、多くの成果が生まれてきました」と、会長の佐々木 啓益 氏。

また、中小企業がいきなり単独で大学や公的機関を活用するのはハードルが高いとされるが、佐々木会長は「クラスター活動を通じて構築した人脈がそのハードルを下げてくれる」と語る。

情報発信にも力を注ぐという今後の活動から目が離せない。

■大阪が誇る地場産業の技術がドラマでも光る

<Case8:人>
大阪コートロープ株式会社(和泉市テクノステージ3-5-22)

大阪府下のワイヤーロープ事業所の全国シェアは約35%を誇る。
なかでも極細鋼線に特化した和泉市の大阪コートロープ社に、NHKから電話が入ったのは昨年末のことだ。

「中小企業を舞台にしたドラマ“タイトロープの女”のロケ地に、そちらの工場をお借りしたい」
電話を受けた加納川快明社長は社員への負担を考えたが現場から協力の申し出もあり、約2か月間のロケが始まった。

社員が役者に機械の扱い方を教え、加納川 氏は編集作業にまで立ち会い専門用語や技術に関して助言した。

2月に放映を終え、「自分たちの技術が客観視できましたね。ドラマにはわが社が開発した9ミクロンの超極細鋼線の製造技術も取り入れられ、社員のモチベーションもぐっと上がりました」と加納川 氏。

同社はいま、7ミクロンの世界に挑戦している。


■編集後記
祝!創刊号。
MOOV,pressがスタートしました。
大阪府全域を取材でまわり、経営者とお話をすると、ほとんどが明るくワクワクするようなお話ばかり。
これを共有しない手はないと強く感じました。
MOOV,pressでは「知る」そして「動く」さらに人を「槃ぐ」を加速するため、これからも変革と挑戦を続けていきます。
Facebookでも取材奮闘記を公開中。(浅野)


■スタッフ
企画・編集
株式会社ファイコム

編集長
浅野 由裕(faycom)

編集
杉田 順治(faycom)

アートディレクター
北村 竜司(CURRENT)

ライター
中 直照/野崎 泉/細山田 章子/山下 朋子/山口 裕史

印刷
有限会社山添


■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2012年3月30日発行


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